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残像にキスしたあの冷夜

「幼なじみじゃなくてよかった」

わたしはバイト中、数時間前学校で言われた言葉をずっと思い返していた。見慣れた作業着のおじさんがおにぎり二つとカップめんを買っていったときも、決まって週末に現れる学生カップルを見ていたときも、隣のレジに立つ先輩の自慢話を聞いていたときも。「幼なじみじゃなくてよかった」なんて、初めて言われた。「幼なじみでうらやましいな」とは今まではいて捨てるほど言われてきたというのに、高校生になってまさかそんな言葉と出会うとは。「幼なじみでうらやましいな」『そんなことないよ、大変だよ』このやりとりがマンネリ化していたのだと、思う。実際あいつと幼なじみでよかったのかと聞かれたら一概にはいとは言えない。幼なじみだからこそ他人とは違う関係がある。
だけどその関係が必ずしもいい方向に繋がるとは、決まってないのだ。


「青木さん、ちょっと風邪で次の交代の子これなくなっちゃったんだけど1時間だけのばせる?」

『はぁ、平気ですよ』

「ありがとう、助かる!」


どうせ家にいても同じことを考えるだけなので承諾した。…で、話を戻すが、つまりわたしは冒頭の言葉を言われたとき悲しかったのだ。まるで幼なじみじゃ恋が叶わないかのようにあの子が言うから。少なくともわたしの恋は学校であいつを、臨也をはやし立てる可愛いあの子やこっそり恋なんかしちゃってる地味なあの子よりも早くに始まっていた。恋は長さじゃないと口では言うし理解だってしてるけど、残念ながらそういうのは理屈じゃない。他人より優れているところを探し、そして相手を心の中で蹴落とさないと不安で仕方ない。臨也の気持ちが見えるならこんな思いせずにすんだが、諦めよう、あいつはああいう性格だ。


「青木さんってバイトのお金何に使ってるー?」

『服とかですかね』

「服ねーやっぱりねー」


中身のない会話だって臨也となら楽しいけれど今は全く楽しくない。「そんなんだから君は敵をつくりやすいんだよ」と臨也に中学の頃言われたが、まあまさにその通り。けど、臨也に言われたくないとも思った。世渡りはうまいけどきっと嫌悪感を抱いて接する人がほとんどに決まってる。


「青木さん、もう上がっていいよ。ごめんね遅くまで」

『いいえ、お疲れさまでした』


バイトが終わったけどわたしの悩みは終わりません。「幼なじみじゃなくてよかった」と言った彼女の言うとおり幼なじみじゃなかったら少しくらいわたしにも可能性があったのだろうか。あの子やあの子やあの子のように、わたしにもまた平等に可能性が。









「遅い」


バイトが終わり外の寒さに身を震わせながらコンビニを出たら聞き慣れた声が耳に浸透した。まさかと思い顔を上げたら夜の街に溶け込むような真っ黒の髪と赤い瞳。マフラーを首に巻き付けた臨也がガードレールに腰掛けていた。遅い、と不機嫌丸出しだ。こんなときに考えるのもなんだが普段臨也は他人に仮面の笑顔しか見せないのでこうして本心をわたしには見せてくれることがかなり嬉しかったりする。……ああ話がずれてしまったが、そうじゃなくてだな。なんで臨也がこんなところに?


『どうしたの』

「何してたの」

『わたしが先に聞いたんだよ』

「ねえ、何してたの」

『…バイトに決まってんじゃん。知ってるでしょ』

「終わる時間からもう1時間も経ってる」


唇尖らせて言う臨也にわたしは理由を話した。すると「出たよ、八方美人」なんて言われてむっとした。ほっとけバカ。いまだに腰掛けたままのそいつを無視してわたしは帰ることにした。家では温かいお風呂が待っている。とにかく、お風呂に入りたい。すごく寒いから。隣に並んだ臨也は歩道と車道を隔てるブロックの上を歩く。

わたしはもう一度聞いてみることにした。


『なんでバイト先まで来たの』

「今日様子がおかしかったから」

『今日?いつのこと?』

「帰り。」

『あれ、わたし帰り臨也に会ったっけ』

「帰っていくのを見たんだ、シズちゃんから逃げてるとき」

『ふーん…』


言いながらブレザーのポッケに手を突っ込んだ。少しはぬくくなるかと思ったが、まだまだ寒い。曖昧な返事に臨也はまた拗ねたような仕草を見せた。(面倒なので気づかないフリをしたが)


「ま、何があったか知らないけどさ」


タタン、タタンと臨也が器用にもスキップをする。わたしはそいつの背中を見つめつつ、冷たい夜風になびくグレーのマフラーがなんとなく気になって仕方なかった。


「こんなことしてあげるのお前くらいなんだから、そんな人生に不満みたいな顔しないでよ」

『…わたしくらい?』

「今も。今までも。これからも、ね」

『……臨也は、わたしが幼なじみでよかった?』


問いかけた言葉に、なかなか返事は返ってこなかった。前を歩いていた背中はピタリと止まり振り返った臨也の顔は幼い頃となんら変わりない笑顔だった。


「桃花じゃなきゃ、捨ててるよ」


必ずね、と微笑む臨也に胸はどきりと鳴り、同時に学校での友達の言葉なんてどうでもよくなってしまった。「幼なじみじゃなくてよかった」なんてそんなの、くだらないじゃないか。幼なじみだからこそ臨也はわたしを捨てないでいてくれるし、わたしの様子がおかしけりゃこうしてバイト先まで迎えに来てくれる。そんなの、きっとわたしだけだって自惚れてもいいよね?

くすっと笑って、わたしはぴょんと臨也の横に並びその腕に自らの腕を絡ませた。


『寒い』

「え、何そのツンデレ」

『寒いね、臨也』

「…マフラーあげないよ」

『いいよ、その代わり手握っててね』


臨也が幼なじみでよかった。幼なじみだからこそ、わたしは恋をしたのかもしれないしね。


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121117//残像にキスしたあの冷夜

◎ゆらさま
40万打記念企画に参加してくださりありがとうございます!
臨也との幼なじみリクに舞い上がるなか、ゆらさまの使った顔文字が可愛すぎて……!
わたしも使ってみます。
このたびはリクエスト本当にありがとうございましたU・x・U


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