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02.きみは万華鏡

「カッコイイ坂田銀時さんの妹」
「中等部の伝説、坂田先輩の妹」
「チーマー『silver wolf』の新しいリーダーの妹」
「あの子に声かけたらマジで殺されるってよ。なんでもあの坂田先輩の妹だって」

学校でわたしは色々な呼び方で呼ばれる。
ただ、ほとんどが最後の一文字に集約されている。妹。そう。すごいのはわたしじゃなくて銀時お兄ちゃんだ。
わたしはただのその辺にいる平々凡々の中学3年生、受験を控え多感なお年頃である。

うちはエスカレーター式だから特別な希望がなければだいたいの子はそのまま高等部に上がる。わたしも特に行きたいような高校もなかったのでそれに従おうと思っていたのだけど、瞬く間に銀時お兄ちゃんの存在は有名になってしまった。このまま高等部に行ったらまたこの仕打ちを3年間も繰り返すのか。気が重い。しかもお兄ちゃんは3年生になる。1年間被ってしまう。それにもしも、万が一、留年でもしたら更に一緒にいる時間が増えてしまう。そしてわたしはまた学校から芸能人の如く注目されなければならないのだろうか。
こうなったら受験して他の高校に行こうかな。でも家から近いのはここなんだよなぁ、はぁ、悩みは尽きない。

「名前、顔死んでるアルよ」

「神楽ちゃんー、今日も天使のような可愛さだね」

学校で唯一気軽に話しかけてくれるのは同じクラスの神楽ちゃん。どうやらお兄ちゃんのことなんて一切興味がないらしい。ありがたい。貴重なお友達だ。

「今日また兄貴に送ってもらったデショ?バイクの音ですぐわかるネ。今にも壊れそうな音出してるからな」

「そうなのー、本当うるさいよね。自転車にでも乗ってもらいたいくらいだよ」

「あの兄貴がママチャリなんか乗ってたら腹抱えて笑うけどな」

バリバリとお菓子を食べる神楽ちゃんからポッキーを一本もらう。んー、美味しい。

「アイツもガキアルな。大事な妹に手を出すなって言いたいだけデショ。あんなにアピールしなくても充分伝わってるネ。まぁお陰で名前のことワタシが独り占めできるからイイけど」

「アピール?どういうこと?」

「天然な妹持つと兄貴は大変ってことアル」






「ねぇ銀時、今日後ろ乗せてよ。全然乗せてくれないじゃん」

「えー無理。女乗せないって呪いかかってんのアレ」

「何それ、いいじゃん、ねぇ?お願い」

擦り寄ってくる女の香水臭さに息が止まりそうだ。
あーうざ。断ったよね?俺。
絡みついてくる腕が煩わしい。

「彼女いないんでしょ?」

「いるよ」

「えっ、マジで?誰!?」

「少なくともアンタみたいな女じゃねーよ」

あ、言っちまった。案の定怒って去っていく。ハイサヨウナラ。あーやっと静かになった。1人になった屋上で鞄から弁当箱を取り出して手を合わせた。いただきまーす。
甘い卵焼きが大好物なのを知るのは名前だけだ。そのほかにほうれん草のお浸し、つくね串、タコさんウインナー。別に特別なものはない普通の弁当だ。

「うま……」

俺が起きるずっと早くから起きて作ってくれてるのを知っている。早く帰って一緒に夕飯を食って欲しいと思っていることも、知っている。だがそれを訴えてくることはない。肝心なところで甘えてこない名前。寂しいくせに。寂しくさせてる俺が言えることではないが。

親が事故で死んだ。残ったのは小さな妹ただ1人。守らなくては。俺が。不器用なりに精一杯守ってきたつもりだった。

ある時、少しずつだが確実に女へと成長していく名前に純粋な気持ちでおはようとおやすみのキスをできなくなってしまったことに気づいた。ああ、こりゃダメだと思った。
いつのまに特別になっちまったんだろう。『妹』の相手は慣れたモンだが『女』である名前は管轄外だ。手に負えない。邪な気持ちがふつふつと溢れて止まらない。そのうち家にいるのがしんどくなってしまった。俺だって思春期真っ只中の高校男子だ。好きな女とひとつ屋根の下にいたらドキドキするしムラムラもする。
それが全ての要因だったわけではないが、次第に家を開けるようになった。いろんなものを発散させるように腕を振るっているうちに気が付けばどーでもいいチームのリーダーになんて祭り上げられている。

今の俺は名前の目にどう映っているだろう。
兄貴と呼ぶにはあまりにも落ちぶれてしまった。



title by 言祝