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29.おんなのこの秘密



「…ねぇ、お妙ちゃん…もうちょっと肌が隠れるような衣装ないかな?」

「何言ってんのよ姫ちゃん!若い女は肌を見せてナンボよ!肌を見せてこそ輝くのよ!今夜のためにとびっきり可愛くしたんだから!さあ働くわよー!」

「お妙ちゃんだって若い女なのに……」

ことの始まりは数日前のこと。
お妙ちゃんからかかってきた一本の電話からだった。

『姫ちゃんヘルプよ!すごいVIPなお客様が店に来るの!流行り風邪で女の子の数が足りないのよ、座って話聞くだけでいいから来て欲しいの。お願い!』

話を聞いて久しぶりにすまいるを訪れるとお妙ちゃんはサンタの格好をして待っていた。それもキャバクラにあるまじき上下長袖長ズボンに白髭を蓄えて。完全にお爺さんサンタの装いである。

「もうすぐクリスマスでしょ?うちもサンタコス週間なの」

「お妙ちゃんはどうして長袖なの?わたしもそれがいいよ」

「ダメよ、姫ちゃんはわたしが特別に用意したこの小悪魔サンタであの方を誘惑してもらわないと!」

それにねと真剣な表情で肩を掴まれる。

「女の子が揃いも揃って露出していたらそのうち目が慣れるのよ。肌が隠れた女とこの衣装を着た姫ちゃんを交互に目に入れることで最高の興奮を繰り返し得ることができるのよ!」

最もらしいことを力説しているけど果たしてそれは本当なのだろうか。

「だからってこんなの、恥ずかしいよ…」

わたしが文句を言っているのはこの衣装だ。
お妙ちゃんはゆとりのある服なのにわたしのはミニのワンピースタイプ。
上はぴったりしたオフショルダーにウエストには白いベルトが付いている。下はふんわりとしたミニスカート。『ふんわりとした』とはいうけれど腰のラインは丸わかりだし座ると丈が短くてスースーする。ちなみに胸の傷は首に結んだ白いレースのリボンがうまく隠してくれている。
そして何より恥ずかしいのは、オフショルダーだから肩周りと背中が丸見えなのだ。しかもわざと背中を出すデザイン。自分でもなかなか見ないのにこんな明るいライトの下で人様に見せちゃいけないんじゃないか。

メイクをしてもらい丁寧に髪を巻いてくれたお陰で鏡に写る自分はいつもより大人っぽく見える。けれど中身は普段女中をしているその辺の素人。しかも未成年。大人の男の人を誘惑だなんて大役、とてもじゃないけど務まりそうにない。
それに不安な点は他にもあって……。

「オイオイまたキャバクラのヘルプかよ。VIPだかVAPだか知らねーけどゴリラ女がいる店は毎回ロクな目に合わねーんだよなぁ」

「銀さん?誰がゴリラ女ですって?それより売り上げあげないと依頼料出さないように店長には言ってありますからしっかり働いてくださいね」

「ゲッまじかよ」

「銀さんヤバいですよこんなんじゃ。タダ働きですよ」

控え室からこっそり覗くと女の子のサンタの格好をした銀ちゃんと新八くんがいる。万事屋として助っ人に呼ばれたらしい。
唯一の紅一点である神楽ちゃんはあろうことかお留守番だ。昼間たくさん遊びすぎて早く寝ちゃったんだとか。可愛い。でも、そうなると本物の女の子の数がお妙ちゃんとわたししかいない。大丈夫なの?

「姫ちゃーん、こっちに来てテーブルの準備手伝ってくれない?」

「う、ん」

「ほーら、恥ずかしがってないで出てきなさい!すぐ慣れるわよ!本当に姫ちゃんを着飾るのは楽しくてつい力が入っちゃうのよね〜」

ぐいぐいと背中を押されてテーブル席に連れて行かれると、わたしがいることを知らなかった二人は目を見開いて絶句した。

「………姫、ちゃん?」

「銀ちゃん、新八くん、こんばんは……」

「ちょっ…姉上、姫さんの露出、これ前のセーラー服の比じゃないですよ大丈夫なんですか沖田さんが知ったらこの店潰されますよ!」

「大丈夫よ、沖田さんにはちゃあんとお礼を用意してるもの。それより見てよこの綺麗な背中を!これを今見せなくていつ見せるというの!?」

自信たっぷりに叫んだお妙ちゃんはわたしの肩を持ち180度回転させて後ろを向かせた。

「うっ、破壊力が半端ねぇ……!後光がさしてるぅぅぅ…!」

「ぎゃああああああ姫さんんんん大丈夫なんですかこれぇぇぇ!!僕たち見ちゃっていいんですか!?うっ鼻血が……服汚れちゃったんでちょっとバックヤードで休みがてら着替えてきます 」

