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33.グッドエンドの逆算



「目覚めたか」

「総悟くん、」

心配そうな顔でわたしの顔を覗いていたのは総悟くんだ。見慣れた部屋の天井。あれ?わたし、銀ちゃんと源外さんのところに行って、それで………。

「旦那が血相変えて姫をおぶってきたから驚いたぜ。何があった」

「あのひとが、」

「あの人?」

「ちがう…」

違うひとだ。でも確かにわたしを知っていたし、似ていた。思い当たるのは……転生。わたしを追ってあちらの世界まで来ていたの?
そう考えるなら、あの日わたしを殺した後にあの人も自らナイフを突きつけて死んで、同じようにこの世界でまた蘇ったの?
あの人と残夢は同一人物だとすると、辻褄が合う。
あの人の形をした人間は、数ある残夢の転生の中のひとつだったんだ。もう一度、殺しにきた。最後のアレス族の力を持つわたしを。『月の雫』を奪うために。

「姫、」

「あの人は残夢だったんだ……」

確信する。わたしは歯車のひとつなのだと。










「ふふ」

「あはは」

「ええ?そうなんですか?」

楽しそうな声が襖の向こうから聞こえてくる。
真選組にいる人間でこんなに甘く可愛らしい声が出せるのは1人だけだ。

「あそこ…斉藤さんの部屋ですよね。いつの間にあんなに仲良くなったんですか?ていうかどうやって会話してるんでしょう。姫ちゃんの声しか聞こえないけど」

「さあな」

「あれ、沖田隊長やきもちやいてません?」

「やいてねーよテメェが焼け死ね」

「痛って!蹴らないで下さいよォ!」

ニヤニヤと下品に笑うザキの背中に蹴りを入れて終兄さんの部屋を後にする。廊下を歩いていると総悟くん、と小さな足音が追いかけてきた。お盆を抱えている。

「お仕事お疲れさま」

「おー」

「総悟くんもお茶飲む?」

「飲まねェ」

不思議そうな顔をしてる姫を横目にお盆を奪って歩き出す。あっと小さく声を上げて追いかけてくるのを確認し足早に進む。

「待って、総悟くん」

雛鳥のように付いてくるのが可笑しくて口元が緩むが、前を向いているせいで彼女には俺が何を考えているかわからず不安だろう。人通りのない場所まで来て角を曲がったところで足を止めて振り返ると勢いのまま小走りで着いてきた姫が俺の胸に突っ込んでくる。ドン、と軽い衝撃ごと抱きしめた。

「きゃっ」

目を白黒させている姫を見下ろす。着物を半ば強引にずらして露わになった鎖骨の上に唇を落として無遠慮に吸い上げた。突然痛みを受けて腕の中の細い体が震える。赤く花が咲いた白い肌にもう一度口つけて、髪を留めている簪を引き抜いた。さらさらと艶のある髪が散る。

「…怒ってるの?」

「怒ってねェ」

「でもなんか違う」

「その紅、この間のだろ」

形のいい唇に乗っているのは誕生日に出先で買い与えたローズレッドの口紅。白い肌に良く映えるみずみずしい赤。普段よりも艶めいた印象を受けるその果実のような唇が俺を試すように動く。

「あ…うん、付けてみたの。やっぱりちょっと濃いかな」

「エロい」

「えろ…」

「名前呼んでみろ」

「総悟く……んん、」

自室を目指していたのだが、あと一歩のところで間に合わなかった。仕事中に女の髪を解き廊下で口づけをしている。こんな姿土方のヤローにでも見られたら一発で切腹モンだ。
だが欲しい。どうしても今。甘く笑うその表情と声が、俺だけのものであって欲しい。熟れたその唇が呼ぶのは、俺だけの名前であって欲しい。わかりやすい嫉妬の仕返しにも気づかずに惑溺を受け入れる姫の細い指が、俺の隊服を握った。









