▼ huit
「……」
「梓乃くん? どうしたの? 具合悪い?」
「いや……」
来たるこの日。由弦の絵のモデルをやる日だ。
ただ、体調が万全かといえば、答えはノー。なんとこの日まで、俺は智駿さんに挿入をしてもらっていない。二週間ほど、俺は智駿さんに挿れてもらっていないのだ。まだ二週間、完全にエッチをしていなかったなら違っていたかもしれない。でも智駿さんは、俺にエッチなことはしてきていた。キスとか乳首責めで毎回イかされて、特に意地悪なときは素股をやってくる。太ももにちんこを擦り付けるなら挿れてくれてもいいじゃん!って思うけれど、智駿さんはドエスだから俺をギリギリまで追い詰めてくる。つまるところ、エッチな気分にはなっているのに最後までやっていないから、俺はもう超欲求不満状態なのだ。
「ぬ、……脱ぐんだよね」
「ああ、うん、お願い!」
「……」
別に俺は女でもないし、裸を人に見られることには抵抗ない。でも、超欲求不満な今の俺の身体は、とにかく敏感だ。空気に触れただけでも、エッチな気分が膨らんでしまう。すでに服のなかでは乳首が勃ってるし……今のこのいやらしい身体をみられるのは、ましてやガン見されるのは、恥ずかしい。
でも、そんなことを言っていたら由弦に迷惑がかかってしまう。俺は何食わぬ顔で、服を脱いでいった。
「……、」
「えっと……あ、あんまり脱いでるところ見ないで」
「ああ、いや、ごめん!」
ボタンを一つ外すだけでも、ゾクゾクする。ボタンを外そうとすれば、シャツがびんびんに勃った乳首を擦って声が出そうになる。っていうか、こんなに勃った乳首みられて大丈夫なのかな。由弦と俺の距離なら、俺の乳首が勃っているかいないかなんてわからないかもしれないけれど、この、智駿さんにいじめられまくった性感帯をさらけだすことに、俺は凄まじいほどの羞恥心を感じていた。
「……すごい」
「はっ!?」
シャツを脱ぎ終えると、由弦がぼそりと呟く。そして視線を縫い付けたように俺の身体をジッと見て、黙りこくる。ごくりと唾を呑んで、瞳孔まで開いちゃって、ちょっと怖いなと感じながらも俺はあまりの圧迫感に動けない。
「こんなすごいモデル、はじめてみた……何回か人をモデルに絵を描いたことはあるけれど、こんなに描きたいって思うようなモデルははじめて」
「い、いや……俺とか大層なモデルじゃないでしょ……顔も体も並だし……」
「違う、内から溢れ出す……なんていうか、熱がすごい。ほんと、すごい。ものすごく官能的」
「かっ、官能的!? まっ、べつに俺エロいこととか考えてないし最近エッチちゃんとしてな」
「きっと誰が見ても描きたいって思うよ、梓乃くんのことは。ものすごい魅力を感じる……いや、もっと魅力を引き出したい」
「え、あ、あの……!?」
芸術家の考えてることはわからない。いやほんとちょっと怖いぞ、なんて俺が顔を引きつらせると、由弦が立ち上がってこっちにやってきた。
そして、どこからか縄を持ってくる。本当になんでそんなものがあるんだってツッコミを覚える前に、由弦は俺の前に立っていた。
「僕、そんなに梓乃くんの性癖とか知らないけれど、梓乃くんってものすごくドエムでしょ」
「えっ、えっと、」
「僕の感性がそう言ってる、梓乃くんちょっと縛られてみようか。たぶんすごく魅力的になれるよ」
「ま、待ってー!」
芸術家、怖い。俺の性癖まで、その目で見抜いてしまうらしい。
由弦はそれはもう真面目な顔で俺の体に縄を巻きつけていって、手を後ろ手に拘束し胸を強調するような縛り方をしてきた。強く締め付けられているというわけではないから、苦しさは感じないけれど……これはかなりいやらしい縛り方で、落ち着かない。
「すごい、官能的だ、梓乃くん……すごい」
