それは雪の降る、寒さの浸みる夜だった。
街灯も少ない住宅街は、男の自分でも歩くのには心もとない。
今も昔も治安の良し悪しは変われど物騒な人がいなくなるわけではないのだ、なんとなく後ろを振り返って確認してみたくなる気持ちも分かってほしい。
積もるほどではない雪は、道路やコートの上に落ちてその姿をすぐ溶かす。
綺麗なのに勿体無いな、でもつもるのは面倒だからいやだな、なんて。
ふとあるく先が、普段より暗い事に気が付いた。
不思議に思って、足を止める。上を見上げると、街灯が切れていた。

「いやだな…」

街灯がついていても夜道は怖い。消えているなんてなんだか縁起が悪そうだと思いながら、此方に歩かなければ家に帰ることが出来ないと思いたち歩き始めた。すると、まさに切れていた街灯のすぐ下。
そこに、真っ白な人が倒れていた。
思わず驚いて飛びのく。しかし白い人間はまったく動かなかった。暗い中では、ただ白い人であるということしか認識できない。スマートフォンを取り出し、照らした。

―――その時の、衝撃だけは、今も新鮮に覚えている。

「……白……」

髪の毛も、服も、肌も。赤い血がわずかに滲むものの、それが却って白さを際立たせているとさえ思わせるような、白。

あの日、雪が降る日出会った彼女は、暗闇で倒れていた。



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