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11.キラキラプラチナタン

「おーい金時、姫、こっちじゃ!」

腐れ縁のご飯会にしては珍しく集合場所が居酒屋じゃなくて肉レストランだった。
いつも狭くむさ苦しい居酒屋で焼酎と安い焼き鳥食って騒いでる連中が、突然シックでモノトーンな、それも個室の店に入りたくなる理由がわからない。
まさかとは思うが、姫ちゃんがいるからだろうか。そんなに気の回せる男どもだったか?

「なんだ銀時、姫と一緒だったのか」

「なんでこの子も呼んでんの」

「お前がいないときはいつもいたぞ」

「マジか」

「姫が金時とご飯なんてイヤ!って言うからのぉ〜」

「嫌なんて言ってないよ辰馬くん、無理って言ったの」

「無理!?それも酷すぎねぇ?」

店に入りオープンキッチンを通り過ぎて奥の個室の席に着きながら姫ちゃんは辰馬とヅラと親しそうに話している。本当に幼馴染みなんだな。むしろ俺に対してよりも心を開いているように見えるぞ。

「で、高杉は?」

「『先に食ってろ』だそうだ」

「まーたいつものドタキャンかもな」

そもそもむさ苦しい野郎4人の筈だった今夜の飯に姫ちゃんが来ることになった経緯はこうだ。

小テストの問題を自分の部屋で作っていると辰馬から電話があり、いつもの店の予約が貸し切りで急遽取れなくなったという話をしていた矢先にうっかり姫ちゃんとのことを口走ってしまったのだ。

『そういえば姫ちゃんに聞いたけどお前ら俺抜きで飯行ってるらしいじゃねーか』

『ん?そりゃあ金時が来たら姫がおまんを好きってバレ…………………』

『…………………』

『…………………』

『…もう隠さなくていいぜ。俺、姫ちゃんと付き合うことになったわ』

『…………………』

『オイ聞いてんのか辰馬』

『宴じゃああああああ!!!今夜の店は任せろ!姫も連れて来い、いいな金時!!場所は追って連絡する!』

『オイ、ちょっと待、』

というわけである。

この店のオススメはしゃぶしゃぶらしい。
メニューを開くと希少部位の写真がずらりと並ぶ。
オイお前らいつもこんないいモン食ってんのか。
とりあえず適当に注文して酒を……ちょっと待てよ?

「姫ちゃんちょっと聞いていい?君もしかして未成年?」

隣に座る姫ちゃんを見ると、なぜか恥ずかしそうに俯いている。そういえば席に着いた時からずっとだ。

「おい銀時、あまり姫を刺激するな。お前を入れてこうしてテーブルを囲むのをずっと楽しみにしてたんだ」

「ちょっと、こたちゃん…言わないで」

「何それめっちゃ可愛いじゃん。ちゅーしていい?」

「辰馬くん席変わってー…!」

「姫、やっぱこんな男やめた方がいーんじゃなか?」

酒が運ばれてくる。姫ちゃんはお茶ね。

「姫の初恋成就にかんぱーい!」

おめでとー!とグラスがぶつかる。

「いやー長かったなぁ!やっとおまんらが並んでいる姿を見る日が来たんじゃなぁ!」

「銀時、この間一応忠告はしたからな?手の平でコロコロ転がされても後悔するなよ?」

「あーアレさー、思い返すとお前らよくあんな自然にとぼけられたよなぁ。演技力の高さに脱帽したわ。まぁ姫ちゃんと付き合えたしいいわ。つーかしゃぶしゃぶうま。タンのしゃぶしゃぶって初めて食ったわ」