「神楽ちゃん!新八くん!あけましておめでとうございます…って、松の内も過ぎそうだけど」

「姫!飴舐めてオリゴ糖アル!」

「神楽ちゃんそれ何にもかかってないよ。姫さんあけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします」

「こちらこそ。あれ、銀ちゃんは?」

「もうすっかり気合い入って始めてますよきっと。僕たちも行きましょう」

「今夜は姫の奢りってホントアルか?」

「もちろん!いろいろ助けてもらってお礼できてなかったからね。たくさん食べよう!」

「最高アル!姫大好きヨ」

「わたしもだーいすき」

「本当仲良いですね」

えへへと顔を見合わせて微笑むわたしたちを新八くんはお父さんのようにしみじみと見て笑った。
今夜は万事屋さんと新年会と称したご飯会だ。いろいろとお世話になっているのに全然お礼ができていなかったからその代わりにお登勢さんのお店をお借りしてご馳走することにしたのだ。昼間は依頼があるというので夜から。お店に入ると銀ちゃんはもうカウンターでお酒を飲んでいた。

「今晩は。お登勢さん、お世話になります」

「いらっしゃい。ゆっくりしていきな。こいつらは従業員のキャサリンとたま。何かあったらこき使いな」

「姫です。よろしくお願いします」

キャサリンさんとたまさんに挨拶を済ませて銀ちゃんの隣に座った。

「おー姫遅せーぞ」

「銀ちゃん、今晩は」

神楽ちゃんは早速卵かけご飯を注文した。卵かけご飯でいいの?神楽ちゃんを見ると2つに分けたお団子を包む飾りに見覚えがあった。会った時は店先で暗かったからよく見えなかった。

「あれ、神楽ちゃん。そのお団子カバーいつもと違うね」

「サンタがくれたネ!カワイイでしょ」

「すっごく似合ってるよ!可愛い〜」

「今年のサンタはセンスがいいアル」

クリスマスの日に留守だった万事屋さんを訪ねた時にお登勢さんに渡してもらえるようお願いした物だ。総悟くんのお守袋を作ったときに一緒に縫った。付けてくれて嬉しいなぁ。
カウンターで丼にご飯を盛るお登勢さんがフフ、と笑った。サンタさんの正体がわたしだと知っているから目を合わせるとウインクした。

「銀ちゃんと新八くんにもサンタさん来た?」

「あー来た来た。なんかすげえうまい焼き菓子置いてあった」

「ふふ、良かったね」

「ありがとな」

お猪口を傾けて笑った。わかってるんだろうけど神楽ちゃんの手前言わないでくれてる。新八くんも、神楽ちゃんを挟んで向こうから身振り手振りでお礼を言ってくれた。今までは受け取る側だったけど、クリスマスの大人の楽しみ方ができて良かったなぁ。

「姫さんのところにも来ましたか?サンタさん」

「うん、来たよ」

「良かったですね」

「姫、飲むか?」

「ううん」

「姫、せっかくだし少し飲んでいかないかい?新年会なんだろ?美人がお酌してくれたらコイツも悪酔いしなくて済みそうだ」

「じゃあ少しだけ」

梅酒を水割りでかなり薄めてもらって、みんなで乾杯した。梅の風味がして甘くて美味しい。いつものように酔って寝るなんて失態がないようにお茶と交互に少しずつ口に入れる。

