▼ 刺が抜ける
「どんな汚い手段を使って王子を誑かしたのかと思ったけど……」
「……き、綺麗ね」
ジークフリートと椛の城内での結婚式が終わり、馬車にて二人が国を周回しているのをみた継母とジェシカは、ぎりぎりと悔しそうに美しく着飾った椛を見つめていた。椛の家族の三人が乗っているのは、ジークフリートと椛の馬車の後ろをついていくもうひとつの馬車。これでもかというくらいに国民に祝福され、幸せそうに笑っている椛の姿をみせつけられて、嫉妬心すらも薄れていってしまった。
「やっぱり心優しいシンデレラには、奇跡がおこるのね」
「アンナ?」
「王子がシンデレラを探す時に、不思議なブローチを使ったんでしょう? きっと、魔法でつくられたものなのよ! 素敵な奇跡が、シンデレラにプレゼントをくれたの」
にこにこと笑って話すアンナに、継母とジェシカはむーっとした視線を投げる。しかしやがて、はあ、と溜息をつくと自らを鼓舞するように逞しい声で言う。
「ま、まあ……これからシンデレラには優しくしてあげてもいいけどね!」
「謝ってやってもいいわよ!」
「ふん、シルヴィオ王子の気を引くためなんだからね!」
ツンツンと刺のある口調で言い合う二人を、アンナはくすくすと笑って見つめていた。
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