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04.アップルパイほど甘くない

「絶対遊ばれてるぞ銀時。十代の女子なんて男を手の上で転がして弄ぶのが今の主流だからな。お前もその彼氏とともにコロコロ転がされているんだろう」

「そーじゃ金時、やめときやめとき!本気になったところで『あっごめーんアタシ彼氏いるの〜もしかして本気にしちゃったぁ?』なんってこっぴどい振られ方しておまんが傷つくだけじゃき」


「だよなぁ〜こんなオッさん相手にするわけねーよなぁ…………でもさ、男を手の上でコロコロ転がすような子に見えねーんだわ」

「そんな甘いことを言ってるから転がされるんだ。お前はもう既に彼女の手の上でコロコロしてるんだ。卵ボーロのようにコロコロコロコロと転がって食われて終わりだ」

ヅラが掌を皿にしてコロコロと揺らす。
辰馬とともに大分酔いが回ってきていた。
そのうち何を転がすかという話題になりコロコロコロコロと隣で盛り上がっている。

最近の俺の心は姫ちゃんのことでいっぱいだ。
ただの隣同士なだけの関係だったのに、あの猫……ミルク(レープ)のお陰で図らずもガチめの恋が始まってしまったのだ。
まさかあんな歳下の子にドキドキするとは。
かわいーなーと思いながらたまにお菓子の匂いを嗅ぐだけで良かったのに。
彼氏持ちの子なんて付け入る隙がない…のに。
なのになぜ彼女はこうも俺と距離を詰めたがるのか。そしてそれに喜ぶ単純な俺。
都合のいいアッシー程度にしか思っていないのか、友達よりは上にいると思っていいのか…いや友達と呼べる関係まで行けんのか?アラサーのオッさんが。華のJDを攻略するにはあまりにも装備が弱すぎる。

「そーいや今日高杉は?」

「声はかけたが振られたよ。繁忙期だと」

「へーーーアイツ証券会社だっけ?柄にもねぇことよくやってんな」

俺たち4人はガキの頃からの友達で辰馬以外は大学まで同じでよく一緒につるんでいた。それぞれ専攻は違ったが空きコマに集まっては馬鹿やったもんだ。懐かしいな。今思えば遠く美しい青春だ。
姫ちゃんはその青春の真っ只中にいるのか。時間というものは恐ろしい。

「あーーーうめーーー」

酒を飲みながら吸う煙草の旨さ。
いつの間にこんなもんから離れられなくなったのか。
ますます姫ちゃんに釣り合わねェ。
男ってもんは目の前に手に入らない物があるとどうしても欲しくなっちまっていけねぇ。
ふー、と白い煙を吐き出す。

「彼氏と別れるまで待つかなー」

でもなー、そんなんいつになるかわかんねぇし。
仮にあの子と付き合って別れたいと思う男いる?
家庭的で優しくて可愛くて。手離すなんてとんだクズ野郎だわ。いや姫ちゃんが最初からクズ野郎と付き合うわけないし。ていうかもしそれ待ってて数年後にソイツと結婚するってなったらどーする?俺どーなる?立ち直れないわそんなん。

「そんなに好いちょるんなら奪っちまうっていうのはどうじゃ?」

「嫌だよ100パー嫌われんじゃん俺」

「その女子、本当に彼氏とうまくいっちょるんか?浮気されててその腹いせにおまんに迫ってるんじゃないんか?」

「……………まぁ上手くいってる的な話は聞いたことねぇけど。つーか彼氏の話なんてこっちからしねーししたくねーし」

お菓子作っても食べてくれる人は甘い物好きじゃないとかなんとか言ってた気がする。それ以上は聞いたことないしできれば聞きたくない。惚気なんてされた日にはもう大ダメージを喰らうことはわかっている。顔を合わせている時間くらい楽しい話をしたいもんだ。

