\ よ ん じ ゅ う ま ん / | ナノ
だから愛を込めた名前を呼んで

そりゃ、愛嬌はあるんだろうよ。
誰にでもにこにこ笑って、つまんない話にだって相づち打って、愚痴も悩みも本音も泣き言も全部全部他人から聞くだけで自分はまったく言わないで。
頼りたくもなるよ、そんな奴。いざってときとか逃げたいときとかそいつのとこ言って話してスッキリして別れればいいんだもん。
おまけに顔もノリもいいから男からも女からも人気者。

わたしとは、正反対。
時々思う。わたしと和成って、なんで付き合ってるんだろって。わたしから告白したし、もしかしたら同情かもって最初は思ったんだけどわたしなんかに同情するなら他のもっと可愛い子に同情して付き合うわけだ。


…つまり何が言いたいかと言いますと、和成ってなんであんなにモテるの。


「あー高尾今日カチューシャしてるー」
「ほんとだ、似合うね」
「なんか妹にもらったらしいよ?」
「え、何それ可愛い」
「ねー」


ほら、そこの派手な女子のグループの皆さんもあなたのこと可愛いって。気に入られてるのね。あんなプルプルした唇で和成はいつも話しかけられてて、毎朝わたしにはできないくらいの努力してる女の子たちにアピールされて、どうしてわたしはまだ彼の彼女でいれるんだろう。


「高尾って彼女いるのかな」
「そーいやそういう話聞かないよね」
「いないでしょー」
「え、いるんじゃないの?なんか前男バス休みの時一緒に帰ってるの見たって子いたけど」
「やーんショックー」


…わかってる、これがくだらない嫉妬心だって。わたしの心は汚い。和成と2人きりのときは平気なのに、こうして周りに目を向けてみると自分が嫌いになるほど醜い心で満ちていく。わたしなんかよりあの子のほうが和成には似合うとか、わたしと付き合ってることが今はあまり知られてないけど本格的に広まりだしたら逆に和成が悪く言われるんじゃないかとか、それからわたしで大丈夫なら自分にも望みあるかもって期待して和成に近づかれたらどうしようとか。


『(…わたしってこんな独占欲強い女だったっけ……)』


ため息をついた。それはきっと何も知らずあっちで笑ってる和成へのいらだちや、結局こうしてひたすら悩むだけで終わる自分への嫌悪からくるものだろう。


▼▼▼


「なんか元気なくね?」


和成の部活が終わって「これから会える?」ってメールがきて、駅前の本屋を見てたわたしは和成の家に行くことにした。このスタイルは珍しいことでもなくて、週に1回はそうしてる。

そして場所は変わって和成の部屋。ベッドに寝転んで和成の中学の卒業アルバムを見るわたしに、彼はベッドを背もたれに座り月バスを読みながらさっきの言葉を言ってきた。


『そうかなぁ』
「そうだよ。なんつーか、今日1日魂抜けてたぞ、お前」
『まじですかぁ』
「なんかあった?」
『べつにぃー』
「やーん桃花ちゃんったら隠しごとー?和くんショックぅ」
『は?ってか何そのしゃべり方!ヤダ!』
「ははっ、ひでぇ」


和成の意味わかんないオネエ口調みたいなものにぞわわと鳥肌が立つ。なんだ、いきなり…きもいってかむしろ怖いわ。


「桃花、桃花」


和成がわたしの体をつんつんとつついてくるのを無視してまたアルバムのページをめくる。なんだか和成、他の人より写ってる枚数多くない?わたしが和成しか見てないから?いやでもふつーこういうのってもうちょっと少ないもんじゃ……にしてもいい笑顔してんなぁ、中学のころもさぞかしモテたことでしょうね。


「無視すんなよー」
『わ、やめてよ』
「そんなん見て楽しいわけ?」
『うん』
「…ふーん」


お尻をぽんぽん叩いてきた和成は、つまらなそうにそう呟いた。わたしは黙ってアルバムの中の少し幼い彼を見ていく。知らない和成を見てたら寂しい気持ちになる。


「そんな紙の中のオレを見てないで、目の前のオレ見たらどーよ?」


わたしの背中にまたがり、上からそんなことを言う彼。独特のからかうような低い声がわたしの耳を支配する。


『…目の前の和成を見たら、幸せになる』
「何?可愛いこと言うじゃん今日は」
『でも和成以外を見始めたら悲しくなる』
「は?オレ以外?え?浮気宣言?」
『…そういう意味じゃないもん』
「冗談に決まってんじゃん」
『……』
「桃花はオレに、どうして欲しいわけ?」
『…モテないでって言ったってそんなのムリだし、和成は和成だし、……そんなの思いつかないよ』
「んー…別にオレ、お前が心配するほどモテてるわけじゃねんだけど…」


和成は賢くて、相手が自分に少しでも好意を寄せてるとわかったら予防線を張る。それはもうさりげなく。その線に気づいて諦める女の子はたくさんいるけど、時々、そんなのものともしない子がいて。(まるで付き合う前のわたしのような、)


「ま、それでも心配って言うならオレがお前を不安にさせないくらいたっぷり愛せばいい話じゃん?」


…あ、そっか。

例えばわたしみたいに和成の張る予防線なんて越えちゃう子がいて、だけどその子に和成が夢中になっちゃわないようにわたしもたっぷり愛せばいい話なんだ。


わたしはひとつの解決論を見いだしてから、服に忍んできた和成の手をはたいた。


『どさくさにまぎれて何してるの』
「愛そうかと」
『行為じゃなくて態度で示してよね』
「はい」


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120927//だから愛を込めた名前を呼んで

◎光さま
40万打記念企画に参加してくださりありがとうございます!
「むっちゃ大好き」いただきましたー\(^o^)/!
しかもストーカーさまでしたか!うれしいです!
これからも当サイト並びにわたし唄もよろしくおねがいします…!←
このたびは本当にありがとうございました!


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