「ああ美味いなこれ。それと姫、此奴が嫌になったらいつでも別れていいからな。お前はまだ若いんだ、いくらでも良い相手がいるさ」

「初っ端から別れる前提で話すのやめてくんない?」

「こたちゃん、わたし坂田さんと仲良くなれて本当に嬉しいんだ。頑張って早く一人前の社会人になるね」

「ううっ、泣かせるな、姫…!こたちゃんはいつでもお前の味方だぞ…!」

「なんだこの茶番は」

「放っとけ放っとけ!ヅラはいつもこうなんじゃ」

すき焼き風のしゃぶしゃぶも美味いな。姫ちゃんに勧めると嬉しそうに笑った。うーん、可愛い。唸りたくなるほどだ。

「で、お前らどこまでいったんだ」

「ブッ!なんだよどこまでって」

「お前はクズアラサーだが姫はまだ未成年なんだぞ。その辺どう考えているんですか大人として」

「…あー………まあ、合意があれば良いかなとは思ってますけど。本人同士に任せるということで」

つーかコレ姫ちゃんに聞かせて大丈夫なわけ?いたたまれないのか隣で黙々としゃぶしゃぶしてますけど。出汁の中でプラチナタンがゆらゆらゆらゆら。それもういいんじゃねーかな。

「なんだお前らまだヤってねぇのか」

「たっ……高杉!!」

「おう遅かったな高杉。始めているぞ」

辰馬の隣に座り俺と向かい合うようになった高杉は高そうなコートを脱いで酒を注文する。この話題に入ってくる気満々じゃねーか。

「お前にしちゃあ奥手じゃねェか。もしかして記念日とか大事にするタイプか?」

「来て早々なんなのお前、帰ってもらえます?仮にも妹の前で言うことかよドン引きだわ」

姫ちゃんはメニューを持ってすみませーんと席を立って行ってしまった。逃げたな。そりゃ逃げたくもなるわこんな話。まぁクソな大人が酒の席で一番盛り上がるのが猥談ですけどね。

「逆にお兄ちゃんとしてはどうなの、その辺」

「付き合った時点で責任は取ってもらうつもりだが?まさかキズモノにしといて放り出すなんてことしねぇよなぁ?俺の大事な妹に」

マジ睨みされている。怖すぎだろ。ちびるわ。

「せ、責任ね。取る取る。取らせていただきます。この度妹さんとお付き合いさせて頂くことになりました坂田銀時です。妹さんを僕にください」

「金時、それはちと早いぞ」

「えっなにこれ…」

高杉に頭を下げているところを戻ってきた姫ちゃんに見られてしまった。男はな、時に頭を下げないといけねぇ場面があるんだよ。

「お前が義理の弟になるのか、そりゃあ楽しみだなぁ?銀時」

「くそ…いずれコイツと親戚になるのかよ……それだけは嫌だ………」

このままだと一生コイツに頭上がんねーじゃん。

「お兄ちゃん、あんまりからかっちゃダメだよ。坂田さんのこと好きだからって」

「いやそりゃねーだろ。つーか本当に血繋がってんの?実は他人でしたーってオチ期待してんだけど」

「残念ながらそれはねぇな。出産立ち会ってるからな」

「マジか」

「まぁ仲良くやれや」

突っかかってくる割にはすんなりと会話を終わらせた高杉はどこか満足そうに酒が入ったグラスを煽った。





帰り道。俺たちは駅からマンションまでの道のりをゆっくり歩いた。お隣さんっていいな、ギリギリまで一緒にいられる。

「姫ちゃんいつもあんな濃いメンバーの中にいてよくそんな純粋でいられんなぁ。俺めっちゃ疲れたわ」

「みんな優しいですよね」

「姫ちゃんにはね。…あのさぁ、そろそろ呼び方変えてもいい?」

「呼び方?」

「他の奴らみたいに姫って呼んでいい?」

「……はい」

「ちょっと俺んち寄ってって」

マンションに入り自分の部屋の鍵を開ける。扉を開けて姫ちゃんを玄関の中に引き寄せて、抱きしめた。パタンと扉が閉まる。

「姫」

耳元で囁いて唇を落とす。何度も。扉に押しつけるようにして、でも優しくその髪や身体の感触を確かめる。可愛い、俺の彼女。

「姫も名前で呼んでくれる?」

「さか……、ぎんとき、さん」

「好きだよ」

「わたしも大好きです」

「もうちょっとキスさせて」

姫が目を閉じたのをイエスと判断し、思う存分その唇を味わった。




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