「ば、ばか……似合わない、から」
「そのまま、恋人に抱かれるところを想像して。そうだな……こうして縛られたまま、激しいお仕置きをうけるところでも」
「……ッ」
由弦の言葉のままに、俺はうっかり智駿さんにいじめられる妄想をしてしまう。こうして縛られたまま、アソコを靴を履いた足でぐりぐりされて、「変態」って罵られながら鞭で思いっきりぶたれるとか……もう、すごくゾクゾクする。
由弦はそんな俺を放っておいて、再びキャンバスの前に戻った。そして、じっと俺のことをみつめて、俺のことを観察し始める。
「……ッ」
しゃ、と鉛筆の芯がキャンバスを引っ掻く音が響いた。ほんとうに、この俺を見ながら絵を描き始めたようだ。俺の、このいやらしい身体を、そのままキャンバスに写している。意識し始めると、よけいにいやらしい気分になってきて、腰が勝手にもじもじと動く。
「はぁ……は、……」
ぴく、ぴく、と小さく痙攣する身体。想像のなかで俺は智駿さんに犯されまくっていて、激しい調教もされている。この、ピンッと勃った乳首にマックスに強くしたローターをあてられて、乳首イキさせられて。調教されながらイッた悪い子の俺は、お仕置きに何度もなんどもイかされる。泣いてゆるしてって言っても、お尻の穴が壊れちゃうくらいに犯されて、声が枯れるまで俺は喘ぐ。
妄想は、どんどん変態臭く激しくなっていった。その間も、由弦の手は止まらない。妄想のなかでいっぱいイッている俺を、由弦は真剣に描いていた。
「ゆ、づる……」
「……」
頭のなかだけでイクと、身体が本物の絶頂を求めて、よけいに疼いてしまう。もちろん、だからといってそれを解消するような行為をするわけにもいかない。俺ができるのは、ただ、耐えるだけ。
鉛筆の音が、身体を撫でているようで、ひたすらに辛かった。熱はどんどん膨らんでいって、くらくらとしてくる。眉一つ動かさず表情を変えない由弦がじっと俺を見つめて、着々と作品を完成に向かわせているのを、俺はぼんやりと眺めていた。
「ああ、できた――」
どのくらいの時間、俺は耐えていたのだろう。モデルになる人は動いてはいけないから大変とは聞いていたけれど、俺は別の意味で大変だった。熱だけがどんどん膨らんでいくのに、それを発散することもできず、ただただ自分の中で昇華することしかできないのだから。
ようやく完成したらしい由弦は満足気にキャンバスを眺めている。いいものが描けたのだろうか。
「……ッ!?」
恐る恐るキャンバスを覗いて、俺はギョッとしてしまった。それはもう、そこいらの成人向け雑誌の表紙なんかよりもエロい俺が描いてあったからだ。写実的は写実的、なのに、妙に……いやものすごく艶かしい。一体どんな解釈をいれて描いたらこんな風になるんだと、びっくりしてしまった。
「いやあ……すごかった……こんなに興奮しながら描いたのは初めてだ……」
「いや、これ、ほんとに俺!?」
「もちろんだよ。梓乃くんからでてくる凄まじい色気が僕の手を勝手に動かすんだ……すごかった……本当にすごかった……」
恍惚とした顔で、由弦は俺を描いた感想をぼやいている。たしかに俺は描かれている途中、エロいことを妄想していたけれど……そのときの俺は、由弦の目にこんな風に映っていたのだろうか。そう考えると、とんでもないことをしてしまったような気がする。
「また、描かせてよ! こんなに絵を描くことが楽しいって思えるなんて、なかなかないんだ!」
「の、ノー! だめ、やってはいけない気がする!」
「なぜ!」
「智駿さんに怒られるー!」
……今日のことは、智駿さんには黙っておこう。直感的に、そう思った。
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