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味覚オンチな恋の味

ここ最近なんだか寝付きが悪くて寝不足が続いていた。ベッドに入ってもいっこうに睡魔はやってこないし睡眠なしで朝を迎えることだってある。かと言っていつものように学校はあるし、しっかり授業だって受けないといけない。それでもなんとか乗り越えてこれたのはもはや気合いだろう。

だけど、ついにわたしの限界は訪れた。体育でやった持久走が終わり着替えたあと教室に戻るとき、ばたりと倒れてしまったのだ。目の前がぼんやりして、自分の体が倒れていく感覚に襲われながら最後に見たのは、目を見開く赤髪のそいつだった。













『……』


ぱち。意識が戻り目が覚めると、どこか教室と違う天井。あたたかい布団に埋まったまま頭を動かしここがどこなのか確認する。


「あ、起きた?」
『…先生』


どうやら保健室らしい。独特の空気に包まれるこの部屋で、足を組み座ってるのは保険医だ。先生はわたしの寝転ぶベットまでやってきて「気分はどう?」と聞いてくる。特に変わった様子もないので大丈夫ですと簡潔に答えた。


「最近寝不足だったりした?」
『全然眠れませんでした』
「そう。えっと、貧血も混ざってるわね。だめよーしっかり寝なくちゃ」
『……』
「ベッドは貸してあげるから、ここで寝ておきなさい。私は職員室でやることがあるから保健室はあけておくけど、誰か来ても気にしないでね」
『はぁい』
「あ、火神くんにあとでお礼言いなさいね」
『火神?なんで?』
「倒れたあなたをここまで運んでくれたの、彼だもん」
『…へえ』


なるほど、火神が…。なんだか火神って何かとイケメンな気がする…バスケ部レギュラーで料理上手の帰国子女?なんじゃそりゃマンガのキャラかよ。保健室から出て行く白衣の後ろ姿を見送りながらそんなことを思った。ってか寝ときなさいとか言われても自分のベッドでさえ寝れないのにこんなとこで寝れるわけ…


「ダメですよ、寝ないと」
『う、わあっ!…て、テツヤくん…!?』


突如現れたのは保健室のお化け…などではなく、ただのテツヤくんだった。相変わらず影は薄い。いったいいつからそんなところにいたのか、彼女のわたしでさえ気付かなかった。


「寝てください」
『眠れないんだけど…』
「また倒れますよ」
『…心配して来てくれたの?』
「ボクをなんだと思ってるんですか、これでも君の彼氏なんですよ」


テツヤくんは例のごとく無表情のまま淡々とそう言ってのけた。そしてそばにあったパイプ椅子に腰掛ける。しばらく居座るつもりだろうか。時計に視線を向けたらもうすぐ4限が始まるところ。


『嬉しいけど、もう戻らないと。テツヤくんが授業に遅刻しちゃう』
「平気です、そばにいます。あわよくばサボってもバレませんから」
『や、さすがにそれはバレ……ん?バレないかな?』


テツヤくんならいけるんじゃ…、それにしてもいくら彼女が倒れたからと言って彼自らサボりを主張するなんて珍しい。何かあったのかなぁ。


「喉乾きませんか?」
『え、』
「もし乾くなら何か買ってきますが」
『へ、平気』
「じゃあ寒くは…」
『テツヤくん』
「はい?」
『どうかしたの?』
「え」
『…なんだかいつもより、よく喋るから』


普段からどちらかと言えば無口なほうな彼が、今日はやけに饒舌じゃないか。おかしいと思わないほうが不思議な話だし、テツヤくんの顔がほんの少しだけどいつもと違った。


「………」


テツヤくんはしばらくの間黙って、物憂げな瞳を伏せた。わたしはそんな彼の愛らしい姿に心を奪われつつ、しかし彼から出る言葉を待った。


「……ボクが、」
『ん?』
「ボクが妬かないと思いましたか」
『……え?』
「…桃花が火神君に運ばれてるのを見たんです」
『火神?』
「別に何もやましいことなんてないけど、それでもやっぱりボクも男なんで…あんなの見たら嫉妬くらいします」


拗ねたような顔したテツヤくんがわたしの手を握りしめた。ぎゅっと握る彼の手からは暖かい体温が伝わってきた。まさか嫉妬されてたなんて思わなくて、思考がわずかに遅れをとる。


「…だから今こうしてるんです」
『……』
「わかりました?」
『……』
「……」
『……』
「…返事は?」
『は、はぁ!なるほど!』


なかなか恥ずかしいことを言われてわたしは顔が熱くなるのを感じた。テツヤくんと繋いだ手に力を込めてから、布団にその顔を埋める。1枚隔てた向こうからは小さく笑う声。テツヤくんって、意外と意地悪。


「可愛いですね、桃花」


とってもどうでもいいことだけど、平生敬語なテツヤくんがわたしのことを名前の呼び捨てで呼ぶことがわたしは何気に好きだったりする。


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121212//味覚オンチな恋の味

◎沙織里さま
40万打記念企画に参加してくださりありがとうございます!
黒子くんの嫉妬夢、なかなか難しかったです…!いい経験になりましたっ!
また今度、もっときちんとした形のものを公開できたらなぁと思います(*´▽`*)
このたびは本当にありがとうございました!


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