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25.チーズは麻薬


「姫ーこれどう?黒も似合う?」

「あっ、それもすっごくいいです!キープでお願いします!」

「そう言って何枚買うつもりだよ。カゴの中やべーことになってんぞ」

久しぶりの休日デートで外出した俺たちは雑貨屋でエプロンを選んでいる。以前洗い物をする俺用のエプロンを用意してくれると言ったのが保留になっていたため買いに行こうという姫の提案からだった。ちょうど姫も新しくしようと思っていたようでお互いのものを選ぶ形になったのだが。

「んー…洗い物だけなら着けやすさを重視してカフェエプロンで良いかなぁ…でももし仕事用のシャツが汚れたらどうしよう…いっその事防水加工の…」

「ちょっ姫さん?『エプロン 厨房 業務用』って検索すんのやめてもらえます!?」

スマホで本格的な通販サイトにアクセスするのを阻止してカゴの中から選ぶように促した。危ない、たかがちょっと手伝うだけなのに漁師になるところだった。

「グレーにします!」

「お、いーじゃん。俺はこれかなー」

手に持っていたのを見せるとなんとも言えない難しい顔をして首を振った。え、ダメ?

「絶対めちゃくちゃ似合うと思うんだけど」

「なんか…やらしくないですか?」

「どこ見て言ってんの?ちゃんとしたエプロンでしょうが。ちょっとフリフリしててワンピースみたいでめっちゃ可愛いよこれ」

「……確かに可愛いは可愛いですけど」

おふざけ入ってません?と問われるが1000%真面目に選んだ1枚だ。落ち着いたくすみ系のアイボリーは清楚だし姫の北欧風の部屋の雰囲気にも合うだろう。ちょっと肩のところに同じ生地のひらひらがあってウエスト部から下はふんわりとしてるからって変態みたいなこと言って。まぁ彼女のエプロン選ぶなんて全男性のロマンでもあるけどね!悪いね男子諸君!うちの彼女めちゃくちゃ料理上手くて可愛くてエプロン似合う女の子なんで!

「でもこれ銀時さん以外の人の前ではちょっと可愛すぎるかも…」

「もちろんもう1枚買いますって」

次に見せたのはナチュラルでシンプルなデザイン。バックスタイルがちょっと変わってて後ろで結ぶリボンが大きめで可愛い。前しか見てない姫から『これいいですね』とOKサインが出たので気が変わらないうちにさっさとレジに直行する。もちろん俺用に選ばれたエプロンも持って。

「あっ銀時さんお金、」

「その前にもう一個のカゴの中身返しといてー」

せっかくだからとラッピングしてもらって戻ると店内に飾られたレースカーテンを見ていた。模様が描かれ光を通すステンドグラスのように透けてキラキラと輝くそれは日当たりの良い明るい部屋によく合いそうだなと思った。

「へーこんなカーテンあるんだ。綺麗だな」

「はい、これすごく気に入りました。でもカーテンって変える機会ないんですよねぇ」

「なー。そうそう壊れるもんじゃねぇし」

「あっ荷物持ちますよ」

「いーよいーよ。わざわざ女の子に荷物持たせる男なんていません。姫は俺の手持ってて」

右手を出すと照れながら繋がれるその手はいつも俺の胃袋を満たす魔法の手だ。

「ホームベーカリー買ったらパンも焼ける?」

「そんなにこだわらなければフライパンでも焼けますよ」

「マジ!?今度一緒にやってみよーよ」

「はい!」

難しそうな料理でも姫と一緒にやれば楽しそうだと思えるから不思議だ。







「邪魔するぞ」

「たっだいまぁ〜!金時、姫ー、お父さんが帰りましたヨォ〜!」

「……初っ端からうぜぇな」

「こたちゃん、辰馬くん、いらっしゃい!買い物ありがとう」

おー姫大きくなって〜とバカらしい小芝居を打つヅラと辰馬を放ってリビングのソファから一歩も動かずミルク(レープ)と寛いでいると案の定部屋の中の物色を始めるオッサン2人にさっさと座れと小言を言いたくなる。

「つーかなんで急に宅飲み?たこパ?」

「姫のこと話してたら学生時代が懐かしくなってな。あの頃はよくこうして集まってただろう。ハタ教授ウザ〜とか言いながらな」

「ハタ教授、今年から学長やってるよ」

辰馬達が買ってきたビニール袋の中身を出しながら姫が言う。

「マジ!?あんなんが学長!?やべーなうちの大学!」

「そういうのはだいたい賄賂じゃろ」

あり得るわーと盛り上がるリビングはいつも姫と2人でまったりと過ごしているのと打って変わって一気にむさ苦しくなった。おーコイツが例の捨て猫かと辰馬がウザ絡みするのでミルクはどっかに行ってしまった。ヅラが家から持ってきたたこ焼き機を出していると見覚えのある白いステッカーが貼られているのに気付いた。

