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16.アイスミルクフレンズ

「銀時さん、わたし明日から3日くらい留守にします…大丈夫ですか?」

心配そうに打ち明けた姫の腕の中でミルク(レープ)がにゃうん?と首を傾げた。可愛いものが2つも俺を見て首を傾げている。鼻血出していいですか。

「全然大丈夫だけど…友達と旅行?春休みだし」

「ううん、去年両親が離婚した関係で実家の荷物を片付けに来てって言われてて…何日かかかりそうなので春休みにしようって話だったんです」

「あーそうだったな。こっちは心配しないでいいから行っておいで。ミルクの世話もしとくから」

「ありがとうございます!助かります、じゃあこれ」

チャリ、と俺の掌に乗ったのは合鍵だった。猫のキーホルダーがついてる。いや、ふわふわの猫のキーホルダーの方がデカイ。どっちがメインかわかんねぇぞ。

「俺が預かっていいの?女の子の一人暮らしなのに」

「えっ、わたしがいない間に何かするんですか?」

「しないよ?しないけどね?男にそんなホイホイ合鍵渡すもんだから心配になっちゃって」

「…男じゃなくて彼氏です。それに銀時さんにしか渡してないんですけど…、お兄ちゃんだって持ってないですよ?」

「マジか」

そうか、兄妹いねーからよくわかんなかったけどそういうもんか。てっきり高杉は合鍵を持ってるかと思ってた。てことはコレ持ってんのは俺だけか。うわ、カップルっぽい。彼氏っぽい。彼氏だけど。いやこの自問自答何回目だ。

「ミルク寂しそうだったら夜ここで寝てもいいですよ。ご飯もなにか作り置きして……」

「いや、大丈夫だよ。家が大変なのに俺のこと心配しなくていいから。3日くらいいつも家で適当にやってるからさ」

そうですか、と安心したように笑った姫を送り出し、ひとりぼっち生活がスタートした。

1日目。
学校で事務作業に追われて夜帰宅。着替えて合鍵を使い姫の部屋へ。ミルクのご飯や世話をして適当に遊んでやりながら帰りにコンビニで買ってきたおいた弁当を食べる。いくら彼女とは言え家主がいない部屋でコンビニ弁当を食べるのはかなり違和感があった。この子の部屋で手作り以外の食事はしたことがない。こんなところ見られたらすっ飛んできて『何が食べたいですか?』とあのエプロン姿で聞いてくれるだろう。…なんかあれだけ長い間食ってきた馴染みのコンビニ弁当もうまくねぇな。ゴミを持ち帰りさっさと退散して就寝。

2日目。
また学校で事務作業と引き継ぎ。新しい学校へ行き挨拶など新年度の準備は面倒くさいことばかりだ。春休みに浮かれている若者が恨めしくなる。夜帰宅。姫の部屋でミルクをあれこれしてカップラーメンをすする。仕事中の昼飯はだいたいコレか購買のパンだ。姫がたまに作って渡してくれる弁当がどれだけありがたいか。そろそろ飽きたな、この味。ゴミをまとめていると着信が入る。姫からだ。

「もしもし?姫?」

『俺だ』

「……んだよ、お兄ちゃんかよ」

聞こえてきたのは高く可愛らしい声じゃなくてクツクツと笑う低い声。

「オイなんで姫のスマホからかけてくんだよ、お前自分のはどーした」

『寂しいからって姫の部屋でシコってんじゃねぇぞ』

「シコってねーよ!それくらいわきまえてるわ!つーかお前も実家戻ってんの」

『俺も呼び出されたんだよ。アイツ親が離婚するの最後まで反対してたから相当ダメージ受けてると思ったが…意外と元気そうじゃねぇか。てめぇのお陰ってことにしといてやるぜ』

「…そうか」

お兄ちゃん、それわたしのだよ!と遠くから姫の声がしたと思うとガサガサ布が擦れる音の後に俺の好きな甘い声が耳に響いてきた。

『銀時さん?ごめんなさいお兄ちゃんが勝手に…びっくりしたでしょ』

「あーびっくりしたけど大丈夫。どう?実家」

『まぁまぁ片付きました。それより銀時さんは大丈夫ですか?ご飯ちゃんと食べてますか?』

「食べてる食べてる。ミルクも元気だぞ〜、なぁミルク」

胡座を描いた中に丸まっているミルクの顎の下を撫でるとゴロゴロ喉を鳴らして、にゃあ〜と鳴いた。聞こえただろうか。

『ミルク、銀時さんがいて良かったね。あ、言い忘れてたんですけど冷凍庫にアイス入ってるので良かったら食べちゃってください』

「おーありがとな。明日の帰り連絡くれれば迎えに行くから」

『嬉しいです』

じゃあまた、と言って通話終了。冷凍庫にはまさかの手作りアイスが入っていた。マジであの子なんでも作れるな。ミルク味の白いアイスを食べながら姫と付き合うまでの毎日を思い出そうとした。ひとりの時ってどうやって過ごしてたんだっけ?思い出せない。ゴミを持ち帰り、就寝。

3日目。
今日も仕事。夜帰宅。なんか身体がだるい。疲れもピークだ。ミルクのあれこれをアレして早々に帰ろうとするともふもふの物体がにゃあにゃあ絡んでくる。さすがに寂しいよなお前も。

「あー姫ちゃん早く帰って来ねぇかな」

にゃう、と返事するミルクも元気なさ気だ。
3日顔を見ないことなんてザラにある。俺の仕事が遅くまでかかってたり姫のテスト期間と重なったりするときは1週間以上空いたこともある。それでも大丈夫だったのは、 姫がここにいるって、この部屋で過ごしてるって分かってたからだ。部屋の前の通るたびに美味しい香りが鼻をくすぐる、それが安定剤になっていた。困ったな、そんなに重い男じゃなかったはずなのにもう会いたくて堪らない。ぬくぬくと暖かいミルクを撫でているうちに連日の疲れから急に眠気が襲ってきた。

