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23.好きを彩るカラフルおにぎり


「全員いるかー?えーでは1年Z組春の親睦会、題して『呪わないでね・山田太郎君に友達を作ってあの世に送り出そうの会』を始めまーす。ハイ解散」

「初っ端から解散させるなァァァ!ちょっと坂田先生、そもそもクラスの親睦会が夜なんて大丈夫なんですか?ちゃんと許可取ってますよね?」

真面目そうな眼鏡……志村新八が大声を出す。なかなかキレのあるツッコミだ。だがコイツには姫とのいちご狩りデートを見られている。舐められないようにしねーと。

「こんなアホな企画通らねーと思うじゃん?ダメ元で校長に話したらこの怪談のこと知っててさー…是非成仏させてくれって言われちまったんだよ…はー憂鬱」

時刻は20時。1日の授業を終えた生徒たちは一旦家に帰って再び教室に集まっていた。俺はそれまで職員室で残業。23時以降は補導対象のため遅くても22時には解散しねーとな。タイムリミットは2時間。つーかこんなこと本気で意味あんのかな。ないと思うよ俺は。
夜の教室はやけに白く明るい電気が煌々と生徒たちの顔を照らし角度によっては青ざめて見えるほどだ。気温もかなり下がっている。窓の外は真っ暗闇。昼間とのギャップにぶるりと身震いする。帰りてぇー…。

「で、とりあえず教室に集まったけどどうすればいいわけ?除霊でも何でもいいから早めにお願いします。ていうかまだ学級委員決めてなかったわ。ハイやりたい人挙手して」

「今ですか!?」

「センセーお腹空いたアル。帰っていいですかぁ」

「待て待て神楽。じゃあお前が学級委員やるんだな?」

「そんな腹の足しにもならなさそうなこと誰もやりくないアル。報酬があるって言うなら考えてやってもいいアル」

「なんでそんな上から目線なんだよ。大体学級委員に報酬なんてあったら差別だろーが。……あーとりあえず今日の親睦会が無事に終わったらご褒美あげまーす」

大丈夫かなこれ。クラスの仲深められんのかね。まぁ大体喧嘩して大騒ぎしてるが基本的にまとまってはいると思うけど。

「はーいそこのジミーがやりたいって言ってますぅ」

「言ってませんよ面倒ごとは全部俺に回すのやめてくださいよ!」

沖田に言われた山崎は心から嫌そうに立ち上がった。推薦も無駄か?じゃあ最終手段だ。

「あーじゃあもうくじ引きで。誰かいらねー紙くれ」

はいどうぞ、と目の前の席に座っていた志村妙に紙を貰い適当に切ってその中の1つに赤ペンで当たりと書いて袋に入れた。それを2つ作って完成。

「よーし引きにこい。男女別な」

「学級委員をくじ引きなんかにして大丈夫なんですかィ」

「なるようになるだろ」

というわけで見事に当たり…もといハズレを引いた2人に前に出てもらう。

「近藤と猿飛な。よろしく」

「…おい大丈夫かこれ…変態2人じゃねぇか……」

変態というキーワードがどこからか聞こえたが無視。高校生なんて年がら年中ムラムラしてる変態みたいなもんだろ。

「近藤勲15歳!趣味は肉じゃがで好きな食べ物は剣道です!」

「坂田先生のために頑張りまぁす」

人前に出て…と言うか目の前にいる志村妙を見て心なしか緊張している近藤と、どことなく頬を染めた猿飛。とりあえず決まったな。

「……先生、なんか聞こえませんか?」

「え」

近藤のアピールをまるで聞いていなかった志村妙の言葉に耳を澄ますと、ヒタヒタ…と湿った音が聞こえなくもない。裸足で歩く足音にも聞こえるような、気味の悪い音。

「あーあれじゃねホラ……あれじゃね?」

「なんなんすか」

ヒタヒタ……ヒタヒタ……少しずつ近づいてくる。

「山田太郎のお出ましか」

ニヤリと笑うのは土方。いや何楽しそうにしてんだよ。ちょっと待って、マジでいるの?

