▼ 魔術師1
椛が城へきてから数日経った、式を挙げる日の朝。カーテンから差し込む光で目を覚ました椛は、のそりと布団から這って出る。足を床につけて立ち上がろうとしたとき、後ろからジークフリートが手を掴んできた。振り向けば、布団に潜ったままのジークフリートが微笑んでいた。
「早起きだな、シンデレラ」
「えっと……緊張しちゃって、あまり寝付けなかったんです」
「そんなに固くならなくていい……今日はおまえの美しさをみんなに見てつけてやればいいんだから」
ふ、と笑うとジークフリートも体を起こす。布団がずり落ちればその逞しい肉体があらわになって、何度も見ているというのに椛は顔を赤らめてしまった。
その体を見ると抱かれたいと思ってしまう。あの筋肉がついたしっかりとした体におさえつけられると、ひどく気持ちいいのだ。
手を引かれ、その体に抱きしめられる。しばらくキスをして、朝のぼんやりとした意識のなかふわふわとした熱を楽しんだあと、ジークフリートが椛の首筋に唇を這わす。「これから服を仕立ててもらうから、痕はつけないで」というと、しまったという風にジークフリートは苦笑した。
「あの……ジーク」
「ん?」
「城の敷地内に……教会ありますよね。ちょっと行ってみたいなあなんて思うんですけど」
「教会? ああ、いいよ。なんで?」
「いや……結婚式のまえに身を清めようかな、なんて」
この城に来た時から、椛は教会が気になってしょうがなかった。特に熱心に神を信じているというわけではないのだが、ここにある教会はとりわけ立派で、一度中に入ってみたいと思っていたのだ。せっかくの機会だし、今日いってみよう……そう思ったのである。
まだ城内の人々も起きてはいないだろう、まだ太陽が傾いて白く冷たい空。肌寒さを感じないようにローブを羽織り、椛は部屋をでて教会を目指した。
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