「……やべ、寝てた」

冷えてきた身体に目を覚ますといつの間にか深夜2時を回ったところだった。眠い。このまま姫の部屋で寝ちまうか。毛布を借りようとして姫の寝室に入ると足元を薄い茶色の物体がするりと通り過ぎ、ベッドに上がってふわふわの布団の上で丸くなった。

「お前いつもそんないいところで寝てんのかよ。羨ましいなチクショー」

これじゃ毛布取れねぇじゃねーか。……いいか、俺もベッド借りて寝るか。姫もここで寝ていいって言ってたし。女の子特有の柔らかな香りがふんわりと漂う部屋でオッサン一人が寝るなんて冷静に考えるとおかしな話だ。ミルクを避けながらベッドに上がり込むと、姫のシャンプーの甘い香りに包まれる。うわ、コレ、想像以上にヤバいんじゃねーか!?姫に抱きしめられてるような気持ちになってドギマギする。本人のいないうちにベッドに潜り込むなんていけないことをしているような気分だ。
柔らかな毛布に身体を包んで思いっきり深呼吸するととてつもなくムラムラしてきた。あーやべ、完全に目覚めた。あーーヤバいわコレどうしよう。俺の俺が大変なことになっちゃうかもしれない。いや待て、ここでしたらまずいだろ流石に!高杉の言った通りになっちまう。それは彼氏としてやべぇだろ。くそ、どうすりゃいいんだ生殺しだろ完全に……!
思えばこのベッドに転がるのは姫に告白して付き合うことになった夜に泊まった日以来だった。付き合ってから数ヶ月…いやもう半年近く経つ。あの繋いだ手の小ささと眠る姫の穏やかな寝顔。伏せられた長い睫毛。艶やかな唇……、

「やべぇってマジでやべぇよコレ!そうだアイス食おうアイス!あとちょっと残ってたんだよな頭冷やそう」

逃げるように寝室を出て冷凍庫の容器からアイスを出して口に入れる。冷たい。火照った身体にちょうどいい。姫が作ったミルク味のアイス……あの小さな手で、エプロンつけて…ひとつにくくった髪から覗くうなじが色っぽくていつも噛み付きたいのを我慢して………、

「だぁぁぁあぁぁぁぁあ!!!!!アイスで欲情してんじゃねーよ俺ェェェェ!!!」

もうダメだ、退散だ退散!片付けをして部屋を出た。自分の部屋で就寝。はじめからそうすれば良かった。ミルク、悪いけど一人で寝てくれ!

4日目の朝。
顔を洗って身支度を整えるといつにも増して死んだ顔をした自分がいた。そろそろ禁断症状が出そうだ。一刻も早く会いたい。とにかく気を紛らわせようと思い洗濯をして部屋中を掃除した。ミルクにご飯をあげるついでに姫の部屋にも掃除機をかけてコロコロする。ミルクの毛が付いたシートをめくりながら昨夜の痴態を思い出しそうになるが抑える。平常心平常心。朝からアホみたいに煙草を吸ってるせいで少々気持ち悪くなってきた。せっかく最近ヤニ抜けてきてたのにな。おえっ。
ピンポーン、インターホンが鳴る。誰だこんな朝から。荷物だろうか。液晶を確認するとそこには、

「姫」

「銀時さーん」

キラキラ眩しい笑顔。会いたくてしょうがなかった彼女だ。玄関を開けて入れてやる。

「お迎えに来てくれるって言ってくれたけど…早く会いたくて朝イチで帰ってきちゃいました!」

えへへ、と笑いながら荷物を下ろしたその身体を抱き締める。甘い香り。あー落ち着く。

「お帰り。あー姫会いたかったー」

「ただいまです。わたしも」

姫からもぎゅっと腕を回される。コートも脱いでないしマフラーだってしたままだけど早くくっつきたいのは同じだったようだ。

「…銀時さん、煙草の香りする」

「あ、悪ィ。臭ぇだろ」

「ううん。銀時さんだから落ち着きます」

「もうマジで姫不足で死ぬかと思った」

「寂しかったですか?」

「この3日俺がどんだけ寂しかったか見せてやりてぇわ」

「えへへ」

腕の中で声を上げて笑う姫に軽くキスをしてやりながらマフラーとコートを剥ぎ取って椅子にかけた。心の中でよいしょっ、と勢いをつけてお姫様抱っこでソファに運んで押し倒す形で覆い被さった。姫は多少驚いたようだが素直に受け入れた。両手を繋いで指を絡ませて最近教えたフレンチキスをゆっくりと深くしていく。3日分充電させてもらわねぇとな。
ちゅっと音を立てて熱い吐息を奪うと同じタイミングで身体が揺れた。あー、俺の方が限界近いかも。俺の俺が反応してるのがわかる。キスだけで。十代の学生じゃああるまいし。いや昨日はもっとヤバかった。姫がいないのに想像だけで勃っちゃったもん。どんだけだよ。

「…ふ…、」

「姫ちゃん、俺のこと好き?」

「…すき、です…ぎんときさん、」

上擦った甘い声が腰にクる。言わせたのは自分だがちょっともう限界です。最後に、んーー、と子どものように唇をくっつけて離した。

「帰ってきて早々悪いけど後で昼飯なんか作ってもらっていい?」

「はい、何が食べたいですか?」

そうそう、その言葉を聞きたかったんだ。




title by 白桃
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