「ちょっと先生!俺の後ろに隠れないでくださいよ大人気ないなぁ!」

「無理無理!マジで無理だからこういうの!」

山崎の後ろに隠れているとバチン!という音とともに教室が真っ暗になった。あーもう無理!みんな一斉に悲鳴をあげる。

「ぎゃああああああ!」

「何これ何これ何これぇぇぇ!!!」

「お、ポルターガイストですかィ。山田太郎、なかなか茶目っ気あるみたいですねィ」

「沖田くんやっちゃって!やっつけちゃって!」

「そんなこと言われても何にも見えないんで無理でさァ」

「くそー役立たずめ!」

「みんな落ち着いて!スマホのライト付けましょう」

「さすがお妙さんナイスアイデア!」

クラス全員のライトでぼんやりと教室の中が見えてくる。立ち上がって周りを窺っている奴が多い中、沖田に至っては席についたまま微動だにしていない。女子たちは固まって身を寄せ合っている。しんと静まり返った暗い教室に響くのは不気味な足音。ヒタヒタ…ヒタヒタ………すぐそこに、いる。

「…ちょっと誰か外見てきてくんない?100円あげるからお願い、志村くん行ってきて」

「安すぎますよこんな怖いこと100円で誰がやるっていうんですか!」

「沖田くうん!お前全然怖がってねーじゃん頼むよ!」

「センセー忘れてません?この目的は山田太郎に友達を作ることですぜ。退治だ追い出せだ…呪い殺されてーんですかィ」

「そんなこと言っても無理なもんは無理なの!」

「駄々っ子かよ」

土方に鼻で笑われるがもう知ったこっちゃない。ヒタヒタ…ヒタヒタ……。音が止まった。…いる。そこに。教室のドアの前にいる。冷や汗が止まらない。

「どーすんのどーすんのどーすんの!??」

「呼びかけてみたらどうだ?山田くーんてな」

「お前がやれよ土方ぁぁぁ!」

「せーので呼んでみるアル」

「よ、よしわかった。せーので山田くんな、…せーの」

『やーまだくーん。遊びましょー』

クラス全員で声を合わせて呼んでみると、しばらくの沈黙の後に扉がガタリと音を立てた。うわ、もう、本当マジでやめてくれよぉぉぉ!

「…あのー…山田じゃないけど遊んでもらえます?」

「ぎゃあああああああああ幽霊が喋ったぁああああああああぁああぁぁ!!!!!」

そっからはもう大パニックだ。真っ暗の教室で生徒たちの叫び声がこだまする。中でも一際デカい声を上げていたのは俺だけど。

「ちょっとちょっと落ち着いてみんな!俺俺!俺だって!」

山田太郎の霊が俺、というので恐る恐るスマホのライトで照らしてみる。ちゃんと足がある。コイツは……幽霊じゃない。この学校の生徒じゃない。むしろ若者でもない。黒光りする髭とサングラス。

「……誰?」

「あれ?もしかして認知されてない?用務主事の長谷川泰三です」

「用務主事ィ!?」

「用務員のオッチャンってこと?」

あのよく落ち葉掃いたり電球変えてるおじさん、と言われてみると確かに用務員の格好をしている。ヒタヒタ歩いてくるんじゃねーよ。

「なんだ施錠かよ!あーびっくりした!紛らわしい登場しないでくれません?つーか今日の居残りはちゃんと許可書出してあるんで」

「あーいやなんか盛り上がってるから来ちゃったんだけどォ。怪談話?」

「オッサン知ってるアルか?1年Z組山田太郎の話」

「あーそれね、俺」

「……はあ?」

いやオッサンじゃんアンタ。足あるし。

「どう考えてもアンタじゃねーだろ」

「いやね、俺この学校の卒業生なのよ。あの頃って怪談話がめちゃくちゃ盛り上がってさー、よく夜の学校に忍び込んだりしたもんよ。で一人ひとり順番に話してくんだけどネタ切れしてそのうち創作話になってくわけ。その中の山田太郎、考えたの俺なんだよね」