「姫は真選組にいるんだったね、ポリ公の世話なんて苦労してないかい」

「そんなことありません、みんなとっても優しいんですよ。毎日本当に楽しいです」

「姫はなんであんなクソ王子がいいアルか?アイツの良さなんて一生わかりそうにないアル」

神楽ちゃんが卵かけご飯をかきこみながら言う。そういえばこの子たち仲悪いんだっけ。総悟くんはたぶん面白がってからかってるだけだと思うけど。

「ちょっと神楽ちゃん、失礼だよ」

「うーん、総悟くんは普段そんな感じだもんね、気持ちわかるよ。屯所でもサボったりみんなにちょっかいかけてるもん」

「じゃあどこが?」

「強くて、わたしにだけ優しいところが好き」

なんてね、と付け足すけど惚気ちゃったかな。お酒のせい?そんなに弱くないと信じたい。神楽ちゃんは、ふーんと興味なさそうに丼を置いて水を飲んだ。

「ぷはーっ、おかわり!ちゃんと姫を守ってくれるならまぁ良しとするアル」

「伝えるね」

ほくほくと湯気を立てる肉じゃがを口に入れる。味が染みてすごく美味しい。ほっとする味だ。厚揚げ豆腐も優しいお出汁の味がする。

「お登勢さん、とっても美味しいです」

「口に合って良かったよ」

神楽ちゃんはお店のものを全部食べてしまうんじゃないかってくらい次々とご飯を平らげて幸せにそうにしている。勢いよく食べる姿は見ていて清々しい。青い瞳がぱちぱちと瞬きする。あ、この瞳……。

「神楽ちゃんもしかして兄妹いる?」

「馬鹿兄貴の話はやめてヨ。飯が不味くなるネ」

「そう、お兄さんがいるんだね」

神楽ちゃんと神威さん、似てるなぁ。もしかして兄妹だったりして。すっごく嫌そうな顔をしたからそれ以上聞くのはやめた。
新八くんにお通ちゃんのライブに行ったことを伝えるとそれはそれは喜んであの曲最高でしたね!とかあの時お通ちゃんのMCがこれこれこうで、と話してくれてそのうちカラオケし始めた。本当に好きなんだなぁ。

「あーうるせぇなー誰がカラオケなんて置いたんだよ頭が割れるわ」

「姫様、おかわりをどうぞ」

「たまちゃん、ありがとう」

たまちゃんはカラクリの家政婦さんだと聞いた。本当の人間のように動いていてすごい。隣で銀ちゃんとキャサリンさんが喧嘩してる。お登勢さんの話はためになって面白いし神楽ちゃんも新八くんも楽しそうでいい夜だなぁと思った。
そのうち夜も更けてきて神楽ちゃんが満腹でうとうとし始めたのでそろそろお開きにしよう、ということになった。新八くんは明日お通ちゃんのCDが発売されるから朝イチで並ばないと!と言って颯爽と帰っていった。

「姫ー、寒いし泊まっていきなよ。一緒にお風呂入ろうヨ枕投げしようヨ〜〜」

「んー、どうしようかなぁ」

「送ってくぜ?」

銀ちゃんはもともとそんなにお酒に強くないのに適量が分からずいつも飲み過ぎてしまうのだとお登勢さんが言っていた。現に今にも吐きそうな顔をしてる。店の壁に手をつかないと立っていられなさそう。送ってもらうなんてとてもじゃないけど無理だ。この時間に真選組のお迎えを呼ぶのもなぁ。

「泊まっちゃおうかな」

「ヒャッホーーー!お風呂入るネ!」

「オイ待て姫ちゃんとりあえず総一郎くんに聞いてからにしなさい。な、ハイ電話」

そうだよねと万事屋さんにお邪魔して黒電話を借りる。総悟くん忙しいからいないんじゃないかなぁ。案の定出たのは鉄さんだった。総悟くんに今夜は泊まると伝えてくださいと言い終わる前に声の主が変わった。

『外泊かィ』

「あ、総悟くん。万事屋さんに一晩お世話になってもいいかな?」

『旦那に代わりな』

受話器を銀ちゃんに渡すと電話口で喧嘩してるみたいに言い合いをはじめた。

「あ?この間言ったろ俺には無理だっていやまぁ理性が勝てばな…っていや、冗談だよ殺さないで。あーハイハイお宅の可愛いお姫様は丁重にこのむさ苦しい万事屋が預かりますよ明日迎えに来いよじゃあな!」

