▼ 正体2
リビングまででていくと、そこにいたのはやはりジークフリートだった。ジークフリートは椛の姿をみるなり嬉しそうに笑って手を振ってくる。
「シンデレラ……シンデレラだな?」
「ジーク……」
わっと感激がこみあげてきて、椛の頬が一気に紅潮する。あのときとは全く違うつぎはぎだらけの服を纏っているというのに彼が態度を変えようとしなかったのが、嬉しかった。ぱたぱたとジークフリートに駆け寄る椛を、継母とジェシカが驚いたように見つめている。
「あ、あの……ジークフリート王子? なぜシンデレラのことを知っていらっしゃるの?」
「運命の出逢いをしたんですよ」
継母の問いに朗々とジークフリートは答え、手にもったブローチを椛に差し出す。カイからもらったブローチだ、それを手にとった椛は感動のあまりぽろぽろと泣き出してしまう。ブローチをなくしてしまったと思ったときは本当に哀しかったから、再びこうしてみることができて、嬉しかったのだ。ジークフリートは椛の涙をやれやれといった様子でハンカチーフで拭いてやり、ブローチを椛の胸元につけてやる。
「あっ……」
椛の胸元に飾られたブローチは、途端にきらきらと蒼い光を放ち、その不思議な美しさにその場にいた者は皆魅入られてた。そして、継母とジェシカは驚いたように蒼いブローチを身につける椛を見つめる。
「う、うそ……どうしてシンデレラが……」
灰かぶりと呼んでいた少年がどうして……すぐに二人は疑いの目を椛向けたが、王子の手前、見苦しい姿をみせるわけにはいかない。ふっと作り笑いをして「ブローチ、とても似合っているわ」などと薄っぺらい言葉をを吐いた。
「ところで、貴女がシンデレラのお母様ですよね?」
「はい……」
「是非とも彼を、私の嫁としてむかえたいのですが」
「えっ……!? でも、シンデレラは男の子で……世継ぎを生むことはできませんよ?」
「それは構わないのです、私の役目は世継ぎを生むことではないので」
「?」
国の王子にシンデレラを嫁にむかえたいなどと言われ、継母は驚いてしまった。なぜ娘ではなくシンデレラが……と嫉妬のような気持ちも覚えたが、落ち着いて考えてみる。家族であるシンデレラが王子の嫁になれば、王族との縁ができるじゃないか。継母はそんな汚い感情を隠すようににっこりと微笑み、王子の申し付けを承諾した。
「よかった……シンデレラ、あとは君の気持ちをしりたいんだけど」
「……えっと、あの、話が急すぎて……」
「いや? 俺と結婚するの」
「ま、まさか……好きです、僕、ジークのこと……好きです!」
結婚の申し出はそれはもう嬉しかったのだが、急な展開に椛の頭はついていけなかった。しかし、これからずっとジークフリートと一緒にいられるのだと思うと幸福感に胸がいっぱいになって、思わず告白してしまう。はっとした表情を浮かべたジークフリートをみて、そういえばまだ告白はしていなかったのだと気付き、椛は一気に顔を赤らめた。
「よかった……嬉しい、俺もシンデレラのことが好きだよ、あのときからずっと」
ばっ、とジークフリートが椛に手を差し伸べる。この手をとれば、幸せになれるんだ……。椛はその場にいた継母とジェシカに簡単に挨拶をして、家をでる決意をした。今はいないアンナにも、あとから挨拶にこよう、今まで優しくしてくれたお礼をしなくちゃ。
椛はどきどきで震える手をゆっくりとジークフリートにむけ――そして、彼の手を握った。
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