新八くんが鼻を押さえながら退出していった。
お妙ちゃんもあら大変と付き添っていきわたしと銀ちゃんが残る。とりあえずテーブルを拭いて、ソファに座る銀ちゃんの隣に腰を下ろした。彼はなぜかソワソワしている。
銀ちゃんは体格を隠そうとしているのかポンチョ風の上着を着ていた。いいなぁ、あれ。わたしも欲しい…。ていうか、

「わたしだけこんな服、やっぱり変だよね?銀ちゃんその上着貸して!お願い 」

距離を詰めてお願いすると銀ちゃんは同じくらい後退した。

「ちょっ、来ないで姫ちゃん。俺今触られると色んな意味で爆発しちゃいそうだから!」

「ひどいよ、疫病神みたいに言わないで」

「いやそういう意味じゃねーんだけど」

もごもごと言い淀む銀ちゃんにやきもきする。時間がない。もうすぐお客さんが来ちゃう。こうなったら強行突破するしかない。着ているポンチョ風の赤い上着を脱がそうと銀ちゃんに覆い被さり前のボタンに手を伸ばす。

「貸ーしーてー!」

「無理無理無理ヤバいヤバいヤバいヤバい胸が当たるからマジでヤバいから生脚が!俺の!腰に!当たるからァァァ!」

銀ちゃんが下で悲鳴をあげているけどわたしだって必死だ。ボタンはあと二つ。猛々しい胸板を見ないフリして本格的に馬乗りになったその時。

「あれぇ〜今日店開いてるんだよね?貸し切りで予約したはずなのに出迎えが誰もいないんだけどォ〜」

色付きのサングラスをした中年の男性を筆頭にゾロゾロと入ってきたのは、よく知った黒い服の………………。
沈黙。

近藤さんと土方さんは白目を向いて固まっている。2人は咄嗟に後ろにいた総悟くんの顔に手を当ててこちらが見えないように視界を遮っていたけれど、一瞬、目が合ったような気がした。
待って、この状況いったいどう見えてる?
ソファに座る銀ちゃんに跨って服を脱がしているわたし…………これじゃあ完全に、

「きゃーーーー!」
「わああああああああああ!」
「えええええええええ!?」

「…なんだァ?知り合いか?」

わたしと銀ちゃんと近藤さんの悲鳴が同時に店内に響いた。








「いやぁ〜こんなに綺麗なねーちゃんがいたなんてオジサン知らなかったよォー。どうだ姫ちゃん、オジサンの娘にならねぇか?」

「そんな、恐れ多いです…松平様」

「松平様なんて堅苦しい呼び方よしてパパって呼んで欲しいなァー」

「…パパ、おかわりは如何ですか?」

「あー最高ォ〜オーイ店長、アルマンド持ってこい」

「ありがとうございます松平様!!!」

帰りたい。
すっごく帰りたい。
目線が刺さってる。
テーブルには真選組のみんなの上司である松平様と近藤さん、土方さん、そして総悟くん。キャスト側はわたしと銀ちゃん(パー子ちゃん)、お妙ちゃん。
一応、なんとか回っている。回っているのだけど、端っこに座る総悟くんからの視線がもう耐えられない。
メイクも髪型も違うから気付いてない……わけないよね。絶対に気付いてるよね。さっきのも見てたよね。

実は今日ここに来ることは総悟くんに伝えていなかった。当日言おうと思っていたら昼間から顔を合わせるタイミングをことごとく逃してしまい、総悟くんも外回りに行ってしまってそのままになってしまったのだ。
ここへは山崎さんが送ってくれたのだけど、彼の帰りが遅いと聞いてこうなったら秘密にしておこうと口止めしてしまった。それが今、この結果を招いている。

わたしは松平様のお酌をし、パー子ちゃんは土方さんと口喧嘩しながら飲み比べしている。近藤さんはお妙ちゃんと場外で喧嘩している……心なしかイチャイチャをしているようにも見えるけど。
残る総悟くんはというと、お酒を飲みながら真顔でじっとわたしを見ている。その視線が言っている。『帰ったら覚悟しろ』と。ああ、どうしてわたしはここぞというときにドジを踏むんだろう。

「ん?姫ちゃん、酒は苦手か?」

「いいえ、いただいてますよ」

そうだ、今日はお妙ちゃんのお手伝いに来たんだった。とにかく今はお客さんが誰であれしっかりと仕事をしなければ。
松平様と乾杯、と小さくグラスを合わせ口つけると強いアルコールの香りが鼻をつく。意を決して、あくまで自然に喉に押し込むとかっと身体が熱くなるのがわかった。こんなのをみんな普通に美味しく飲んでいるなんてすごい。

