×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -






17.幸せの色







「お前らそこ座れ!!」

「はい………」

「……………」

「まぁまぁトシ、姫ちゃんも終も何事もなかったことだしそんなに怒らなくても…」


近藤さんが宥めるけど嵐のように怒っている土方さん、これが鬼の副長か……と見当違いなことを頭に思い浮かべる。

結局あれから朝方仕事を終えて帰ってきた土方さんは見回りをしていた隊士から倉庫の鍵が刺さっていたと伝えられ、それを受け取った。
ちょうど総悟くんもわたしが部屋にいないことに気付き不審に思って倉庫に来てみると、中を散らかしまくったわたしと斎藤さんがぐっすり寝ていたという状況だ。
鍵を閉めた隊士さんが土下座する勢いで謝ってくれたけどそもそもわたしのせいだからどうか怒らないで欲しい。そして今わたしと斎藤さんは土方さんに言われて正座をして怒られている。


「朝っぱらからうるせーなーこちとら徹夜で疲れてんだからさっさと終わりにしてくれませんか土方さん。つーか説教するなら中に人がいないか確認しなかった見回りの隊士の方ですぜ」

「いや見た!?倉庫の中!落書きだらけの大量の半紙!子どもの遊びか!あと姫!鍵を刺したまま中に入るな!基本中の基本だぞ!」

「ごめんなさい…」


斎藤さんがジェスチャーで色々と弁明してくれたけど土方さんに伝わったのかわからない。斎藤さんに迷惑をかけた上に、疲れて帰ってきた土方さんをこんなに怒らせてしまったのだから自分のアホさ加減に嫌気がさしてくる。

「で?探し物は見つかったのか?」

「…はい、おかげさまで。土方さん、今日はマヨネーズに合うご飯をたくさん作りますね!唐揚げも揚げちゃいます!お昼をお楽しみに!では失礼します!」

「お、おい姫!」

言いながら逃げるように部屋を飛び出した。
部屋から出ないこと、と言われていたのに約束を破ってしまった総悟くんの顔も見られないし、書庫で読んだあの本のことを思い出していたたまれなくなる。少しだけ1人になりたかった。

屯所を飛び出して気分転換に歩こうと思い空を見上げると、いつのまにか高く上りつつある朝日が眩しく輝いていた。ミーンミーンと蝉の声がわたしの意に反して一日の始まりを告げる。口を開くとはぁ、とため息が溢れた。

しばらく歩いていると大きな公園に出た。
懐かしい音楽が聞こえる。
『かぶき町ラジオ体操第一〜!』

子どもや大人が伸び伸びとラジオ体操をしていた。その中に知っている女の子がいる。神楽ちゃんだ。

「神楽ちゃんおはよう」

「姫!おはようアル!姫もラジオ体操に来たアルか?」

「ううん、お散歩してたら音楽が聞こえたの。久しぶりにやろうかな」

神楽ちゃんはいかにも寝起きですって言わんばかりの荒ぶった寝癖をつけて元気に身体を動かしている。
わたしも隣で腕を広げた。所々わたしの知らない箇所があってその都度周りの人の真似してやった。久しぶりの体操、ちょっと楽しいかも。
そのうち音楽が止んでスタンプをついてもらうと、神楽ちゃんはわたしの腕を引っ張って言った。

「姫!朝ごはんまだでしょ?うちで一緒に食べるアル!」

「えっ、いいの?お邪魔しようかな」

「キャッホー!早速帰るアル!」

「うん!」

手を繋いで万事屋に向かう途中、スーパーはまだやっていなかったのでコンビニに寄って食材をいろいろ買った。

「ねぇ、ラジオ体操頑張ったし、アイス食べちゃおうか」

2人だけの秘密だよ、と下手くそながらもウインクをすると、神楽ちゃんは目をキラキラさせて喜んだ。

パピコを2つに割って食べながら帰路についた。まだ朝早いというのにじわじわと気温が増してくる。今日も暑くなりそうだ。

「ただいまヨーーー!」

「お邪魔しまーす」

しーんとした万事屋さんの中はまだ薄暗い。カーテンも開けられてないところを見ると、銀ちゃんはまだ寝ているらしい。
起こさないように物音に気をつけながら、台所に立った。腕まくりをすると、左手の黒い布が目に入った。昨日斎藤さんが巻いてくれたものだ。