「部屋にあがったことはあるんだろう?それならもう付き合っているのと同じだろう」

「いやヅラと一緒にすんなって。ただ飯食わせてもらっただけだっつってんだろ」

「飯食ったついでにその子のことも食っちまって既成事実ば作ればいいんじゃ」

「最悪だよそれ一番最悪なパターンだよ。俺は間男じゃなくて彼氏になりたいの」

「そういえば高杉に妹がいたな。奴に聞けば最近の子の恋愛というものがわかるのではないか」

「アイツに恋愛相談なんて死んでも嫌だね」

「イヤイヤうるさい男じゃのぉ。そんなに言うなら大人の男らしく身を引くか当たって砕けてチリチリのパンチパーマになるかの二択じゃ」

「どっちも最悪だわ。お前らに相談した俺がバカだった」

全く参考にならないアドバイスを聞き流しているとスマホが震える。
煙草を咥えながら画面を指でなぞると、新着メール。噂の彼女だ。この間連絡先を交換してから初めての連絡だ。

『坂田さんこんばんは。
今日のミルクの写真送りまーす(*^^*)
良かったら来週の金曜、夕飯いかがですか?姫』

「あーかわいい好き」

なんだ(*^^*)って。普通の顔文字なのになんでこんなにかわいく見えるんだ。
写真を開くと少し大きくなったミルク(レープ)が映し出される。姫ちゃんの顔は写ってないが抱っこしているのかモコモコのパーカーが見える。これ絶対部屋着だろ。

「こりゃあなかなかやり手の女子じゃのう(*^^*)」

「まんまと転がされているな銀時(*^^*)」

「見てんじゃねーよ!つーか(*^^*)つけんな気持ち悪ぃ!」

はあーーーー、ため息でるわ。
めちゃくちゃ転がされてるわ。





次の週末。
ピンポーン、とインターホンを鳴らすとパタパタと足音が近づいてくる。もう既に飯のいい香りがして胸が高鳴る。
扉を開けてくれたのはエプロン姿の姫ちゃん。さながら旦那の帰宅を迎える新妻だ。へらりと笑っているが心中は大興奮の俺である。

「こんばんは!どうぞ〜」

「お邪魔しまーす」

「ミー」

「おー元気だったかミルクレープ」

少し見ないうちにひと回り大きくなったんじゃないのかお前。拾ってもらった上に姫ちゃんに育ててもらってんだからお前は幸せもんだよ。

二度目の姫ちゃんの部屋は相変わらず綺麗で女子の香りがする。足にミルクがすりすりと絡まってくる。飼い主に似て人懐っこいな。

「すぐ出来るのでミルクの遊び相手お願いします!ハイ猫じゃらし」

リビングのソファに座ると猫じゃらし風のおもちゃを渡されてとりあえずミルクにほれほれと見せると食いついてきた。

「この間はありがとうございました。とっても助かりました!あとパンケーキ!美味しかったー!」

「なーアレまた食べたいわ。他のメニューのうまそうだったな」

「ね!友達に自慢しちゃいましたもん」

「まーじーで」

大学の友達に俺のこと話してんの?めっちゃ嬉しいんですけど。でも友達に変態とか思われてたらどーしよ。どうか彼氏の耳に入りませんように。いやコソコソしてたら逆に怪しいか。

「はいお待たせしました」

「サンキュー」

ミルクを撫でくりまわしているとダイニングに呼ばれて席に着く。おーオムライス。ケチャップでニコニコマークが描いてある。付け合わせはサラダとコンソメスープ。いいねぇ。

