▼ 新たなる奇跡へのプロローグ1
―― 一年後
「ごめんなさい、シンデレラ! 今、手がはなせないから出てくれないかしら!」
「はい、わかりました!」
玄関の扉を叩く音が聞こえると、キッチンでアップルパイをつくっていた継母が椛に声をかけてきた。時刻は昼を少し過ぎた頃。家族の友人でも訪ねてきたのかと、椛は何の気なしに扉をあけ――驚きに目を見開いた。
「お久しぶりです、シンデレラ」
扉をあけた先にいたのは、シルヴィオだった。
彼が訪ねてくる心当たりなどない椛は、「お久しぶりです」と上の空でオウム返しするばかり。そんな椛の心境もわかっているのか、シルヴィオは苦笑する。
「今日、アイゼンシュミットの命日だよね」
――そう、今日はカイが亡くなって一年たった日だった。椛は朝の内に墓参りをすませている。墓の前で少し泣いてしまったため、目が少し腫れていたがもう収まっただろうか……と椛は無意識に指で目元をさすってしまった。
「よければ彼の墓まで案内してくれないかな」
「あ、ええ、いいですよ。シルヴィオ王子もカイに……」
「いやいや、僕じゃないんだ」
「?」
はは、とシルヴィオは笑って親指で後ろを指してみせた。椛が玄関から乗り出して外をみてみると、箱馬車がとまっている。
「あいつ。ジークだよ。あいつさ、アイゼンシュミットが亡くなってから魂が抜けたようになっちゃって。彼が亡くなったってことを認めたくないみたいで今日もなかなか渋って出てこなかったから、無理やり連れてきたんだ」
「ジーク……なるほど」
「ごめんね、ちょっと気まずいと思うけど、一緒にお墓に行ってくれないかな。友人が亡くなったのに墓参りもしてないんだからあいつは……困った弟だよ」
申し訳無さそうにしながら、シルヴィオは椛に頭をさげる。椛が慌ててシルヴィオに顔をあげるように言うと、彼は困ったように笑っていた。そんな様子をみていると、なんだかんだ彼は「兄」だな、と思った。弟の才能に苛まされていた彼が、どこかたくましく見える。
「ええ、ではジークを連れてお墓に行ってきますね。大丈夫……きっとジークも一歩進めると思いますよ」
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