私は、小さいころからよく泣いていた。

それは私が泣き虫だった所為もある。
でも、それ以外にも理由があった。

生まれた時から一緒の、彼。
彼はいつも私に意地悪をしてきた。
それは子供じみたものだったけれど、当時の私には十分泣けてしまうような悪戯。
毛虫をわざと近づけてきたり、ホースの水をぶかっけてきたり・・・。

とにかく私は、毎日のように泣いていた。

そんな簡単に泣く私を見て、泣かせた張本人のはずの彼は、何故かいつも慌てていた。

慌てて、泣く私の頭を撫でながら、

「泣かせるつもりじゃなかったんだ」私が泣いたことが予想外。
そんな表情を浮かべながら、私が泣くたびにそう言った。

そんなことをいうのなら、悪戯をやめてよ、なんて思ったものだ。

そんな彼のセリフは、中学三年生の秋まで何度となく聞いて・・・、冬から聞けなくなった。

自転車の事故で、即死だったそうだ。

相手の車は結局捕まらなかった。

「何してんの?部長に怒られて泣いてんのか!」

ビルの屋上で物思いに耽っていた私の肩を叩いたのは、この会社に入ってから三年間一緒の同僚。
こうして私が泣いている時はいつも来てくれる、いい友だ。

こうして泣いていると、思い出す。
彼の、慌てた表情。

私が泣いている原因は、彼じゃないけれど。

「泣かせるつもりじゃなかったんだ」

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