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うその匂いはあまい


裏注意/セフレ表現あり


同じ大学の坂田くんとは学部も学科もゼミも違うのに頻繁に会う仲である。連絡するのは彼からで決まって二人きり、誰もいない場所で待ち合わせするのが暗黙のルールだった。今日はバイト終わりに安っぽいラブホで。
「お疲れ」なんて挨拶もそこそこに荷物を置いた坂田くんはバスルームに直行した。後を追うと浴室の電気をつけてシャワーのお湯を出した坂田くんが振り返る。視線はわたしの手のひら。以前友達と旅行した際にホテルの備え付けのボディソープで真っ赤に肌荒れしたことがあってから持ち歩くようになったお気に入りの香りのシャワージェル。服を脱いでいる間にそれを手に取った坂田くんはわたしの背中に中身をたらりとかけた。

「ひゃあ!」

冷たさに驚いて振り向くと同時に唇が塞がれる。もうとっくにエッチモードに入っていたらしい坂田くんはまだ脱衣所だというのにねっとりとした濃厚なキスを繰り返す。流れるようにブラのホックを外してジェルを背中に塗り広げながら手が腰に下がっていく。尻たぶを揉まれこれから起こる激しい行為に期待が高まり早くも下着が濡れてしまうのがわかる。はぁ、と低く吐息が漏れる度に子宮が痙攣してしまう。

「ん、ん…….っ」

パンツを下ろしやっと浴室に足を踏み入れた。もわもわと立ちこめるシャワーの湯気が全身を包む。片手に持っていたシャワージェルのボトルを今度は胸元で逆さにしトロリとした液体を流した坂田くんはお湯で泡を立てながら胸に手を滑らせた。ぬるぬると手のひらが全身を愛撫する。胸の膨らみを揉み、立ち上がった先っぽを執拗に摘んだり弾く。

「あ…っ、ん…」

「いつ見ても良い形だよな。色も綺麗だし」

ぎゅっとしがみついて腰をくねらせるともう既に固くなりつつある坂田くんの中心がお腹の下辺りに触れた。上下に揺すると泡のおかげでぬるりと擦れて気持ちいい。それは坂田くんも同じだったようで腰に手を回して身体を動かした。

「うっわ、ローションプレイみてー」

甘ったるい香りが狭い浴室に充満して酔いそう。身体を洗うのに充分過ぎる量を出したシャワージェルを洗い流して碌に身体も拭かずベッドに雪崩れ込んだ。

「見せて」

それは足を開けという合図。仰向けでゆっくりと両足を開き、よく見えるように指でほんの少し広げるとニヤッと笑った。

「もうそんな濡れてんの?バイトしながら俺に触って貰うの期待してた?」

「ねぇ早く…、」

「余裕ない顔。可愛いねぇ」

くちゅんと水の膜を破って刺さった坂田くんの長い指は自分でする時なんかよりもずっと奥に入って気持ち良い場所を正確に突いて擦り上げていく。

「んっ、ん…ーっ…」

「すげーきゅうきゅう締めてるけど最近してないの?んな欲求不満だった?」

すぐに二本目が増やされて浅い肉壁を小刻みに刺激する。何かが押し寄せてくる感覚に頭がいっぱいになって坂田くんにしがみついた。

「ぅ、あ、っあっぁだめ、出ちゃ、っ」

「ココな。びちゃびちゃになるとこ見せてよ」

やがて我慢できなくなってガクガク腰が震えるのを見計らって指の動きも大胆になっていく。恥ずかしさを通り越して熱を解放すると温かいものが勢い良く溢れ出した。

「ああぁっ!やあっあっー…っ!」

「うわすげ、あんなとこまで飛んでる」

見ろよと言いながら濡れた手を舌で舐め上げるのが目に入る。

「っやだ舐めないで」

「まだ出る?」

「もっ、待って…っんぁ!」

息つく暇も与えられず再び指が入り込んできてまた奥を刺激する。

「他の男んとこで濡れないようにここで出してって」

「んんっ、ちょっと、きゅうけ、…っ、や、ぁ!」

「出して。全部」

イッたばかりなのに次々と与えられる刺激の中に突然ぐちゅっと入り込んできた坂田くんのモノ。腰から背中に電気が走ったみたいな快感に息が詰まるけど間髪入れず動き出したせいで待ってと言うタイミングを失いただ喘ぐだけになった。意識してないのに触れ合ってる部分が吸い付くように締まり、奥に当たる度にまた大きな波がそこまでやってくる。

「あっあぁ、やぁっまた、」

「っ出る?いいよイッて」

坂田くんの太腿に足を乗せ引き寄せられて腰が浮いたような状態で固定されたままぐちゃぐちゃに突き上げられて絶妙なタイミングで勢い良く出て行った熱を追いかけるようにまたイッてしまった。同時にぱたぱたとシーツに水滴が落ちていく。

