「あ、あった。」

フルギがそう言いながら手にしたのは、木箱に赤い十字マークが描かれた救急箱。
まだ入っていなかったその部屋は図書室のようで、沢山の本棚が壁に添って置いてあり、その中央にはいくつかのテーブルと椅子も置いてある。
憩いの場としても機能していたのか、そこには棚も設置してあり、その中に救急箱をみつけることが出来た。
中から消毒液とガーゼ、テープを取り出し、ホシダの怪我を治療する。

「いッ、た!」
「我慢してください、消毒しないと…」
「このくらいだいじょ、い……っ」

両手に治療を施されたホシダに、フルギのわずかに切られた肩をお返しのように治療された。
男二人がぎゃあぎゃあと治療している間、女性二人はテーブルで向き合い、静かに座っていた。

「……リンネ……。ヒメジ、どうして殺されたんだと思う?」
「どうしてって……。わからないよ……。」

泣きそうに震える二人の肩。その姿を見て、ホシダとフルギは二人の向かいの椅子にこしかけ、四人でテーブルを囲むようにして座る形になる。
さきに口を開いたのは、フルギだった。
「あの、今こんなこと聞くのもあれなんですけど…、自己紹介、しません?」
「え?」
「俺達あってからお互い、苗字しか知らないじゃないですか。…あんなことがあったわけだし、協力する仲間同士として、それくらいした方がいいんじゃないかなー、と。」

肩を竦めながら、フルギは苦笑いした。
出会ってから間もないとはいえ、生死を乗り越えた仲間のようなものだ。しっているのは苗字だけ、ではなんとも味気ないし信頼性に欠ける。お互いを信用するためにも、必要だと思えた。
そのフルギの今更な提案に、ホッタをふっと吹き出した。

「のんきね、あなた」
「良く言われます、マイペースだって。マイペースさはホッタさんにはまけますけど」
「はぁ!?」

ダン!と机を叩いたホッタに、ハヤサカは落ち着きなよリエ、と声をかける。むっとした顔のホッタは渋々席に座り直し、自己紹介を突然始めた。

「私はホッタ リエ。大学二年生よ」
「おお…ほんとに乗ってくれるんですね、自己紹介」
「あなたがはじめたんでしょうが!」
「失礼失礼。俺はフルギ ユキト。大学三年生」

即座に反応するホッタの反応が面白くなり、ついついいじってしまう。こんな状況ではあったが、この時間だけは和やかな空気が流れていた。
じゃあ次、とハヤサカを指す。するとハヤサカは少しだけ慌てたようにして、一つこほんと咳払い。

「えと、私はハヤサカ リンネ。リエと同じく大学二年生です…。」
「ああ、じゃあ二人とも俺より年下なんですね」

少し恥ずかしそうにそう言ったハヤサカの言葉に、ヘぇと頷きながら返す。それを聞いたハヤサカも頷いている。

「そうなりますね。…あの、それじゃあ敬語はずして貰ってもいいですよ…?ホシダさんも」
「確かに一応オレも三年ではあるけど…。じゃあそうさせてもらおうかな」

突然話をふられて驚いたのか、一瞬びくっとしたホシダは少し笑いながらそういった。確かにその方が色々やりやすいだろう、コミュニケーションも計りやすい。
それなら、とフルギのその案に乗る。

「ホシダさんがそうするなら、俺も。別にこんな状況だし、ホッタさんもハヤサカさんも敬語なしで!」

フルギのその言葉に、女性二人は少しだけ躊躇うようにしてから、そっと頷いた。



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