▼ エンドアンドスタート
「もう式をあげることは決まっているんだ」
その日の夜、ジークフリートは自らの寝室に椛を招いた。煌びやかな生活とは無縁だった椛は、城にきてから戸惑いっぱなし。しかし、夜になるころには慣れて、リラックスした状態で夜を迎えることができた。
ジークフリートの話によれば、ブローチの持ち主探しをすると決めたときから式を挙げるというのは決定していたらしい。いかに自分が椛のことを想いつづけたか、ということを熱弁されて、椛は終止顔を赤くしていた。
あの舞踏会は兄のシルヴィオが主催したものだったため、自分はあまり表に出ずに他の人が楽しんでいるところを眺める程度にしようと思ったが……一際目を引く美しさの椛に一瞬で一目惚れしてしまったのだとか。
自分の誘いにのってくれた嬉しさにすぐに手を出したのは申し訳ないと思っている、でも本当に好きでたまらなかった、許してほしい……そういったことをジークフリートは言っていた。
「あの……でも本当にいいんですか? 僕、男なのに王子の貴方と……」
「ああ、いいんだ。シンデレラのお母様にも言ったが……俺の役目は世継ぎを生むことじゃない。子作りは兄に頑張ってもらえば」
「……その、ジークの役目ってなんですか?」
「俺の役目?」
ベッドの上で肩を抱かれながら座り、二人は語らう。こうして寄り添っていると、随分と体格差があるなあなんて思いながら椛は彼の話を聞いていた。
「俺の役目は国を守ることかな」
「武術かなにか……得意なんですか?」
「……まあね」
どことなく語彙を濁らせてジークフリートは答えた。椛には国のことはよくわからない。あまり首をつっこまないのが賢明だと、それ以上追求はしなかった。
ぽつぽつと会話を重ね、ゆっくりとした時間を過ごす。そのなかでキスも何回か重ねたりして、次第に空気が蕩けていった。ジークフリートが椛を押し倒すと、その矮躯が柔らかなベッドに沈む。じっと至近距離で見下ろされ、椛は息が詰まるほどにどきどきしてしまった。
「……今日は、……最後までしていい?」
「……はい」
何度も思い出しては椛の熱を煽ったあの夜のことを思い出す。冷たい部屋で服も脱がずに触れ合った、あの記憶だけでも熱に浮かされてしまうというのに、セックスをしたらどうなってしまうのだろう……椛のなかに、これからの行為への期待が次々と湧き上がってくる。
ちゅ、とキスが降ってくる。そのまま舌をのばして、キスを深めて行く。
「ん……」
くちゅ、と水音が響いた。舌で咥内を掻き回されて熱が交わってゆく。手を伸ばし、ジークフリートの背を掴み、椛は必死に激しいキスに応えた。重なる吐息に身体中の熱をわき起こされて、下半身がむずむずしてくる。椛が内腿を擦らせるようにもじもじと脚を動かしだしたのに気付き、ジークフリートはゆっくりと手を服の中へ差し入れた。
「あ、う……」
体を起こし、火照って真っ赤になった椛を見下ろしたジークフリートは、意地悪そうに笑う。椛は恥ずかしくて手で顔を覆ったが、「だめ」とその手をどかされてしまった。
「シンデレラのここ……綺麗な色してる」
「ちょ、……やだ、恥ずかしいこと言わないで……」
「本当のことだ」
「あっ、待っ……あぁあっ……」
ぱく、と乳首を咥えられ、思わず椛は仰け反った。そこは敏感なところでもないのに、ジークフリートに触られると身体が熱くなってしまう。
ちろちろと乳首の先を舌で虐められると、下腹部のあたりがゾクゾクと甘い痺れに襲われる。声が勝手に漏れ出して、身体がくねってしまって、椛は縋り付くようにジークフリートの頭を抱えこんだ。
服を乱され、こうして身体を愛撫されるとひどくいやらしい気分になる。
こんなに自分ははしたない人間だったっけ……自分のものとは思えない甲高い声に、椛は恥じらいを覚えた。
しかし、ジークフリートに身体を開いていくことが気持ち良くて、椛は溢れ出る艶声を抑えはしなかった。次々と身体を纏う布を剥がされていって余すことなく肌を舐められる。つう、っとジークフリートの唇に撫ぜられるたびに身体は歓喜に震えた。
「あっ……だめ……」
たちあがったものをそっと握られた。ゆるゆるとしごかれて、じわじわと熱が溜まってゆく。思わず腰をひいてしまいそうになるが、ジークフリートの手は追いかけてきて快楽から逃げることはできない。椛はシーツを握りしめ、つま先に力を込め、必死に耐えた。こぼれた先走りでぬるぬるとしてくるのが恥ずかしくてたまらない。
「あっ……あぁあ……あ、」
「シンデレラ……気持ち良さそうだな」
「んっ……」
ジークフリートの指先に椛の先走りが絡められる。そしてその指はゆっくりと椛の後孔を撫でた。びくりと身じろいだ椛を、ジークフリートは静かに笑う。
「……男同士でするときはここ使うが……怖くないか?」
「……ちょっと」
「大丈夫だ……ちゃんと慣らすから……痛かったら言ってくれ」
指が孔の周囲をくるりと撫でる。そこを触られるとぞわぞわしてしまう。じわっとよくわからない感覚が生まれると共に、きゅっとそこが締まるのを椛自身感じた。くりくりとしつこく孔の周囲を弄られて、きゅんきゅんと奥のほうが疼いてしまう。