「姫、それどうしたの?怪我したアルか?」

「ちょっとね。もう痛くないから大丈夫だよ」

神楽ちゃんはそれ以外聞かずしばらく心配そうに見て、どこからか救急箱を持ってきた。布を取ると、ガーゼを当てて丁寧に包帯を巻いてくれた。

「ありがとう、神楽ちゃん」

「姫にこんな傷は似合わないアル。早く治すネ」

気遣いが嬉しくて、ありがとう!とぎゅーっと抱きしめた。寝癖が顔に当たってくすぐったい!と言うと、神楽ちゃんも少し恥ずかしそうに笑った。



「よーし、作るぞー!」

改めて朝食作り開始だ。

「何作ってくれるアルかー?お腹ペコペコよーー」

待ちきれないようで神楽ちゃんが腰に手を回してくっついてくる。可愛い…!妹がいたらこんな感じなのかな。
まずは卵焼きとお味噌汁、かぼちゃを煮る間に魚を焼いてきんぴらをささっと作る。たくさんあればお昼も食べられるよね。真選組の女中としておばちゃん達に鍛えられてきたから料理のスピードには自信があった。

「味見だよ」と卵焼きを一切れ神楽ちゃんのお口に入れると、「甘い卵焼き大好きアル!」と親指を立てた。口にあったようだ。

焼き魚の香りにつられて定春くんが入り口からこちらを伺っている。ドックフードを入れたお皿にほぐした魚を少し乗せると、わおん!と鳴いてからぱくぱく食べた。もふもふの毛並み、癒されるなぁ。

「よし!」

お茶をいれて、準備は整った。
するとピンポーンと呼び鈴が鳴って新八くんが出勤してきた。ナイスタイミングだ。


「おはようございまーす……えっ姫さん!?どうしたんですかこんな朝早くに」

「おはよう新八くん。公園で神楽ちゃんに会ったの。勝手に朝ごはん作らせてもらっちゃった。食べよう?」


「はーーー何このいい匂い……あれ姫ちゃん?どしたの?」

ちょうど銀ちゃんもお腹をかきながら起きてきた。
いつもより髪の毛がふわふわしている。ちょっと触ってみたい。

「銀ちゃん、朝ごはんだよ!」

お米をよそって、いただきまーす!とみんなで手を合わせた。

銀ちゃんは寝起きで状況がよくわからないながらも旨いと言いながらご飯を食べて、神楽ちゃんは何度もお米をおかわりしてお腹いっぱい食べていた。新八くんはきんぴらの味付けを教えて欲しいと言ってくれて、料理の話をたくさんした。賑やかで楽しい朝ごはんだった。



「神楽ちゃん、ここ座って」

片付けをした後、神楽ちゃんをソファに座らせて後ろに回ってくしで丁寧に寝癖を直した。
キッチンにあったお菓子の袋についていた黄色のリボンを手に取って、髪と一緒に編み込んでいく。

「何それ、姫ちゃんそんなんできんの?あれだな、編み笠作るみてぇだな」

「違うと思いますよ銀さん。へえー、姫さん器用ですね」

「なになに!?私の髪どうなってるアルか!?」

「できた!」

ハーフアップにして、リボンを蝶々結びにして完成。編み込みの流れに沿って黄色いリボンが見えて、夏らしくて可愛い。鏡を合わせて神楽ちゃんに見せ「さっきのお礼だよ」とこっそり伝えると、とっても喜んでくれた。











「ただいまー……」

「おかえりィ」

誰に言うでもなく呟いて屯所の玄関を開けると、待ってましたと言わんばかりに総悟くんが仁王立ちで待ち構えていた。

「そ、総悟くん……」

「随分長い散歩だったなァ。南極にでも行ってきたのかい」

笑っているけど全然笑ってない。

「あの……神楽ちゃんに会って朝ごはんを……」

「言いつけ破って終兄さんと一夜を明かした挙句徹夜で仕事して帰ってきた俺には目も合わせず万事屋で優雅に朝飯食ってきたってわけか。そりゃあ結構なことで」

「うっ……返す言葉もございません……」

気まずい空気がビシバシ流れて身を縮ませる。さっきまでいた万事屋の癒しの風景が遠い夢のようだ。

でも、わたしだって総悟くんに会いたかったのに。倉庫に閉じ込められていた時にずっと頭に浮かんでいたのは総悟くんのことばっかりだった。怪我してないかな、早く帰ってこないかな、ぎゅってしたいなって。