「うわこれもしかして俺たちが使ってたやつ?このゆるいペンギンのステッカー覚えるわ。購買のパンについてたやつだろ?」

「年代物だが卒業以来使っていなかったからまだ動くだろう」

「懐かし過ぎるなぁ」

ミルクが俺から離れたタイミングで姫のところに向かうとたこを切っていた。

「おー立派」

「他にも色々あって楽しそうですよ。チーズとかウインナーとか」

「俺粉作るわ」

「お願いします」

ここで隣に並ぶのもだいぶ慣れてきた。姫は今日買ったエプロンじゃなくていつものシンプルなやつを着けている。『初めて着けるのは2人の時で』と言ったからだ。早く見てぇなー。

「紅生姜入れていい?」

「入れましょ!」

「なんかさ、こういうの懐かしいけど姫がいるから新鮮な気分もあってやけにワクワクしてる」

「わたしもすっごくワクワクしてます」

にこにこ笑いながら材料を切っていく可愛い彼女を見下ろして余計に楽しくなった。すぐ向こうで辰馬とヅラはテレビを観ながら一足先にビールを開けようとしている。自由すぎる。こちらの準備が終わる頃インターホンが鳴った。最後の客だ。辰馬が迎えに行って入ってきたのはこれまた高そうなスーツを着た男。

「お疲れーお兄ちゃん」

「テメェにお兄ちゃん呼ばわりされる筋合いはねぇ」

「何か買ってきてくれたの?」

「アイス」

手に下げたコンビニの袋を姫に渡して上着を脱ぎどこからかハンガーを持ってきてかけた。そういえばコイツよくここに来てたんだっけ。ミルクは高杉に懐いているのか足元に擦り寄っている。

「じゃあ乾杯するか」

一応俺の部屋からミニテーブルを持ってきたが一人暮らしの女の子の部屋で大人5人が身を寄せ合って食卓を囲むとかなりシュールな図になったがそこはもう考えないことにする。

「かんぱーい」

ビールの缶とジュースが入ったグラスを合わせ口をつけつつたこ焼き作りをスタートさせる。具材はたこ、ウインナー、エビ、チーズなど意外とたくさんある。

「あ、焼いてる間にこっちつまんでね」

姫が冷蔵庫から出してきたのは叩ききゅうりやナムルにポテトサラダといった酒に良く合いそうなつまみ。未成年なのになんで酒飲みの好みがわかるんだお前、何者だ。

「姫のポテトサラダはいつ食べても旨いな」

「じゃがいもがゴロゴロしてるところが食べ応えあっていいのぅ」

メインが出来上がる前に酒が無くなるんじゃねぇかってくらいの食いっぷりだ。

「銀時さん、ひっくり返してください」

「はいよ」

竹串で回りを巻き込みながらくるくるするこの感覚もめちゃくちゃ久しぶりだ。テレビを観ながらあーだこーだ盛り上がっている声を聞いていると学生時代に戻ったような気分になった。

「姫、お前2年になれたのかよ」

ビール缶を傾けながら高杉が言う。並んで改めて思うが似てねー兄妹だなホント。天使と悪魔だよ。

「もちろん。1年はフル単だったんだよ」

「すげーなー、俺なんていくつ落としたことか…学年が上がるごとに卒業単位逆算してさぁ」

「お前は寝坊が多すぎだ。講義中もだいたい寝ていて不真面目代表みたいな奴だったからな。まったく特待生が何をやっているんだか」

ヅラの小言が始まった。耳を塞ぎたくなる。

「えっ、銀時さん特待生だったの?」

「あー特待生の枠で入学すると学費安くなるからさ。受験の時にちょっと頑張っただけ」

すごーい!と言ってくれるのは姫だけだ。コイツらは俺の黒歴史を知っているので呆れているだけ。俺だって過去が変えられるなら変えてぇよ。

「金時の世話焼きながら大学行くのも大変じゃのう!」

「世話ってなんだ世話って」

…と言いつつ図星な部分しかない。飯作ってもらってお弁当も持たせてくれてあまつさえ朝起こしに来てもらったりしたなんて言えば俺のだらしなさが露呈してしまう。…よく考えたら俺ってマジでダメ人間じゃね?

