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02.くしゅん

珍しく総悟がくしゃみを連発している。
あー、と言いながらティッシュで鼻をかんでいるのを見るのはいつぶりかなぁ。少し鼻が赤くなってる。かわいい。

「風邪?」

「流石にタンクトップは冷えた」

「だめだよお仕事あるのに」

土曜日。
総悟は珍しく一日オフの日。わたしもちょうど休みでリビングで一緒に課題をやっていた。総悟は通信の高校に通っている。普通の高校なんて行ったら授業もままならないのは安易に想像がつく。授業に出る代わりに課題を定期的に提出しないといけない。正直、今をときめくモデル兼俳優の彼に勉強している時間の余裕はない。わたしがこうしてお手伝いすることがお決まりになっていた。

「大丈夫?なんでそんなに薄着で寝たの」

「パジャマ洗うの忘れた」

「…忙しいもんねぇ」

総悟が忙しくなっていくのを見ていると嬉しい反面その分彼の身の回りが心配になる。山崎くんが紹介してくれたセキュリティがしっかりとした広めのワンルームのマンションに1人で住んでいる総悟。疲れて帰ったら洗濯も掃除もしたくないだろうな。

「わたしもここ住もうかな。隣の部屋空いてる?」

「それ以前に家賃払えねーだろ」

「失礼な!…と言いたいところだけど無理ですね」

しっかりと働いて自立していらっしゃる総悟とただの高校生のわたしじゃなぁ。双子なのになぜこうもポテンシャルが違うのかしら。才能的なものが全てコイツに取られたんじゃないの。

「それにお前の母親がなんて言うか」

「総悟とならいいって言うよ、絶対」

「いーや、名前に一人暮らしは無理だって言うに決まってんだろ」

「そういえばパパ元気?」

「週に一回はFaceTime来てウザい」

「うわ、それわたしにも来るよ。出ないけど」

「出ろよ」

小学生の時にパパとママは離婚してしまった。
もともとお互いに仕事が忙しくてすれ違っていた中でママのアメリカ赴任が決まって、それならとまぁまぁ軽い感じで別れたのだ。総悟はパパについて日本に残り、わたしはママについてアメリカに行った。高校生になって日本に戻ってきたら総悟は街のデカいテレビの画面の中でニコニコ笑っていた。ポスターにも雑誌にも成長してカッコよくなった双子の片割れがいた。電話でモデルをしているとは聞いていたけどまさかこんなに有名になるなんて。あの時のわたしの驚きといったら。

「パパとママもたまにデートしてるみたいだね。また結婚しちゃえばいいのに」

「そう簡単にいかねーんじゃねーの」

「ふーん」

「っくし、」

荷物をごそごそ漁ってもこもこパーカーを取り出した。総悟のマンションは広いから寒くないようにと一応持ってきた物だ。総悟の肩にかけてあげる。

「腕通さないでね、伸びちゃうから」

「サンキュー」

ピンクのパーカーでさえ似合うコイツが憎らしい。
何なら似合わないんだ。ふんどしか?いや、最近無駄に鍛えてるからなぁ、似合っちゃうかもしれない。くそう。

「ちょ、伸びるってば!」

パーカーをしっかり着てチャックを上まで上げてまたシャーペンを持つ総悟に待ったをかける。お気に入りなのに!
ていうかピチピチじゃん!

「さみーんだよ」

「暖房の温度上げればいいでしょ!じゃあなんかあったかいもの飲んでよ」

リモコンで暖房の温度を上げてケトルでお湯を沸かす。

「なに飲むー?」

「ミロ」

「お湯いらないじゃん!」

わがまま王子め!テレビの中での素敵なスマイルはどこへ行ったの。

「名前」

「んー?ミロどこ?」

キッチンをガサガサ漁るわたしを呼んだ総悟は、課題を広げたテーブルからテレビの前のソファに移動していた。休憩を決め込むつもりだな。

「来い」

「………」

なんか、わたしに対してとても上から目線なのが何となく気に食わない。他の人にはニコニコキラキラしてるのに。一緒に住んでた頃はいつも手繋いでどこに行くにもくっついて本当に仲良しだったのに。反抗期かな?これ。直ります?天使のような幼少の総悟くんに会いたいです。

「なに?」

言われた通りソファまで行くと腕を引っ張られてソファに座る総悟の腕の中に収まる。器用に片手でテレビを付けて映画を付けた。あ、それわたしがこの間観たいっていったやつ。

「課題いいの?」

「今忙しい」

「映画観たいだけでしょ」

「せっかく休みなのに勉強なんてしてられるかよ」

ぎゅっと後ろから抱きしめられる。わたしのもこもこパーカーがくすぐったい。まあ今日くらいはいっか。総悟に身体を預けて映画の主人公に意識を向けた。



title by 失青