チン!と乱暴に受話器を置いて頭を押さえている。酔ってるのに大きな声出すから…。キッチンを借りてお水を汲んで銀ちゃんに渡した。

「銀ちゃん、お水」

「あーサンキュー。本当お前んとこの彼氏は独占欲が強いっつーか女絡みになると容赦ないっつーか…あー疲れた」

「お泊まりしていいって?」

「いいってさ」

「ありがとう。お世話になります」

「つってもう風呂入って寝るだけだけどな」

「姫ー!お風呂沸いたネ!こっちこっちー!」

さっきの眠気はどこへやら、神楽ちゃんに連れられてお風呂に入ることにする。あ、寝巻きどうしよう。さすがに神楽ちゃんのを借りても着られないよね…。

「姫ちゃん、これ寝巻きな。くせぇとかボロいとか文句言うなよ」

銀ちゃんが寝巻きを貸してくれた。有り難く受け取って今度こそ神楽ちゃんとお風呂に入った。入浴剤を選んだり背中を洗いっこして、シャンプーの泡で色んな髪型を作ったりした。ちょっとぎゅうぎゅうだけど並んで湯船に浸かる。楽しいなぁ。

「あれ、姫虫に刺されてるネ」

「え?どこ?」

ココ、と神楽ちゃんがわたしの鎖骨の上をつんと指でつついた。そこはこの間総悟くんに跡を付けられたところだ。まだ消えてなかったんだ、すっかり忘れてた。

「冬なのに虫がいたんだ、どうりで痒いと思った」

「本当ネ。姫は悪い虫を引き寄せるアルな」

動揺して棒読みになってしまったけどどうにかごまかせた。良かった。お風呂から上がって銀ちゃんの寝巻きを着てみるとやっぱり大きかった。男の人の身体って本当にしっかりしてる。かっこいいなぁ。袖を折って調節したけど不格好。寝るだけだし、いっか。
髪を乾かしてリビングに行くと奥の部屋に布団が並んで敷いてあった。先に出ていた神楽ちゃんはもう布団に寝っ転がって寝息を立てていた。眠そうだったもんね。きっと彼女にとっては夜更かしした方なんだろう。枕投げはまた今度だ。

「銀ちゃんお風呂ありがとう」

「おー。俺も入るわ」

「酔ってるのに大丈夫?」

ジャンプから顔を上げた銀ちゃんはぶかぶかの寝巻き姿のわたしを見てうわ、と変な顔をした。

「これ、やっぱり大きかったよ」

「だろうなぁ。ま、神楽のよりいいだろ」

そう言ってお風呂場に消えていった。歯磨きを済ませてわたしもお布団に入ろうと思ったら、脱衣所の方からガタン!と大きな音がした。まさか転んだのだろうか。

「銀ちゃん?大丈夫?」

返事がなかったから扉を開けてみると銀ちゃんは中途半端に服を着た状態で床に転がっていた。駆け寄って身体に触れると碌に身体を拭いていなくてしっとりとしてる。

「やべ……意識ぶっとんだ」

「酔ってるのにお風呂入るからだよ」

身体をしっかり拭いて寝巻きを整える。髪もドライヤーで乾かした。床に寝たままだからしっかり乾いてないけどそのまま寝るよりいいだろう。

「起きれる?」

「あー……ちょっと支えてもらえます?」

「うん。よいしょっ!…わぁっ!」

腕を引っ張って上半身を起こして支えようとすると銀ちゃんの身体がぐらりと前のめりになった。力を入れて引っ張りすぎた。勢いのままわたしに倒れ込んで今度はわたしが床に寝っ転がってしまった。銀ちゃんがのしかかる。重い。

「銀ちゃん、重たいよ」

「悪ィ悪ィ、今どくから。マジでどくからちょっと待って」

口は動くけど身体はびくともしない。気持ち悪さと戦っているんだろうな。本当にお酒って人間をダメにするんだね。一度誰かにお酒の嗜み方を教えてもらった方がいいんじゃないかな。
銀ちゃんがわたしの胸の辺りからゆっくりと顔を上げた。一瞬、呼吸が止まる。だってこんなに近くで真っ直ぐ銀ちゃんに見られたことはなかったから。その表情がいつもと違うから。