ちょうど出来上がったたこ焼きに野郎たちの意識が向いたのでこの話は一旦終わった。うまい熱いと騒ぐ横で第二弾の生地を流し込む。そういえばと缶が空いてきた頃を見計らって冷蔵庫から追加の酒を持ってくる姫に問いかけた。

「姫今年ハタチになるんだっけ。誕生日いつ?」

「6月です」
「もうすぐじゃん。そしたら酒解禁だな」

「みんなが美味しそうにしてるから飲むの楽しみです」

はい、と差し出してくれたビールを受け取って代わりにたこ焼きが乗った皿を渡すと一口食べて美味しい!と笑った。

「高い酒で盛大に祝うとするか」

「あんなに幼かった姫がついに二十歳か…!うっ、涙腺が……!」

「落ち着けヅラ。親戚のオヤジでもそんなに泣かねーぞ」

「つーかおまんら前回会った時から何も進展してなさそうじゃのう!姫は未だにコイツに敬語つかってるんか!」

「なんだお前らまだヤってねぇのか」

前にも聞いた台詞にむせ込みそうになる。

「…だからさ?お兄さん?そう言うことを妹の前ですんのは流石にどうかと思うんですけど」

「コイツももう大人だろ」

「いや姫ちゃん真っ赤になって固まってますけど」

そして立ち上がってキッチンに行ってしまう。あーまたこういう展開になってしまった。

「高杉、気になるのはわかるがもう少し放っておいてやらんか。交際にはそれぞれのペースがある。ヒトには人の乳酸菌ってものがあるんだ」

「ヅラ、お前もう酔ってるだろ」

「そうそうヅラの言う通りじゃ。金時もやっと身体じゃのうて頭で恋愛するようになったって事じゃ」

「…ひでぇ言いようだわマジで。あ、そうだ辰馬。お前に仕事頼みてーんだけど」

酔ってないうちにとそれを伝えると任せろと親指を立てた。こいつはプライベートはお気楽野郎だが仕事の事となるとちゃんと結果を出すことで評判だ。

「銀時、そりゃあ改めて俺に挨拶に来るって事でいいんだな?」

「はいはいしますよ面倒くせーけど」

ちょうど姫が何の話?と言う顔で戻ってきた。

「そのうちな」

「なんですか?」

「仲良しこよしはいいことよ〜、ってことじゃき」

ふうん?と言いながら手に持ったボウルを泡立て器でくるくる回している。何だ?それ。

「姫、何だそれは」

「甘いものもあったらいいかなぁって思って、ホットケーキミックス出してきたの。チョコとかあったからミニホットケーキできるよ」

第二弾が引いて空いたたこ焼き器の半分にそれを流し込むとホットケーキを作るときの甘い香りが部屋に広がる。

「うっわ。めっちゃうまそー」

「で、もう半分はこれ」

残りの部分にチーズを大量に乗せて溶けるのを待ってから竹串に刺したウインナーに溶けたチーズを絡める。

「じゃーん!ミニチーズフォンデュ〜」

「おー!ナイスアイデア!」

「やろうやろう!」

ちょっと焦げてカリカリになったチーズがめっちゃ美味い。チョコ入りの甘いホットケーキは俺にヒットしかなりの量を腹におさめた。たこ焼きとミニホットケーキとチーズを楽しんだ俺たちは気付けば腹いっぱいでソファにうな垂れていた。

「やべぇ…食い過ぎた…」

「胸焼けが止まらんぜよ…それなのに手も止まらん…チーズが…酒に合いすぎる…罪な奴ぜよ…」

「流石にもう若くねーな…」

ベランダで一服していた高杉が冷凍庫から持ってきたのはさっき自身が買ってきたアイス……ってそれ、

「ハーゲンダッツかよ!」

「お前らも食うか?」

「食うに決まってんだろ何自分だけデザートタイム始めてんだよ」

文句を言うと素直に俺たちの分も持ってきて袋を渡してきた。

「ヅラー…って寝てるわ」

「昔から酔ったらすぐ寝るからな」

好きな味を各々取って口に運ぶ。甘くて冷たくて美味い。

「久しぶりだわコレうめーな」

「またやりたいですね、こういうの」

「姫んちがたこ焼き臭くなるから次は高杉んちでやろーぜ」

「断る」

即答で断られた。まぁ別に本気じゃないけど。

「次は外でBBQなんてどうじゃ?」

田舎に別荘があるんだとびっくり発言をかました辰馬の案に乗る。

「何それめっちゃ楽しそうじゃん」

「みんなお休み合うかな?せっかくだから泊まりで行けたらいいね!」

「よーしそうと決まれば有給消化じゃ!金時、高杉!おまんら勤め先にしっかり申告しとくように!」

「行けたらな」

「おい高杉絶対来いよお前。BBQは人手の多さで楽しみ方が違うんだからな」

「本音は姫と2人で行きたいんだろ」

「デートも存分にするから安心しろよお兄ちゃん」

その後男衆を中心に片付けをして解散した。ヅラは叩き起こされたが半分夢の中だった。
焼き物の香ばしい匂いが残る姫の部屋から自分の部屋に戻ってシャワーを浴びてベッドに転がると適当な店で買った無地のシンプルなカーテンが目に入った。昼間のデートで姫が見ていたあの綺麗なレースカーテンを思い出しながら眠りについた。



title by 白桃
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