アリスドラッグ | ナノ


▼ 落つる星々、香しき花1



 結婚式から数日、落ち着いた日々を取り戻しつつあった椛は、付き人・モーゼスと共に「西の森」に来ていた。カイに会うためだ。ジークフリートと結婚し幸せを手に入れることができたのはほぼ全てカイのおかげといっても過言ではない。まだちゃんとお礼を言っていないことに気付いた椛は、彼と話したいと思い以前教えてもらった西の森に来たのである。



「へえ……シンデレラ様のことを舞踏会に誘ったのも、その魔法使いなんですか」

「ええ、とてもすごい魔法を使うんですよ!」

「いやあ……魔法使いが人間の前に姿を現すなんてねえ。シンデレラ様の美しさに魅入られたんでしょうかね! クラインシュタイン家以外の魔法使いって、ひっそりと身を潜めていることが多いですから。そんなに大それた魔法を使うこともできませんし」

「そうなんですか? 僕が出逢った魔法使いは……それはもうすごい魔法を使っていて。かぼちゃから馬車をつくってそれで空を駆けたり、何もないところから花束をだしたり……」

「そ、それはすごい……クラインシュタイン家の魔術に匹敵するレベルですね……いたんですね、そんなすごい魔法使い。クラインシュタイン家だけは特別で、他の魔法使いはみんなちっぽけな魔法しか使えないという認識でしたから……びっくりです」

「そんなにクラインシュタイン家の魔法ってすごいんですか?」

「魔法使いと名乗るものを統治する権限を持っていますから。昔、もうひとつ同じくらいのレベルの魔法使いの家系があったんですけど……まあ、きいた話ですけどその家系の魔法は邪道って言われていて、クラインシュタイン家がそいつらを退治したって言われています。それからクラインシュタイン家が魔法使い全体を纏める役目をもつようになりました」

「良い魔法使いが悪い魔法使いを蛙にしたっていう話ですね……へえ、クラインシュタイン家ってすごいんですね」



 静かな森の中をモーゼスと会話を重ねながら歩く。鬱蒼と茂っているのにこの森は獣の類の気配はなく、鳥の鳴き声が聞こえる程度である。西の森に来い、と言われたところで森は広い。この木々の生い茂る広い森のどこにカイがいるのかと、椛が頭を悩ませたとき。



「あっ……モーゼスさん!?」



 突然、モーゼスがぱたりと倒れてしまった。



「やあ、元気? 椛」

「……あ、カイ!」



 ぷつりと糸が切れたように地に伏してしまったモーゼスにおろおろとしている椛の耳に、懐かしい声。ひらひらと手を振って現れたのは、探していた男――カイだった。



「モーゼスさん。悪いけど、俺と君が一緒にいるところみられたくないから、寝ていてもらおうと思って。大丈夫、またすぐに起きるよ」

「寝てる……だけ?」

「さ、こっちにおいで。もう少し体を休められる場所があるから」

「あ、でも待って……モーゼスさんをこのままおいていくわけには……」

「ああ……大丈夫だよ、この森の狼は俺の客人を襲ったりはしない。そんなに心配なら……彼女にみていてもらおうか」

「彼女?」



 彼女、と言ってカイは上の方を指さした。そこには大きな木がそびえ立っていて、その枝に一羽の鳥がとまっている。



「ミスティ、彼のことをみていてくれるか。なにかあったらすぐに教えて」



 カイの呼びかけに応えるように、ミスティと呼ばれた鳥は胸をふくらませてピョロロ、と鳴いた。まるで会話をしているような光景に椛は驚いてカイににじり寄る。



「えっ……カイって動物と話せるんですか!?」

「俺を誰だと思っているの。魔法使い様だよ」




 カイはふ、と不敵に笑って椛に手を差し出した。きょとん、と目を瞠る椛に、カイはもう片方の手を胸に添え、軽く頭を下げて言う。



「お手を。お姫様」


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