次富

アルコールの廻った体は重いようで軽く、心地よい。
いつも寄せている眉間に皺ひとつもない作兵衛はとても上機嫌に最後の一口を飲み干す。一人暮らし用のワンルーム、小さな机に空き缶がひしめき合うようになり、そろそろしこたま買ったアルコールもなくなってしまいそうだった。

「さぁんのすけー」
「んー」

飲んでやったと言わんばかりに後ろに倒れ込んで作兵衛は真っ赤な顔で俺を呼ぶ。俺も同じくらいの量のアルコールを含んだ思考でゆるりと返事をすれば繰り返し名を紡がれる。机にはもう誰ものせる場所なんてないけれど、心地い気持ちだからこそ机の上を片づける気も起きることはなくその光景を見渡すと、その中に紛れてひとつだけ口を閉じた奴がいた。
すかさず手を伸ばし、何度聞いてもいい音がして口を開けてやると作兵衛が反応する。

「さくぅー飲むー?」
「おーそれ最後かー?」
「うん、ぽい」

ついっと思い出した事柄、そして同時に冷蔵庫の中を浮かべると俺は行動に移す。疑問い思ったのか作兵衛はそれはゆっくりとした動きで体を持ち上げて、目線で俺を追う。

「作よーく聞いててね」

俺と作兵衛の間に置いたのはカラのコップ二つと開けたばかりのビール缶、そしてトマトジュース。定期的に仕送りしてくる母親が体にいいから飲みなさいと野菜ジュースやトマトジュースをたまに送ってくる。たぶん、スーパーの安売りでその商品が決まっているんだろう。

「なんでトマトだよ」
「まぁいいから、最後まで聞いて」

むっとした顔を俺に向けて早く最後のビールを飲ませろと訴える。それを笑顔で受け流して俺は話をすすめる。

「いい、このトマトジュースはさくべーね、」

少し重みのある液体を二つのグラスに同じようになるように注ぐ。その後にこれは俺、と示してビールを赤い液体が注がれたグラスに注ぐ。

「おい、お前なにしてんだよ」
「レッドアイ」
「は?レッドアイ…?」
「そう、そういう飲み方。ビールのカクテルって前聞いた」
「そうだとしても、好みあんだろ」

つまみを食べるために使った箸で、グラスの中をかき回すともう二度とは元に戻れない混ざり合ったカクテルが出来上がる。そのひとつを作兵衛に差し出す。

「俺ね、作とこうなりたいって思ってる」
「こうって…」
「うん、一つになりたい。もしさ、さくも同じ気持ちになってくれるなら、これ飲み干して」

ゆるやかで心地よい雰囲気は一変して、はっきりと刻み付ける時間。俺は味の想像もつかないそれを一気に飲み干す。トマトの酸味が鼻に抜け、正直それが悲しいかビールはビールで飲むものだと理解した。グラスを置こうとすると同じく一気飲みをしていたのだろう作兵衛の姿。
含み切らなかった液体が口はしから落ちそうになるのをぬぐおうとする手、その手を一心不乱に俺は掴み、その口はしに自らの口を重ねた。

俺は一番大事な言葉を言う前に、飲み干されたレッドアイのように作兵衛と混ざりあい、その後たたみかけるように甘い言葉だけ落とし続けた。

「レッドアイの誘惑」





prev/next



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -