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ただきみのためだけのぼくだよ


『うその匂いは甘い』の続きA


彼女の身体からはいつもふんわりと甘い香りがした。香水かと思っていたがそれがシャワージェルだと知ったのはセフレという関係になってからだ。

夢のような一晩を共にして学生寮に帰りその香りが自分の身体に残っていることに気付く度に、どうしようもない焦燥に似た衝動が胸を抉る。今日は誰と、明日はどんな男とこの香りを共有するつもりなのか考えるだけで吐きそうになる。

「あー……いつまで続けんだよこんなこと」

自分に聞いたところで返す答えを持たない。名前のことが好きなだけなのに何でこんなことになってんだ?そもそもの始まりは学部の先輩に誘われて行った飲み会だ。そこは形としては認可が降りたサークルではあるが中身はない所謂飲みサーで彼氏彼女やセフレを探したりするようなお気楽な集まりだった。付き合いで一度だけと言って参加してみると色んな学部の奴らが集まってて、他の講義の話を聞くのもまぁ悪くなかった。その中に同じく友達に誘われたであろう名前がいた。とりあえず顔が好みでかわいーなーとか思っていると隣にいた男も狙っているらしくあれこれと名前に話しかけていた。男の好みから下ネタまで割とデカい声でしていたから俺の耳にも入ってきた。

「名前ちゃん今まで何人と付き合ったの?絶対モテるでしょ」

「モテないですそういうのよく分かんないです」

「えっ数え切れないくらいいんの!?セフレとかも!?見えないけどなー」

「違いますってば!聞いてくださいよ」

名前の声は小さくてよく聞こえなかったがなかなかモテるらしいし意外にも男遊びなんかも嗜んでいるようだ。いやよく見ると結構良い身体付きしてるしなー。今時は清楚系の子の方がエロいとか言うしな。てか元々ここは飲みサーという名のヤリサー。あの子もそっち目当てだったのか。飲み会は早々と解散になった。この後それぞれ気に入った男女は夜の街に消えて行ったり飲み足りない奴等は二次会に行く。名前の方を見るとさっきの男と二人でラブホ街に向かっていこうとしていた。あーあ残念。俺も一回くらいヤってみてーなとか思いながら見ていると、明らかに様子がおかしいことに気が付いた。あれ、嫌がってね?

「あのー。ちょっと良いすか。俺も混ざりてーんだけど3Pとかできます?」

「ハァ!?出来るわけねーだろこの子は俺と」

「じゃあ譲って。俺今夜はこの子とじゃなきゃ勃たねー気がするんすよー。てことで失礼しまーす」

「きゃっ!」

名前の手を取って走り出し適当に入ったラブホで息を整えた。あ、やべつい連れ込んじゃった。

「いた……」

小さく痛みを訴えた足元を見ると無理にヒールで走ったせいで足の甲が靴擦れを起こし血が滲んでいた。

「ごめん、全力で走り過ぎた。それ脱げば?」

「うん」

ベッドに腰を下ろしヒールを脱いだ名前はぶらぶらと足を揺らしどこか落ち着かない印象を受けた。

「もしかしてお節介だった?アイツとヤりたかった?」

「ううん、ありがとう。お酒飲んで走ったらちょっとふわふわするかも…少し休んでから出るね」

そう言ってころんと横になった名前のスカートが捲れ上がってなかなか際どいことになっている。アレこれまさか誘われてる?試されてる?

「坂田くんって…こういう集まりによく来るの?」

「いや、今日が初めて」

「わたしも」

横になっている女とベッド脇で立ちすくむ男が一人ずつ。この構図、どうするべきか。

「さっき女の子達が話してたけど彼女いっぱいいるんだ?」

「は?誰とも付き合ってないけど」

沈黙。そういえば名前の学部はどこなんだろう。同じ大学だと言うことと名前くらいしか知らない相手とラブホにいるなんてすげーな。

「名前ちゃんは?結構男遊びしてんじゃないの。かわいーし良い身体してるし。俺性欲強い子好きだよ」

「…じゃあする?せっかくだし」

「え、いーの?」

「………………うん」

誘っておいてかなり溜めた返事をして起き上がった名前は自分の胸元に手をかけた。脱ぎかけたトップスから淡い色のレースのブラに包まれた谷間が見えて思わず手を突っ込んだ。びくりと身体を震わせて上げた顔にキスをしているとあっという間に夢中になった。乗り気じゃなさそうだったのに服脱がせたらどこもかしこもすっげーエロくて。触れば触った分だけ素直に感じておまけに潮吹くんだよあの子。ヤバくね。あんなエロくてびちゃびちゃにしてもっとって欲しがるくせに真っ赤になってスッゲー恥ずかしそうなとろけ顔すんの見たらもう落ちないわけがない。セフレ居るはずだわ。こんなん男が放っておかねーよ。もともと気になってたのにアレで完全に惚れてしまった。

行為が終わってシャワーを浴びて部屋に戻ると転がっていた小さなヒールに血が付いていた。名前は疲れて寝てる。確か裏にドンキあったな。サイズを確認して、すぐ戻ると書き置きを残してドンキに走って安いスニーカーを買って戻った。家に帰るだけならこれで充分だろ。

「え?靴買ってきてくれたの?わざわざ?」

目を覚ました名前は目をまんまるにして驚いた。

「絆創膏あるから大丈夫なのに」

「あーそっか!そうだよな。なんかもう使えねーかと思っちまった」

名前がバッグから取り出した絆創膏を奪う形で手に取り足にぺたりと貼った。そんな俺を馬鹿にするでもなく嬉しそうに見下ろしていた。

「ふふ、優しいんだね。ありがとう」

あ、マジで好きだ。ここへ来て初めて笑顔を見た気がする。連絡先を交換した別れ際、これで終わりにするのはあまりにも惜しくてつい口走ってしまった。思えばこれが間違いだったんだ。

「俺達相性良いみたいだしセフレになろっか」

なんであんな事言ったんだ俺。

「…うーん………良いよ」

良いのかよ。
二回目を誘ったのはそれから三週間も経ってからだ。あんまり連絡しても断られた時のダメージヤバいし頻繁に会って飽きられて終わりにされるのも怖いし。その時にあの香りを知ったんだ。肌弱いからって持ってきたボトルの香りが俺も好きで、好み似てんなーとか嬉しくなったりして。でもある日先輩から甘い香りがした。あの香りだ。あーやっぱ彼氏じゃない男とでもセックスできるんだって思った。俺もセフレのうちの一人でなんも特別なわけじゃねーんだなって。そう思うと一気に心が冷えたけど、でも俺が連絡しない間に他の男に抱かれる名前を想像するとやっぱ嫉妬してダメで、結局はただのセフレというポジションにどハマりして抜け出せないでいる。誘うのは常に俺からだ。向こうから連絡なんて来たことない。男に困ってねーんだろうな。たまにキャンパス内で見かける名前は楽しそうに友達と歩いていた。その中には男もちらほらいた。アイツらともエッチしてんのかな。同じ学部だったら俺も自然に声かけて一緒に講義受けよーとかノート貸してーとか言えんのにな。

「あーーーーーーーだる………」

帰ろうかな。すると名前が俺に気付いてこっちを見た。サボろうとしてんのがバレたのか、くすりと笑った。たった一瞬の出来事だったがこの胸を打つには充分過ぎた。

「あー………やっぱ好きだ……」

溜息。恋ってびっくりするほどしんどい。しんどすぎて死にそう。



→B
title by irururu






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