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08.君よどうか盲目であれ

「絶対に無くすなよ」

ママを空港まで見送って総悟のマンションに押しかけると合鍵をもらった。しかもすっごく可愛いケース付き。チャックの中に鍵を入れるようになってる。チェーンがついてるからバッグとかに付ければ落とさなそう。

「ありがとう!」

「そのまんま渡すと絶対どっかいくからな」

「めっちゃ可愛いー」

「そういうの好きだろ。顔の割に」

「顔の割にってなに」

「名前は可愛いってより美人顔だから」

まぁ、可愛い物が好きなのは意外だとよく言われる。わたしの部屋は少しずつ集めたお気に入りの物がたくさんある。ぬいぐるみとかストラップとか。というのも、昔よく観た映画に出てくる主人公の女の子の部屋……お姫様みたいにキラキラしたあの空間がずっと忘れられない。素敵な魔法が生まれそうなどきどきわくわくする気持ち。可愛い物を見るとあの感覚を思い出す。
高2にもなって子どもっぽいとは自分でも思うけど自分の部屋だから放っておいて欲しい。来たるべき時がきたらすっごくクールな部屋にするから。いつかは知らないけど。対して総悟の部屋はドシンプル。殺風景に感じないのは住んでる人が格好いいから?

「ちょっと早いけど誕生日プレゼントな」

「確かにちょっと早いね」

「仕事で買いに行けないかもしれないから先に渡しとく」

「嬉しいよ。ありがとう」

軽くハグして離れようとすると腕を回されてがっちりホールドされる。ん?なんだ?やるか?

「やるかーこのー」

プロレスのノリで足をかけながら腕から逃げ出そうとすると、強い力で身体が抱き上げられた。宙に浮いてぎょっとする。チラッと顔を見るとにやにやしてる。嫌な予感。お遊びモードだな!

「ダブルローテーション・ムーンサルトプレス」

「ちょっむりむりむりむりきゃーーー!!」

くるくるとわたしを抱えたまま回転するから目が回る。投げ飛ばされるんじゃないかと思ってしがみついた。勢いよくソファに落とされて肩を縫い付けられて、うっと蛙が潰れたような酷い声が出た。手足をばたばたさせるも3カウント取られ一瞬で敗北。

「引退します…」

「はは」

「酔った…きもちわるい」

「ごめん」

おでこに唇が触れた気がした。あ、また。
最近…いや、ピアスを開けっこしてからというものなにかとキスされてるような気がしてならない。スキンシップの仕方が変わってきたっていうか、今まではくっついたりハグしたりとただ身体を密着させることが多かったのがだんだんと唇も使うようになってきてる。レベルアップしてる。わたしもお年頃なので意識してしまいそうになる。

「なんか最近すごくキスされてる」

「名前が俺にするハグと一緒」

「欧米か」

「お前がな」

「…でもなんだそっかぁ、ハグかぁ」

そんなに深く考えなくていいやつだ。

「じゃあわたしも」

総悟のほっぺにちゅ、と唇を当てた。あ、リップついちゃった。薄い色つきのリップクリームを人差し指でちょんちょんと拭うと「まじかよ」とドン引きされた。なんだまじかよって。自分はする癖に失礼な。

「なに?冗談だった?わかりにくいボケ?」

「いや、ちょっと油断してた」

「わたしからのキスを貰うには気合いが必要なの?自分はいきなりする癖に」 

「あ。そういえばアイスあるけど食う?」

「チョコの?」

「チョコの」

「食べる! 」

「マジで名前はちょろいなぁ」

笑いながらキッチンに消えていった総悟をぼんやりと見送る。あれ、もしかして誤魔化された?木製のスプーンを口に咥えアイスをふたつ持って戻ってきた総悟はチョコの方をわたしに手渡した。自分はバニラ。いつもこの組み合わせ。

「そういえばザキに返事したのか」

「写真集の撮影?まだー」

「もう週末だろ」

「んー…………」

総悟の写真集の撮影に同行して欲しいという話だ。そろそろ山崎さんに返事しないといけない。学校休んでまで撮影の見学ってどうなんだろうって考えて悩んでいる。だってわたしが行ったところでなんにもできることはないから。せいぜいガムとお茶を買いに行ってみんなの邪魔にならないように隅っこで格好いい総悟を見てるだけ。それってどうなの?みんながあんな素敵な仕事してる中ひとりだけのほほんと。

そう考えて初めて、今までわたしは本当になんにも考えずあの現場にいたんだなぁと恥ずかしくなった。カメラマンさんをはじめスタッフさんはみんなプロの仕事をしているんだ。あの場所で世界中の人に見られる作品が作られている。空気と生命、その一瞬が切り取られる。実際に自分がカメラの前に立って初めて肌で感じたこと。

「総悟は、すごいと思う」

たまに総悟が手の届かないくらい遠くに行ってしまう夢を見る。こわくて、悲しくて、さみしい夢。わたしのただひとりの片割れは1人で堂々と世界中を歩いて行けるほどになった。かたっぽ欠けたままのわたしはただ、その背中を見てる。ふと、名前を呼ばれて顔を上げた。

「名前が今見てる俺が、全部」

アイスをテーブルに置いた総悟がこっちを向いて、こつんとおでこをくっつけた。撮影の時を思い出す。あの時みたいな距離で目が合う。さてここで問題です。次はどこがくっつくでしょう?答えはCMで。

「…総悟の全部わたしのもの?」

「当然」

「じゃあ、もう大丈夫」

少しぶっきらぼうな総悟の行動と言葉の一つひとつに思いやりを感じて安心する。

「名前は?」

「わたしも総悟のもの」

手の中のアイスがゆるく溶けていくのを感じながら笑ってほっぺにキスし合って、山崎くんにはOKの連絡を入れた。

「しばらく2人暮らしだな」

「うん。楽しもうね」

わくわく、どきどき。こうして隣にいれば怖くない。そう思える。これからどんなことが起こるんだろう。楽しみしかないのは総悟と一緒だから。




title by 誰花