「美味しいです」

「いい飲みっぷりだなァ〜色っぽいよォ」

「サンタのおねーさん、俺にも一杯いただけませんか」

すると総悟くんが声をかけてきた。ん?そういえば総悟くんも未成年だよね?さっきから普通に飲んでいるけど顔色ひとつ変わらない。

「おう総悟、お前も今日は飲め!こんなに綺麗なねーちゃんと酒飲めるなんてそうそうねーぞォ〜、ホラ隣空けてやるから。俺ァアイツの様子でも見てくらァ」

そう言って松平様は席を立って出ていった。誰か来るのだろうか。なんだか頭がぼーっとしてきた。お酒のせいかな。隣に座った総悟くんは呆れた顔で声をかけてきた。

「…で?なんでこんなところにまた来てんだ。つーかなんでィその格好」

「こ、これにはわけが……」

「だいたい想像つく。ったく無理して飲みやがって」

そう言ってわたしのグラスを取りお酒を飲み干す総悟くんはやけに色っぽく見える。この人がすることは何だって格好良いのだけど。こんな姿、他の女の人が見たら絶対好きになっちゃう。

「姫はジュースでも飲んでな」

「ありがとう…総悟くん、よくこういうお店にくるの?」

「は?いや今日は松平のとっつぁんがあのお方をお連れするっつーから仕方なく、」

「、総悟くんがおんなのひととおさけのむのやだー……っ、うわきしちゃったらどうしよう…」

「…酔い回ってきたな、今日は泣き上戸かィ」

頭がふわふわしてるのになぜか悲しい気持ちが込み上げてくる。総悟くんがわたしのいないところでこんな風に楽しくお酒を飲んでいるところを想像してしまって涙が出てくる。ちゃんとお仕事しないといけないのに、総悟くんが隣にいると思うとどうしても甘えたくなってしまう。

「そうごくんかっこいいからもてちゃう…、いつもたくさん女の人が見てるもん、」

回らない頭でいつものように総悟くんの首に腕を回して抱きつくとすんなり受け入れてくれた。

「するわけねーだろ。姫以外の女なんて量産された家畜以下の価値しかねーでさァ。つーかさっき旦那に襲いかかってたのはどこのどいつでィ。今度こそ旦那殺しちまう所だったぜ」

「だってこんなかっこしてたらきらわれちゃうとおもって……」

「嫌わねーけど肌出しすぎだろ。この背中見れんのは俺だけだと思ってたんだがどうやら違ったらしい」

近くなった距離でふわりとお酒の香りがする。どちらのものだろう。無防備な背中を撫で上げられるとくすぐったくて変な声が出てしまう。

「ん……」

「野郎の前でそんな声出すんじゃねェ」

「う、ん…………」

「眠けりゃ寝ちまいな」

あやすようにポンポンと優しく叩かれて急に眠くなってくる。アルコールが回った身体はもう自分じゃ動かせなくなっていた。





「総一郎くんやばくね?前も思ったけどその格好の姫ちゃん目の前にしてなんでそんな冷静でいられんの」

酒の酔いもあって眠った姫をソファに寝かせ上着をかけていると一部始終をチラチラと見ていた旦那と土方コノヤローが声をかけてくる。いつの間にか近藤さんと姐さんがいなくなっていた。大方とっつぁんについて行ったんだろう。

「こんくらいの露出見慣れてるんで。なんならもっとすげーモン見てるんで」

「いやサラッととんでもねーこと言ったぞお前。聞きたくねーんだけど」

「彼氏の余裕ってやつ?あーあ、俺姫ちゃんをどうこうすんの無理だわ、こんな美貌前にしたら精神的におかしくなるわ」

「想像すんの辞めてくだせェ。…なんでも『人を惑わせる美しさ』ですからねィ」

それは姫の部屋から見つけたアレス族について記された書物に書かれていた一言で、彼等の特徴のひとつだ。もうひとつは、自分自身を癒すことはできないと記されていた。薄々、気付いていた。彼女の中にある特別な力は、ただ与えられたものではない。次第に強くなっていくその能力が、彼女の覚悟に応じて内から出てくるものだと。