そこをこんな風に弄られたことも、性的に意識したこともない。それなのに、今は早くその指をいれてほしいと感じてしまう。ナカがぴくぴくと小さく痙攣して、快楽を欲しいている。
「いれるぞ」
「はい……」
つぷ、と秘めやかな音をたてて指がなかにはいってきた。狭いそこに、ぐっと押し広げられるような感覚がはしる。そのまま指が入り込んできて、根元までしっかりと咥えてしまった。
ゆっくりと指はピストンを繰り返し、椛のそこを徐々にほぐしていく。次第に圧迫感も薄れてきて、同時にじわじわと甘い電流が流れ始める。指の腹が椛のいいところにあたって、そこからじわりじわりと熱が広がっているのだ。
渦に引きずりこまれるような……そんな快楽の波。思わず腰が揺れてしまって、気づけばくねくねとおねだりをするように悶えていた。
「あぁ……ん、ふ、ぁ……」
「どう? ここ、気持ちいい?」
「……はい、……きも、ち……あぁ……」
指の本数は増えて行き、気付けば三本いれられていた。しつこいくらいにそこを慣らされ、椛のそこはとろとろにとかされてしまう。潤滑剤を使いながらほぐしたそこは、すっかり美味しそうに指を飲み込んで、きゅうきゅうと締め付けている。
もう気持ち良くて気持ち良くてたまらなかった。まさか、セックスの経験がない自分が初めてでこんなに感じてしまうとは思っていなくて、椛は戸惑いを感じながらも……ジークフリートにすっかり身を委ねていた。
ジークフリートに身体をひらかれてゆくこの感覚、大好きな人に純情なこの身体。感じて、はしたない声をあげて……そのたびに、自分がジークフリートのことを好きなんだと実感して、幸せだ。
「シンデレラ……」
ゆらりとジークフリートの瞳に欲望が浮かぶ。快楽に浮かされていた椛に、それは最後の引き金となる。ぞくぞくっと熱が湧き上がってきて理性が完全に壊れてしまった。
抱かれる、抱かれてしまう……ああ、ジークフリートのものを受け入れるんだ、彼に組み敷かれるんだ……男である自分が抱かれることへのなんとも言えない被虐心、大好きな人とひとつになれることへの期待。
様々な想いが湧き上がってきて頭がぼんやりとしてくる。はやく欲しいだなんて、いやらしい願望で頭が満たされる。
ジークフリートのものの先端がそこにあてがわれると、今までとは全く違う熱さを感じて、それだけでイってしまいそうになった。まだはいってきていないというのに、熱がじわじわとしみてきているようで、奥が疼いている。このままきたら、きっと、きっと……
「ああぁあ……!」
今までに感じたことのない圧迫感、強烈な熱。果てしない満足感。ぐりぐりと肉壁をひろげられていく感覚。いれられてる、ジークフリートがはいってきてる。びくびくと震える身体、朦朧とする意識……朧げな視界、そのなかでジークフリートとぱちりと目が合って――
「あっ……く、ぅ……ん……」
椛はあっさりと達してしまった。身体が快楽を容量いっぱいまで感じていたのかといえばきっとそうではない……精神が完全に満たされてしまった。ジークフリートに自らが侵食されていくことに、たまらない興奮を覚えたのだった。
急にぎゅうっと強く締め付けてきた椛にジークフリートは驚いたようで、一瞬動きを止める。しかし椛が「やめないで」とその腕をつかむと、ジークフリートの顔は余裕が消えたように歪んだ。細められた瞳にぐずぐずの椛を映し出し、一気に腰を突き上げる。
「ああっ……!」
真っ白な稲妻が能天を貫いたような、そんな感覚。一瞬の浮遊感、白む視界。あまりの衝撃に口をぱくぱくとさせている椛を、ジークフリートは容赦なく突く。
ふわふわと重力を失ったように身体の感覚が覚束ないのに、ジークフリートが腰を突いてくる重量感はしっかりと伝わってくる。
もうわけがわからなくなって、椛は縋るものを求めるように手を伸ばし……ジークフリートはその手をつかんだ。絡まった指だけが、椛の意識を繋ぎとめる。果実が弾けるように強烈な快楽が何度も襲ってきて、椛はなす術もなく嬌声をあげ続けた。
「ひゃあっ……ぁあッ……あぁあ!」
ぱちぱちと快楽は与えられるたびに破裂しているのに、身体の内側にどんどん蓄積されていく。もうどうしようもなくて、ふるふると首を降りながら、椛はそのときまで耐えるしかなかった。ジークフリートのピストンがはやまって、肉のぶつかる音に脳内が侵されたとき――もうだめだ、そう思った。
「あぁッ……イッちゃう、イク、くる……あ、だめッ……!」
「シンデレラ……!」
びくびく、となかでジークフリートのものが震えたのは……椛にはわからなかった。半分は意識が飛んでいて、何も考えられなかった。自分に与えられた限界を超えた快楽を処理することで精一杯だった。
二人の吐息の声だけが、部屋を満たす。しばらく抱き合って、熱を交えていた。行為を終えたあとの静寂というものを……椛は初めて経験した。悪くない。どくどくとジークフリートの体から鼓動が伝わってきて、それを閉じ込めるように抱きしめていると、二人だけの世界に飛んだような心地になる。……ああ、幸せだ。
じわりと胸を満たしていく暖かさ。
そして、もうひとつ。
窓から差し込む青白い月明かりになぜか覚える……たまらない切なさ。
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