「ほんっとにエロい身体。イきながら潮吹いちゃう時のナカめっちゃ気持ち良いんですけど。これ知ったら他の女とできねーじゃんどうしてくれんの?」

「…っそんなの嘘、なくせに…っあっ!」

「誰がヤリチン天パ野郎だって?」

そう、わたしたちは付き合っている訳じゃない。所謂セフレ。だから堂々と大学内で並んで歩いたりしないし人気がなくてセックスできるような場所でしか会わない。好みの服やアクセサリーの系統もよく分からない。服なんてすぐ脱いじゃうから。裸を見てる時間の方が多いから。身体の奥の奥の性感帯まで知り尽くしているのに、わたしたちはお互いのことを全然知らないまま。でも、坂田くんにとっては適当に遊んでる女のうちの一人かもしれないけどわたしは密かに彼のことが好きで片想いをしている。何故だかわたしは彼に男遊びしてる軽い女だと勘違いされている。本当は男遊びはおろかまだ誰とも付き合ったことがないのに。
初めて会ったのは友達と行った飲み会だった。しつこく誘ってくる先輩がいて、坂田くんが助けてくれた。その流れで入ったホテルで抱かれて、向こうからセフレにならないかと誘われ未だにこんな関係を続けている。『性欲強い子が好き』だと言う彼に少しでも気に入られたくてセックスが好きな振りをしているだけなのに。

「なんか最近どんどんエロくなってね?誰に仕込まれてんだか。妬けるわー」

誤魔化すように鎖骨の辺りにキスをするとお揃いの甘い香りが坂田くんからするのが嬉しくて、何度も首筋を舐めたり吸ったりしているとお尻に触れていた坂田くんの中心がまた熱く硬くなってきたのがわかった。それに手を這わせてゆるゆると扱いていく。びくりと背筋を震わせて反応してくれる時が幸せ。口に含んでじゅこじゅこと音を立てて唾液を絡ませると「あー…やべ…」と眉を寄せた。

「んっ!ふ、ぅ」

突き上げたお尻をぱちんと叩いてからワレメを広げ指を差し入れられて思わず口から溢れそうになった男根を慌てて咥え直す。

「俺の舐めてこんなにヒクヒクさせて、本当好きだなセックス」

「あ、ふ、っんん、」

好きなのはセックスじゃなくて坂田くんだし、坂田くんじゃない人とセックスなんてしたくない。

「…ね、もうちょっとできる?」

「俺を誰だと思ってんの。そっちこそ意識飛ばすなよ」

自信満々に言って髪をかきあげる仕草に胸がぎゅうと悲鳴をあげた。好きな人とエッチできて嬉しい。なのにとてもとても悲しい。幸福で満たされる行為も朝になれば虚しくて涙が出るくらい。この人がわたしだけのものだったらどれだけ幸せだろう。でも『誰とも付き合ってない』って言った背中はまさに一匹狼で、彼は後腐れない今みたいな関係を望んでるんだと思った。好きなんて言ったらもう会ってもくれなくなるってわかってるから言わない。だから坂田くんがわたしに飽きるまでの間、その間だけ愛されることだけがわたしの存在理由だ。甘いシャワージェルの香りが消える前にまた会えたら良いなって、思ってしまう。

「あ、っあぁ、さか、たくっ、イッちゃ、っ!だめ、」

「っ名前、俺もイく、一緒にいこーぜっ」

名前を呼ばれて身体全部で坂田くんを締め付けると短い喘ぎ声を溢しながら最奥に肌を打ち大きく痙攣した。

「…はーっ……泣くほど良かった?」

「………うん…気持ちよかった…」

俺もと笑ってから頭を撫でて頬にキスしてくれる優しいところが好き。

「身体だいじょーぶ?」

「うん」

「べちゃべちゃだな、シャワー行くか」

「もうちょっとこのままがいい」

首の後ろに手を回して抱きついて胸板に頬を当てる。まだ心臓の音が速い。坂田くんとわたしの身体から溢れた二人分の液体の余韻に少しでも長く浸っていたい。坂田くんはわたしが疲れてるの思ったのかそのまま髪を撫でたり腰をさすったりしてた。もう少ししたらシャワーを浴びて服を着て、何にもなかったような顔をしてバイバイする。その瞬間が世界で一番嫌い。次は誰の所へ?今度はいつわたしを抱く気になってくれるの?そのうち飽きられちゃったらどうしよう。

「…嫌だなぁ」

「何が?」

「……明日の課題」

「うっわ忘れてたわ俺もレポートあるんだった」

やべーって頭をかくけどそんなにやばそうな声色じゃない。こういう時に同じ学部だったら手伝おうか?とか教えようか?とか口実つけてホテル以外でも会えるのに。でも何も浮かばない。他に共通点なんてないんだもん。

「眠い?もう寝そうじゃん」

痺れるくらい疲れてるけど寝ちゃうなんてもったいなくてできない。でも無言で甘えると応えてくれる。どんどん好きになっちゃって困る。

「名前」

「なに?」

「また連絡していい?」

「…うん」

もうこういう約束しかできないのかな、わたしたち。ねぇ知ってる?本当は他にセフレなんて居ないんだよ。本当はセックスの経験人数はたった一人、坂田くんなんだよ。あの夜、初めて男の人に抱かれたんだよ。わたしの身体を知ってるのは坂田くんだけなのに。本当のことを言える勇気なんてもうどこにもない。


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