「うまそー。いただきまーす」

「はいどうぞ。デザートが結構重たいので、ちょっと小さめにしました」

「重たいデザート?もしかしてホールケーキ?」

「ふふ、秘密です」

悪戯っぽく笑ってオムライスを頬張る姿がなんとも言えない。今日の飯もめっちゃ美味いしご飯作り慣れてんなー。当たり前にデザートあるし。

「俺が学生の頃なんて自炊全然してなかったよ。ラーメンとかコンビニでさ。ファミレス行って朝まで課題やってたりさ」

「わたしたちも似たようなことしてますよ。試験前は友達と集まって缶詰め状態だもん」

「いつになっても変わんねーな」

「ほんと」

ゆったりとした食事が終わる頃、キッチンの奥にあるオーブンからチーンと出来上がりを知らせる音が鳴る。

「………待って、めっちゃいい匂いする」

「えへへ。気付きました?」

りんごの甘くて香ばしい香り。期待に胸が膨らむ。

「焼き立て一緒に食べたくて。片付けますね」

「あ、いいよ俺洗い物するから姫ちゃんデザートの方頼むわ」

「えっそんなお客さんに洗い物なんて」

「俺お客さんじゃないから。飯友と書いてメシトモだから。一緒に食べたモンは俺も片付けるよ。今の時代は亭主関白より家事できる男の方がモテるからね」

「…じゃあお言葉に甘えて、お願いします」

一緒にカウンターキッチンに移動して俺はシンクで洗い物、姫ちゃんは隣で紅茶を淹れている。

「…なんかキッチンに並んでるの、カップルみたいですね」

「ぶっ!……そそそソウダネ」

「坂田さん見ててくださいね!せーの!」

パカっとオーブンの扉を開けて取り出されたのは、焼き立てのアップルパイだ。焼き目も香りも完璧。

「すげーー!!やべっヨダレ出る」

「ふふ、これを更に、こうして…こうします!」

手際良くアツアツのアップルパイを二枚の皿に切り分けると、冷凍庫からバニラアイスを取り出す。満面の笑みでスプーンですくって……たっぷりのせた。

「ぎゃあああああヤバイってそれマジでヤバイやつだって!最高に美味いやつじゃん!見ればわかる美味いやつやん!!ちょっ早く食わせてぇぇぇぇ!!」

「よーしみんな席につけー!」

「姫せんせーおはよーございまーす!」

教師風に言いながらアップルパイが乗った皿をダイニングに運ぶ姫ちゃん、お茶目すぎる可愛すぎる。俺は生徒風に挨拶しながら紅茶を溢れないように運んで向かいに座った。

「いただきまーす!」

同時にティーカップを持って乾杯した。
チン、と鈍い音が鳴る。お互いにテンション上がりすぎてる。

相変わらず紅茶うめー。
はやる気持ちを抑えフォークを持ちサクリとパイの部分を切ってゴロゴロと入ったりんごを切ると、下になにかある。待ってぇぇりんごの下になんかいる!

これは……カスタードクリームだぁぁぁぁ!!!
パイとりんごとカスタードとバニラアイス。
昇天するわこんなん。涙出てくるわ。

「うっっっっま……………最高………幸せ……」

「おいしー!良かったぁコレいままで一番上手くできた!」

アツアツのカスタードアップルパイに冷たいバニラアイス。最高です。

「これ人生で一番美味いアップルパイだわ」

「ほんとですか?嬉しい!」

「さいこー」

「わたしもさいこー!」

もう無理こんなん。完全に落とされました。
胃袋掴まれたら終わりだよもうこの味知る前には引き返せねぇよ。アップルパイが上手くできた姫ちゃんもとても嬉しそうで、酒でも入ってんのかバリに盛り上がるデザートタイムだった。

デザートの片付けを終えた頃、スマホに着信が入る。同学年の担任を持つ教師からだ。仕事の話に違いない。

「悪い、ベランダ貸してくんね?」

「どうぞ〜」

間取りは同じだから迷わずベランダに出て電話を取る。予想通り体育祭の競技についての話だった。あれこれ10分ほど話して通話を切った。行事の当日は楽しいモンだが準備はとんでもなく面倒くさい。

部屋の中に戻ろうとして気づく。俺が履いてる黒いサンダル、サイズぴったりじゃね?見ると二回りほど小さい彼女のものらしきサンダルが端っこにちょこんと置かれている。じゃあコレ彼氏の?
更に見渡すと室外機の上に置かれた黒い灰皿を見つけてしまう。

「うーわ………」

見ちゃった。男の影。
部屋の中から姫ちゃんとミルク(レープ)の楽しそうな声が聞こえる。

わかっていたけど人のモンなんだよなぁ。全部。



title by 子猫恋
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