「…じゃあ自殺した山田太郎って嘘?」

「いや嘘っつーか怪談」

「成仏は?」

「そもそも死んでないって事だよなぁ」

「…なんだよお!!!だったらこんなことする必要ねーじゃん!はい解散!電気つけて!」

用務員の長谷川さんが電気をつけてくれて一件落着。いやそもそも何も起こってなかったんだけど。あー良かったガセネタで。

「なーんだつまんねェ」

「先生、終わったらご褒美あるって言ってませんでした?まさか嘘ですか?」

「よく覚えてるな山崎。あーでは今からご褒美配りまーす。後ろに回せよー」

でっかい袋をガサガサと開けて取り出したものを置いていく。

「あ!おにぎりネ!」

「渡った奴から食えよー。特製おにぎりだから心して食え。一粒も残さず食え。ひと口につき100回噛んで食えわかったな」

「手作りじゃないですか。まさか坂田先生が?」

「やだーわたし男の人が素手で握ったおにぎり食べられないのよねぇ」

「あらじゃあわたしがいただくわ!坂田先生の手汗が染み込んだおにぎりを貪り食ってやるわよ!」

「…盛り上がってるとこ悪いけど俺が作ったわけじゃねーから。志村、安心しろそれは女が握ったおにぎりだ。しかもめちゃくちゃ可愛い女が作ったやつだから。残念だったな猿飛」

あらまさか例の彼女さん?とニヤニヤし始める志村妙を筆頭にやたら含み笑いを浮かべる生徒たちの視線を受け止めながら俺もおにぎりをかじった。うまい。

「もろこしが入ってて甘くて美味しいアル!」

「こっちはたらこと三つ葉よ。美味しいわね」

「鮭の塩っ気が染みる…!」

おー、あの子色々具材入れてくれたんだな。俺のは甘辛く煮たうずらの卵が入っていた。マジで野球部の母ちゃんのようだ。顔も知らない俺の教え子の分も用意してくれた懐の広さと気の利かせようには驚かされる。

「先生は適当だけど彼女はしっかりしてんですねィ」

「そうやって釣り合いとってんじゃねぇの」

「オイそこー。聞こえてますよー。つーかさっき教室の電気消したのお前らだろ。どっち?」

「は?俺じゃねぇよ」

「俺もしてませんよ。席遠いし。やるなら土方さんの首落としてますぜ」

「え?じゃあ誰?」

しーん…と静かになる教室。神楽がもぐもぐと咀嚼する音しか聞こえない。え?誰も消してないの?

「………は、長谷川さん?さっき停電あった?」

「え?停電なんて起きてねぇぞ?俺が通りかかった時はもうこの教室だけ真っ暗だったけど」

「……………マジ?」

『……………………』

おにぎりを包んでいたゴミを捨てに俺が立つ教壇の近くに歩いてきた長谷川さんがスリッパでペタペタと足音をたてて目の前に来た。……ペタペタ?

「………ヒタヒタって足音は………?」

『……………………』

この日一番大きな悲鳴が学校中に響き渡った。









ピンポーン…ピンーポンピンポーンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポピポピポピポピポピポピポピポピポ!!!

呼び鈴を連打しまくって出てきた姫を玄関先で抱き締める。…というか抱きついた。

「たったったっただいまぁぁ!!!!!」

「わぁ!びっくりした…!お帰りなさい」

「姫ちゃん姫ちゃん姫ちゃん姫ちゃん姫ちゃん姫ちゃん姫ちゃん姫ちゃん!!!!!」

「ふふ、なんですか?銀時さん」

「ごめん今日遅くなるからって会う予定じゃなかったのに来てごめんでもさでもさでもさもう無理っていうか無理よりの無理って感じだから姫ちゃんお願い」

「はい?」

「今日一緒に寝ていい?っていうか寝かせて。お願い」


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