▼ エンドロール4
「カイ? これからお出かけするみたいですけど……一緒にいきませんか?」
「んー……俺は留守番してようかな。椛、楽しんでおいで」
温かい春風が吹く頃だった。椛が継母から外食に誘われ、その旨をカイに伝えたが、彼は誘いに乗らなかった。ベッドに座り、窓縁に肘をかけてぼんやりと外を眺めている。その背中はどこか儚い。
ここのところ、カイは殆ど外にでようとはしなかった。体が怠いのだという。その理由は、椛も大体察していた。命を削る魔法のことを、カイ自身から聞いていた。はじめてそれについてきいたときは、涙が止まらなかったが……今は、残りの時間をどれだけ一緒に過ごせるか――それについて考えるようになっていた。
「カイがいかないなら……僕も残ろうかな」
「いやいや、いいのいいの。いってきなよ」
「……カイと、一緒にいたいです」
少しでも、彼の側に。渋る椛をみて、カイは苦笑する。
「椛、「死」をそんなに重くとらえないで。まるで悲しいことみたいじゃん」
「悲しいことじゃないですか……だって、二度と会えなくなるんですよ」
「うーん。まあ……触れ合えないのはちょっと寂しいかな。でもさ、椛は俺と会って奇跡を信じられるようになったでしょ。自分の幸せを素直に望めるようになったじゃん。これからも、奇跡を信じられるなら――俺は、椛のなかで生きているってことになるんだよ」
「……」
「俺は魔法の力で奇跡を起こしているけどね、魔法なんてなくたって、奇跡は起こる。椛の幸せはこれからも、ふっと突然降ってくるよ。だから、信じて。俺と出逢って……椛は、これからもずっと、幸せになれるから」
椛は、ベッドに座るカイに飛び込むように抱きついた。ぼふ、と音を立てて二人で倒れこむ。
「椛……俺、すっごく幸せなんだ。俺が椛を幸せにできたんだって思うと、すっごく」
「カイ……」
「だから、俺が死んだあとも、椛はずっと幸せじゃなきゃだめ。心置き無く逝かせてね」
「はい……僕、カイと出逢えたから……こんなに今、幸せで……これからの未来も明るくて。カイのこと、ずっと好きです。でも……カイがいなくても……きっと、幸せになってみせます。あのとき……突然、カイが僕のもとにやってきた時のこと、忘れません。あそこまで変な出逢いはきっとないと思うけれど、あんな風に……奇跡は突然、やってくるって。信じています」
「うん。なら大丈夫。……っていうか、変な出逢いってなんだよ」
「だってあのときのカイ……胡散臭い……」
「勝手に疑ったのは椛だろ! 俺は一切嘘言ってなかったからな!」
ぐすぐすと涙ながらに話す椛を抱きながら、カイは笑っていた。カイの胸に耳をあてると、とくとくと心音が聞こえてくる。生きている、その証を聞いていると胸が苦しくなってくるが、同時に胸が暖かくなる。
「カイ」
椛は体を起こし、カイにキスをした。そして、涙を拭って笑ってみせる。
「……いってきます。早く帰ってきますからね」
「うん。いってらっしゃい」
――貴方と出逢えたことは、僕にとってきっと一番の出来事になるだろう。貴方を失ったら胸に大きな穴が空くだろうけれど、それ以上にこれからの未来への希望が僕を満たしている。だから、悲しいけれど悲しくない。僕が幸せでいる限り……貴方は生きている。
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