×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

03.甘くないから甘くなる

昼間は学校なので晋助に会えるのは朝学校に行く前か夜だけ。でも晋助は昼間お屋敷にいて夜は仕事で出ることが多い。もう少し小さな頃はよく熱を出して学校を休んでいたから昼間晋助が何度か様子を見に来てくれた。たわいもない話をたくさんした気がする。休んでいる間の勉強を教えてもらったりもした。

ここのところ学校は休んでいない。あの頃は身体は辛かったけど、今になって思うと幸せな時間だったのかもしれない。元気になった今だから言える話だけれど。

放課後、迎えの車が来る裏の門に向かおうとしていた時に外から来た一匹の猫が歩いているのを見た。武市さんが来るまで少しだけ時間がある。悪戯心が疼いて駆け出した。

「…いなくなっちゃったかな」

猫の背中を追っているうちに、気付けば裏庭から学校の外に出てしまっていた。そろそろ戻らないとなぁ。ふわふわの背中を撫でてみたかったけど、時間切れだ。来た道を戻ろうとした時、知らない男の子から声をかけられた。

「あれ?その制服もしかして百華女子高校?可愛いねぇ、ちょっとお茶しない?」

「あ、」

その3人の制服を見て、すぐ隣の高校の生徒だとわかった。なんでも『やんちゃなクソガキ共が通うところだから話しかけられても口を聞くな』と万斉さんに言われていたんだった。

「お友達何人か呼んで合コンしようよー、俺たち優しいよ?」

「や、待ち合わせがあって急いでるので」

ごめんなさい、と走り出そうとした手を取られもう1人がわたしの前に立ち行手を阻む。そんな強引な。合コンなんてしてもモテないよ絶対。

「もう、離して。こんなとこ見られたら…」

万斉さんに殺される。この人たちが。
でも離してくれないならそれもしょうがないか、なんて半ば諦めつつブレザーのポケットにある小さめのスマホから緊急用の番号を呼び出そうとしたその時、ブルルルと大きな音を立てて走ってきたバイクがわたしたちの前で停まった。

「オイオイめんどくせーな。会合だかなんだか知らねーが人がせっかくこんなとこまで出てやってんのにお宅の生徒さんは堂々とナンパですかこのヤロー」

ヘルメットを脱いだその人の銀色の髪がキラキラ輝く。なんだお前は邪魔すんな、と言って殴りかかった人たちを軽く避けて一発ずつ的確に急所を突いて倒してしまった。一瞬のことだった。制服を着崩しているけど身のこなしがどう見ても普通の高校生に見えない。もしかして他の組の若衆だったりするのだろうか。

「大丈夫か?アンタ綺麗なんだからこんなとこ一人で歩くなよ」

「ありがとう……、どこの組の人ですか?」

「銀魂高校2年Z組」

「じぃーぐみ?」

「アンタは?」

「たかすぎぐ……」

「名前!」

振り向くと万斉さんがこちらへ走ってくるところだった。珍しく慌てている。

「万斉さん、この人が助けてくれたの」

わたしの一言で全てを察した万斉さんは倒れた男の子たちと銀色の人を見比べて頭を下げた。

「礼を言う」

「アンタがこの子の保護者…デスカ?こりゃなんつーか……やべー人と関わっちまったみたいで…じゃ、俺はこれで」

黒スーツとサングラスの万斉さんに何かを察した銀色さんは冷や汗をかきながらさっとバイクに跨ってエンジンをかけた。それに待ったをかけて万斉さんは銀色さんに何かを握らせた。

「あの、お名前は?」

「坂田銀時」

それだけ言って坂田さんは行ってしまった。またちゃんとお礼を言いたいな。






「ガキに絡まれたんだってな」

その日の夜、珍しく早く帰ってきた晋助はお風呂上がりで乾かした髪にくしを梳かしていたわたしの部屋に入ってきた。どことなく機嫌が悪そう。万斉さんから聞いたんだろうな。

「お帰りなさい」

駆け寄ってぎゅうと抱きつくと背中に手が当てられた。

「なんでそんなところに行ったんだ」

「……猫が、」

「お前はもっと自覚を持ってくれ」

長いため息をついた晋助のほっぺに自分のほっぺをくっつけるとひやりとした体温がわたしに移ってきた。

「んふふ」

「おい、反省してんのか」

「だって今日は甘える日って決めたから」

「そんな日になったとは初耳だなァ」

身体を抱えられて雑にベッドに落とされた。お気に入りのクッションがぽわんと跳ねる。

「どこか触られたか」

「えと…腕をちょっと」

言うが早いか晋助の手がわたしの腕をとりパジャマをめくって傷がないか確認した。

「大丈夫だよ。銀色の人が助けてくれたの」

「…そうか」

「お兄ちゃんの方がもっともっと強いよ?」

「嫉妬してるように見えてんのか?」

「違った?」

「ガキに嫉妬するわけねェだろ」

「い、た」

晋助は掴んだわたしの腕を口元に持っていって歯を立てた。それ絶対嫉妬してるよね?

「嬉しい」

「何がだ」

「晋助がお仕事中にわたしのこと考えてくれて嬉しい」

何も答えないかわりに晋助の舌がわたしの腕を伝って指先まで辿り着いた。指先をかじられて一瞬だけびりっとして痛かった。

「ん、」

「まだ当分は世話が焼けるな」

「うん」

できるだけゆっくり大人にならせて。あともう少しだけ。



title by パニエ