まだ何か言おうとしているようだったけど、玄関を上がって総悟くんに抱きついた。


「総悟くんがいなくてさみしかったよ」

「他の男と一緒にいたじゃねぇか。どの口叩いて言ってんだ」

「もう、分からずや」

まだ怒っているような口振りだけどちゃんと抱きしめ返してくれる。背伸びして、ちゅ、と唇を合わせて甘えるように胸に頬をつけると、「そんなん教えた覚えねェぞ。万事屋で覚えてきたんじゃねーだろうな」とチクチク小言を言ってくる。見上げると今度は総悟くんから同じように唇が触れた。もう怒っていないようだ。

「やっと笑ってくれた。機嫌治った?」

「帰ってきたときからずっと笑ってただろィ」

「違うよ、さっきはもっとこう……こんな感じ」

総悟くんの腕の中から離れて、腕を組んでなるべく怖い顔をして仁王立ちのマネをしてみる。ぶっと吹き出して「俺はそんなに可愛く見えんのか」とからかわれた。迫力が足りないらしい。



「すいませーんお取り込み中悪いんですけど…ここ玄関ですよアンタら」

声に振り向くと、いつのまにか山崎さんが立っていた。

「山崎さん見てました?いまの総悟くんに似てました?」

「いやはっきり言って全然似てないよ姫ちゃん…」

「さーて昼寝でもすっか」

「唐揚げ揚げよーっと」

どちらかともなく手を繋いで屯所の中を歩き出した。

「だからイチャイチャすんなァァァ!」








宣言通り、お昼は腕を振るってたくさん料理を作った。唐揚げを揚げて、ポテトサラダやツナマヨやエビマヨのおにぎり、ついでにカレーも作ってみた。お浸しなどの付け合わせはおばちゃんたちが準備してくれた。

「姫ちゃん張り切ってるわねー!」

「なんか運動会みたいねぇワクワクしちゃうわ」


昼時になってたくさんの隊士さんたちがご飯を食べに来た。その中には土方さんも。

「土方さーん!これ!使ってください」

コトリと目の前に置いたのは帰りにスーパーで買った高級マヨネーズだ。小さな瓶に入ったそれを見て土方さんの目が見開かれ震える手でそれを持つと、がしりと肩を掴まれた。

「姫…!俺はてっきり嫌われたのかと……!!さっきは悪かった俺が馬鹿だったんだ許してくれ!」

涙目で訴えかけてくる土方さん。喜んでもらえて良かったけど食堂のど真ん中で繰り広げられる真選組副長の醜態に周りの隊士さんは何事かと集まってくる。

「ひ、土方さん……わかったので、ご飯食べてください」

「いや姫お前はわかっちゃいねぇこのマヨネーズの価値を…!コイツがどれだけ飯の時間をバラ色に染めあげるのかを!」

「じゃあバラ色に染め上げてやりましょうか。アンタの血の色で」

「ぎゃあああああああああ総悟ォォォそれだけはやめてくれぇぇぇ!!」

マヨネーズの瓶にカッと釘が刺さると土方さんは総悟くんから距離をとって背を向けた。幸いマヨネーズの中身は無事だけど土方さんは何かを失った気がする。


ぎゃあぎゃあ言いながらみんなでご飯を食べている光景を見ると、じーんとこみ上げるものがある。

「姫ちゃん!今日も美味しかったよ!」

「また腕を上げたなぁ、次の誕生日会のごちそうも楽しみにしているよ」

食事が終わった隊士さんたちが帰り際に話しかけてくれるのが嬉しくて、明日も頑張ろうとやる気が出る。万事屋さんでの食事も楽しかったけど、真選組の生活はもうすっかりわたしの一部になっていたみたい。

「はい。午後もお仕事頑張ってくださいね」

「旨い飯に美人の見送り付きかぁ、食堂も随分と華やかになったなあ!」

「何言ってんだい華なら前からあるでしょうここに!」

「確かにあるなぁ今にも枯れそうな華が」

ワッハッハと食堂が笑いに包まれる。
ここに来れて良かったな。
真選組に拾ってもらえて本当に良かった。
ここでの思い出があれば、この先辛いことがあっても乗り越えられる気がする。