眠気優しいに口付けを

誰も信じてはくれないのだけれど、作兵衛はとても寝起きが悪い。
悪い、と言っても機嫌が悪いわけではく、寝ぼけている時間が長いだけなのだけなのだけれど。出会って一度たりとも、すっきりと起きた試しがないのだから悪いに違いなかった。
勘違いして欲しくないので言っておくと、その悪さは俺にとってちっとも嫌な事ではなくむしろ大歓迎なだった。

今朝俺は寝ぼけた作兵衛の準備もする為に少し早く起きる。ぼんやりとした作兵衛に、おはようの口付けをお駄賃代わりにもらって服を着替えさして、髪を結い、身支度を整える。もちろん自分の身支度も済ませて、手を握り食堂へ行こうと引くと部屋を出たところでいつも作兵衛は目覚める。

「逆だ」
「おはよう、作」
「…はよぉ」

毎日繰り返しても、少し恥ずかしいのか、ばつが悪いのか通常より大人しめに返事を返されて一緒に食堂に向かう。
それが毎日なので俺も手慣れたものなのだけど、朝はみんながそうであるように慌ただしく、着替えさせていると言えども下心が働く暇がないのが現実。だが、それが休日の朝なら別物。

今日は特に何もないはずだと、昨晩寝坊するつもりで床についたのだけれど、やはりいつもの時間に一度目が覚める。目覚めてももう一度寝ればいいだけなのだけど、横を見れば珍しく、作兵衛が上半身を上げて起き上がっていた。もちろん寝ぼけているので、ぼう、っと一点を見つめているだけ。

「さく、まだ寝てていいよ」

寝間着の裾を引っ張りながら言ってみたが、その言葉は届いていないようだった。仕方ないと俺も起き上がり、作の肩を掴む。せっかくの二度寝だと思い、作兵衛の布団に自分も潜り込み抱きしめて寝てやろうした。だが、寝るつもりだった俺をぐるりと反転させたのは、作兵衛の肌蹴た寝間着から覗いた胸。
何度も言うようだけれど、すべて脱がせて着替えさせてはいるものの、その時は時間に追われている。追われれば逃げるしかないかのように、その行為は義務的。しかし今日は別だった。何も俺たちを囃し立てはせず、部屋にあるのはただ恋仲の二人だけ。

「さく、おはようのちゅー」

いつものように目の前に俺の唇を差し出せば、繰り返された習慣で作兵衛は従順に口付けをしてくる。その顎を取りいつもはしない深く絡み合わせる口付けをしながら、空いた腕を腰に回しながら引き寄せると、すんなりと俺の膝の上に作兵衛はまたふがった。まだ寝ぼけているのか、舌はほとんど反応をみせずに俺に遊ばれるままに、中途半端に肌蹴てした寝間着を着替えさすのと同じように脱がせていけば、簡単に素肌が俺の目の前にさらけ出され、一層こちらを誘う。
抵抗のない口内を十分に堪能して、ゆっくりと唇で肌を辿る。どこで作兵衛は目を覚ますのだろうか、と手さぐりで愛撫を続けていく。感覚が鈍いのか、返ってくる反応が少ないのは少し寂しく思えて、執拗に胸を責めると頭の天辺を引っ張られた。

「…三之助」
「おはよう、さく」

引かれるままに見上げると、細めた目と中央に皺をよせた眉が見下ろしていた。軽い口づけをして言うと、何してる、とまだ寝ぼけているかのような返事が振り下ろされる。

「んー夜這いならぬ、朝這い」
「変な趣味にでも走ったか」
「いんや、出来心。でも、起きてくれてよかった」

右手を作兵衛の腹部からなぞりながら頬まで移動させると、感触に微かでも反応が手から伝わる。そして顔から零れる表情からも見て取れる。親指の腹で唇をなぞれば、そこに舌が答える。
朝の従順な作兵衛も悪くはない。だけど、行為に行為が返らないのはつまらない。特にそれが逢瀬ならなおさらのこと。指先ひとつ触れるだけでもそれは想いの形だと俺は思う。無償の愛が本物だと言われてもきっと俺には遠い話で、一回の好きで返らないなら10回、10回で返らないなら100回、そのどれか一つでも返してくれなければ、どんなに好きでも俺は干からびてしまう。でもそのたった一回で俺は満たされてたくさん好きを伝えようと思う。
作兵衛はそういう好きだのという言葉数は絶対数的に少ないけれど、こうして二人っきりであればそれを伝えてくれる。

「さく、好きだよ」

ぎゅっと抱き着けば、俺の髪を梳きながら撫でる指先が優しい。それが誰かじゃなくて、自分に向けられているのが嬉しくて額を作兵衛の胸に擦り付けると四方は柔らかな香りに包まれる。

「で、」
「で、なあに」
「やめるのか」
「まさか。そんなの無理でしょ、俺もさくも」

作兵衛が俺の髪を両手ですくい上げて背中に散らす。ぱさぱさして整わない髪が肌を擽りながら滑り、微かに熱の残る布団になだれ込んだ。
しばらくして上がった朝日が窓の隙間から漏れ始める頃。忍び込んだ少し冷たい隙間風は、二人溶け合った体温に心地よかった。
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