×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

04.引き返せないと困る

やべー、俺マジでヤバイ方向に行っちゃってるかもしんない。

2ヶ月に1度の他校との会合があるからリーダーは集まれって通達があって会場となる高校の近くの倉庫に渋々向かっていた途中だった。その手前にある女子校の近くで女の子が絵に書いたような不良に絡まれていた。めんどくせーと思いながらバイクを停めて割って入りクズ共をねじ伏せた。そこまでは良かったんだ。
絡まれていた子は名前と似たようなほんわかした雰囲気の可愛らしく慎ましやかな女の子だった。

『どこの組ですか』と聞かれて「銀魂高校2年Z組 」と即答したのを覚えている。すると現れたのは全身黒スーツにサングラスのいかにもヤクザですと言う風貌の男だった。
どこの組って、そっちの組のことかと理解した。そそくさと逃げようとするとグラサンの男に名刺を渡された。『高杉組』の名前が書かれたそれには手書きで電話番号が記されていた。ちょっと待って、高杉組ってこの辺じゃあ有名なヤバイ系のアレじゃねーか。

『何かあればここにかけろ』とだけ言われた。背筋が凍りついた。あの子、とんでもない家に住んでんじゃねーか。その後の会合の話なんて一切頭に入らなかった。どこのチームがどのシマで、サツが見張っている時間と場所はどーのこーのと話されても知らねーよという感想しかなかった。もともと副リーダーを務めていた辰馬も同席して聞いていたが恐らくアイツもほぼわかっていないだろう。なんせアイツもただ走るのが好きなだけのアホだから。銀魂高校の『silver wolf』が崩壊する日は近い。てかなんだこのチーム名は。ダサくね?

数日経ってあの女の子に手を出した生徒3人が学校に姿を見せなくなり町からも消えたという噂が耳に入った。……恐ろしいという感想しか出てこない。怖すぎだろホンモノのヤクザじゃねーか。あの子に何かあったら俺もその仲間入りをしていたに違いない。やべ、想像しただけで漏らしそう。
万斉と名乗った男から受け取った名刺は必要ないからと捨ててしまうには存在感があり過ぎた。とりあえず部屋の机の引き出しにしまっておこう。何事もなく日々が過ぎ忘れることを祈る。10年後くらいに『あれ何これ〜いらねーから捨てよーっと』と軽い気持ちで捨てられるほどになっていればいいのだが。無理か。

「お兄ちゃん、起きてる?」

「んっ!?どーした」

コンコン、と扉をノックして名前が話しかけてきた。
名刺をサッと閉まって努めて明るく言う。

「おいで」

おずおずと部屋に入ってきた名前の表情は曇っている。なんだ、どーした。今日は走りに行ってねーだろうが。

「お兄ちゃん」

俺が座るベッドの隣にちょこんと座る。シャンプーもボディソープも俺と同じ物を使ってるはずなのになぜこうも甘く香るのか。何プッシュしてんだお前。背中まで伸びた髪の一本一本が俺の指を待っているように見える。もちろん幻覚だが誘われるまま髪を撫でると思ったとおりしっとりと手に馴染んだ。変わらない綺麗な髪だ。

「あのね、もう…、寝るから」

「ん?そーだなもう23時になるな」

「…おやすみ、してくれる?」

ああ、そうか。
もうおやすみのキスをしなくなってどれほど経っただろう。俺が耐えきれなくなって避けてしまった習慣だった。朝は寝ぼけた勢いでなんとかしているものの、好きな女に純粋な気持ちでおでこにキスだけなんて辛抱ならない。
いや、妹。好きな女である前にコイツは妹。不安を溶かすために母親から受け継いだおまじないだ。そう自分に言い聞かせる。

「名前」

ん、と合図を送ってこちらを向いた名前の前髪を掻き分けると小さくて綺麗なおでこが出てきた。これまで何百回、何千回ここに唇を落としてきたか。この無垢な身体が何回俺の不純な唇を受けてきたか。想像して罪悪感と支配欲が駆け上がるようにぞわりと渦を巻く。あ、ダメかも。

「いつまでお兄ちゃんはこうしてくれるの?」

唇が触れようとした時だった。突然発せられた冷えた声色に反応しておでこに当てた自分の手が震えた。

「もうダメだよね、わたしたち」

真っ白な世界しか知らない瞳が俺の汚れた目を覗いている。
声が上ずるのがわかった。

「ダ、メって」

「こういうことはしないよね、普通。ねぇお兄ちゃん、普通って、なに」

普通ってなんだろう。
恐らく答えは俺の意思の正反対にある。

「…兄妹で手を繋いだりするのやめたらって」

悲しそうに目を伏せた名前は今にも泣いてしまいそうなほど揺らいで見えた。

「…誰に言われた、そんなこと」

「知らない人。高等部の、おんなのひと」

「そんなもんで傷つくな。俺たちがいいなら、いーんだよ。他所は他所、うちはうち」

オイ誰だコイツにアホなこと吹き込んだのは。ぶっ飛ばしてやろうか。知らないうちはいいんだよ、知らないままで。

「…銀時には彼女がいるから、邪魔にならないようにって」

「はあ?……あー…あの女ね」

少し前にバイクに乗せてとせがんできた女。彼女がいると嘯いたのはあの時だけだ。彼女なんかいねーよとおでこを撫でてやる。

「ほんと?」

「ほんとほんと。どうせお前だってそのうち彼氏の一人や二人できんだろ、そん時バトンタッチするわ。お兄ちゃんなんて嫌って時が来るんだよ、思春期と反抗期ってヤツな。これテストに出っから」

言ってて虚しい。でもその時は近いうちに来るだろう。俺も受け入れなくてはならない。あーでも見たくねぇな名前が他の男と並んで歩いてる姿なんて。殺したくなるわ。

「いや」

「なにが嫌なの。まさか来たのか反抗期が。お兄ちゃん心の準備がまだ、」

「手繋ぐのもキスもお兄ちゃんじゃないと嫌 」

「……名前 」

「他の人じゃダメ。お兄ちゃんはわたしのじゃなきゃ、嫌……」

ぽろりと溢れた涙は、何のための雫だろう。
コイツは、どこまで理解してものを言ってるんだ。




title by パニエ