「…姫ちゃんさ、沖田くん以外の野郎は男として見てないのはわかるけど男はそうじゃないからね?どれだけの男がお前のこと手に入れたくて堪んねぇ思いしてるか知ってる?」

酔ってる、にしてはしっかりした口振り。わたしを見下ろす銀ちゃんの目は冷たくて、でも燃えている。

「この状況やべーからマジで。ワンチャン期待しちゃうよ?俺の寝巻きぶかぶかで着てるお風呂上がりの女の子が家にいたら襲うなって方が無理だからね」

銀ちゃんがわたしの髪を撫でた。重力に従って髪が床に落ちる。キス、されるかもしれない。はだけた寝巻きの隙間から見える鎖骨に目を落として、銀ちゃんの動きが止まる。

「見せつけてくれるねぇ」

「銀ちゃん、殴っていい?」

「キスさせてくれたらいいよ」

普段から総悟くんをはじめ近藤さんや土方さんに『野郎に迫られたら包丁で股間を滅多刺しにしろそして殺せ』と言われていたので腕を振り上げて思いっきり銀ちゃんの顔をぶん殴った。グーで。
バン!もともとあまり力が入っていなかった身体は簡単に吹っ飛んで棚にぶつかってガタガタと音を立てた。口の端から血が滲んでいる。

「ごめんね。大丈夫?」

「いや、俺がおかしくなってた。目ぇ覚めたわ。ごめん」

起き上がって謝った銀ちゃんはもういつも通り死んだ目でわたしを見ていた。

「マジでごめん。魔が指した。姫ちゃんのこと手に入れてぇとかそういうんじゃねーから」

「うん」

「一個だけ聞いていい?もし…拾ったのが俺だったら俺のこと好きになった?」

「……わからないけど、総悟くんに見つけてもらわなくても総悟くんのこと好きになったと思う」

「だよなぁ、お前らってくっついて離れねぇ磁石みてーだもんな。お似合いだよ、ホント」

「ありがとう」

血の滲む口元に手を当てようとすると、顔を避けられた。

「いいよ、治さなくて」



フラフラの銀ちゃんを布団に転がして、神楽ちゃんの布団をかけ直して、眠る定春くんに寄り添ってもふもふしていると明け方になろうとしていた。早いけど帰ろう。着替えて本当に簡単な朝ごはんを用意して、万事屋さんを出た。
冷えた朝の風が刺すように身体を通り抜けていく。ストールをしっかり巻いて歩き出した。誰も歩いていないシンとした静寂が怖いと思った。つい足元ばかり見て歩いてしまう。

「前見て歩けって言ってんだろ」

「…総悟くん」

声がした方を見ると総悟くんが立っていた。

「旦那には朝迎えに来いって言われてたんだが、随分早ェじゃねーか。奴らの寝相が悪くて寝られなかったんだろ」

「…わたし、枕が変わると寝られないみたい」

「そりゃそうだ。いつも俺の腕枕だからなァ」

帰るぜ、と言って手を繋いで歩き出す。

「こんな時間に何してたの?」

「散歩」

「…もしかして全部わかっててお泊まりさせたの?」

「なんのことでィ」

こんな朝に散歩なんて嘘だと思う。でも総悟くんがとぼけるからもうどうでもいいや。

「帰ったらもう一回寝るのに付き合ってくれる?」

「腕枕付きで?」

「うん。起きるまで一緒にいてね」

「いいぜ」

もしも、この世界に来たわたしを見つけたのが総悟くんじゃなかったら、今頃その人と手を繋いで歩いてる未来があったのだろうか。そんなこと考えても答えなんてない。だって今、わたしがいるのは総悟くんの隣だから。この人と一緒にいるために何人の男の人を気持ちを踏みにじったとしても、もう傷ついたりしない。
ふたりだけの世界になったみたいに誰もいない町を歩きながら、わたしは最後までこの人と共にありたいと改めて思った。








title by 誰花