「俺はただの平凡な顔したコイツでも惚れたと思いますがね」

「お熱いねぇ」

「おい総悟、俺はまだ納得してねぇぞ。姫を帰すこと」

「そう言ってくれる野郎が一人いた方がコイツも喜ぶんじゃねーですかィ」

「はぐらかすな、お前の気持ちはどうなんだ」

「もう揺らぐのは辞めたんで。その気になったら月でも地獄でも迎えに行ってやりまさァ。ご心配どーも土方さん」

「若いのに苦労するねぇ総一郎君。オヒメサマを囲うのも簡単じゃねーなぁ」

皮肉たっぷりに言われるが痛くも痒くもない。

「そんくらいじゃねーと張り合いねーんで」

「あれ?銀さん…じゃなかったパー子さん、お客さんって真選組の皆さんだったんですか」

「おうパチ恵おせーぞ。今のうちにたらふく食って飲んどけ。コイツらの奢りだぞ」

万事屋の眼鏡もいたのか。つーか、揃うものが揃うと酷い絵面だな。

「毎度毎度この店はどーなってんですかィ。まともな女いねーんですか」

「総悟、ここは元々ゴリラ専門のゴリキャバだ。俺たちには敷居が高かったな」

「オイ、マヨ野郎ぶっ殺すぞ」

「おーい〜連れてきたぞォ〜」

「あ……あれは…」

やべぇ、話してたら姫を帰すタイミング逃しちまった。

「爺やがうるさくて遅くなってしまった。すまない」

「将軍かよォォォォォォォォ!!」

旦那の叫びが響く。現れたのは平民の着物を着た征夷大将軍、徳川茂茂。今夜の俺たちの本来の仕事はこのお方が『お遊び』をしている間の警備することだ。先に飲んじまったが。

「…ん……?」

「起きちまったか」

「……あれ?寝ちゃってたみたい…」

「大丈夫か?」

「土方さん…、はいなんとか」

「姫、ザキ迎えに来させるから先に帰ってろ」

「ううん、今日はお妙ちゃんのお手伝いでここに来てるの。最後までいさせて。ちょっと寝たらスッキリしたから大丈夫」

「……なら頑張んな。くれぐれも客に色仕掛けすんなよ」

「しないよ、もう」






松平様に『将ちゃんって呼んでやって〜』と紹介された男性は顔色を変えずに席につきお酒を飲んでいる。

「おかわりは如何ですか?」

「貰おう。其方は初めて見るな」

「姫と申します、よろしくお願いします」

「姫ちゃんはなかなか会えないレアキャラなんですよ。今日は将ちゃんのために気合い入れて準備したんです。お酒のつまみにこちらをご覧下さい」 

「きゃ!お妙ちゃん!」

お妙ちゃんが『将ちゃん』の隣に座るわたしを立たせて後ろを向かせた。こんなに近くで初対面の男の人に素肌を見せるなんて恥ずかし過ぎる………!

「…………」

ほら、無言になっちゃった!はしたない女だと思われたかもしれない。顔に熱が集まるのを感じながらその人を振り返ると、真顔だった。でも鼻血が垂れている。

「し、将ちゃんさん、血が…!失礼します」

ポケットからハンカチを出してそっと血を拭うと、静かに手を取られる。

「…其方が思う平和とは何だ?」

それはあまりに唐突すぎる質問だった。

「平和…ですか?」

「鼻血出たの真面目な顔してごまかしたよこの人」

パチ恵ちゃんの野次が飛んでくる。こら、お客さんになんて口の利き方を。真面目な顔でそばに立つ私をじっと見つめてくるから、頭を巡らせる。うーん、平和……かぁ…。

「例えば、今日みたいなこんな夜です。大好きな人たちとテーブルを囲んで美味しいものを食べたり飲んだりしながら笑って話す時間が、わたしは大好きです。そして、ああ今日も楽しかったなって眠りにつくんです。それがわたしの平和です」

「………そうか。ならば其方の平和が続くよう私も務めを果たさねばならぬな」

「まずはその鼻血を止めるっていうのはどうですか」

呆れた様子のパー子ちゃんとパチ恵ちゃんがやれやれと言ったように肩をすくめた。その後は割り箸で将軍様ゲームをしたりパー子ちゃんがお妙ちゃんに失礼なことを言っていつものように怒られている姿を見て笑った。とても楽しい時間だった。

「其方とはまた会って話をしたい」

帰り際に言われた言葉が素直に嬉しかった。どうやらなんとか上手くおもてなしできたようだ。

帰りは隊士さんの運転で後部座席で土方さんと総悟くんの間に座っている。思えば二人とも結構お酒飲んでいたはずなのに様子は一切変わらない。わたしも慣れたらこんな風に強くなれるのかなぁ。

「楽しかったね」

「楽しかったのは姫だけだろィ。こっちは仕事で行ってんだ」

「お仕事で楽しくなれるなんて最高だよね。お妙ちゃん、素敵なお仕事だなぁ」

「転職するか?」

「向いてないよ、緊張しちゃうし……あんな格好恥ずかしいもん」

「…ある意味、滅茶苦茶向いてそうだけどな」

「そういえば将ちゃんさんってどんなお仕事されている方なのかな。松平様の息子さん?あまり似てないね」

「………………姫」

「いや、土方さん。世の中知らねぇ方がいいこともありまさァ」

「………そうだな」