46.5かぐや姫は何処へ消えたのか
『二つの世界を生きたあの子の存在は特別なんだ。魂だけを持ってきた時とは勝手が違う。そして君たちは彼女の世界を変えた。…少し時間が欲しい。
『姫』が君の世界で生きていくために』
…………寒ィ、
身体が、服が重い。全身に染み込んだ水が体温を下げていく。…そうだ、月の国で殺されるはずだった姫を連れ帰って……、
「姫、」
ガバッと飛び起き目の前に広がるのは俺の世界。満月の夜。あの日姫が倒れていた木の下に俺はいた。……そう、俺だけが。
「おいカミサマ、姫をどこへやった!?」
答えはない。もう俺の中にあった月の力がなくなってしまったのだろうか。いやそんなことはもうどうだっていい。
確かにあった温もりが、どこにもない。腕の中にしっかりと抱いたはずだった。細い腕がこの背中にあって、帰ったらゆっくりしようと柔らかく笑うその表情が何よりも愛おしくて…その微笑みのために刀を振るうと決めたのに。
何故だ、何故一緒にいられないんだ。もう充分だろ。アイツが何をしたっていうんだ。追っかけ回されて殺されて、変な力に振り回されて。争いが嫌いなアイツが銃まで持って守ったものが、これだっていうのか。
「……ふざけんな」
握り締めた拳が肌に食い込んで傷む。それよりももっと深いところにある部分が壊れそうで、立っていられない。
ーこうしてかぐや姫は月の輝く十五夜に空へと飛び立っていきました。さようなら、さようなら……。
title by 水星