季節外れの花火
 

「ねえねえ、花火しよう!」


晴れ渡っていて空は青いが肌を刺すような寒さのとある一日、そんなことを言い始めたバカがいた。数年前…詳しく言えば俺がまだあの人の元で暮らしていたときのことだったか、その時にも同じようなことを言っていた気がする。あと…あの残酷かつ不毛な戦に参加していたときも、か。

あいつの考えはいつも突飛で、そりゃあもうじゃじゃ馬並みの操れなさだった。ほんと昔から変わらないのねあいつ。


「バカ言ってんじゃねーよ、花火っつーのは夏にやるものであって今やったら風邪引くから」

「えー?! 風邪なんて暖かくしてればこじらせないアル!」

「そうですよ。銀さん、やるの面倒だからって難癖つけるのやめましょうよ」

「うっせーなァ、お前は俺の母ちゃん気取りかコノヤロー」

「面倒なのは否定しないのね」

「…それにしても、冬に花火かあ…楽しそうですね。夏にやるのとはまた違ったものが見える気がします」

「さっすが新八くん! 分かってるねえ」


おい、なんで俺抜きで楽しそうに話しちゃってんの、なんで俺が分かってないみたいな風になってんの!


「きれいなものを見たいっていう欲求がないから」


心の声が駄々漏れだったらしく、なまえにじと目で睨まれた。返す言葉もございません。が、勘違いしてもらっちゃ困る。俺にだってそういう欲求はある。


「待て待て待て、なんか銀さんが分からず屋みたいなレッテル貼られてるみてーだから言っとくが、俺にだって感性くらいあるから。…例えば…言っていいのかなァ、なまえが泣いてよが「そういうことじゃないでしょ!!!」すいませんでした」


いやでも俺ほんとにそう思ってるから、嘘ついてないから! テメェの女がテメェの手で悦んでんの見たらそりゃ興奮するどころの話じゃねーだろ? そんときに流す涙なんかもうダイヤモンドよりも光り輝いててほんとキレイだから!
…なんか柄にもねェこと言ってる自分が気持ち悪すぎて泣ける。それに心なしか新八と神楽からの視線も冷めてて鋭利な刃物のような気がしてきた…あれ、前が霞んでよく見えないや。


「…花火売ってるお店なんてそうないと思うけど買ってこようか」


なまえがそう言えば神楽が「キャッホーイ!」と跳び跳ねた。それにあわせて定春も鳴いたんで「うっせーんだよ天然パーマネントォォォ」と下のババアに怒鳴られた。なまえと新八が直ぐ様謝っていた。…つーか、下から怒鳴って聞こえるってどんだけの声量で叫んだらそうなるんだよ…あ、快晴で空気が澄み渡ってるからか…さすが妖怪ババアだと思ったがそうじゃなくてちょっと安心した。




花火の買い出しは俺となまえですることになった。花火する場所も決めなきゃならねェし、バイクには一人しか乗せられないからな。

ということで只今買い出し中。正確に言えば、もう花火は買い終わって花火をする場所を決めるだけなのだが。
買った花火片手にあてもなくバイクを走らせているとなまえがガキみてェにはしゃいで「海! 海がいい!」と言うのでそっちへ向かった。




*****





「海だー!!」

「うわあ、きれいですね!」

「キャッホーイ!」


花火で遊ぶ場所のにもってこいな場所を見つけたので、そこに決めて万事屋に戻り飯を食ってからガキども二人を連れて再びやって来た。
なまえを含めたガキどもは海に着いた途端ギャーギャーと騒ぎ始めた。なまえに、お前はさっき来たばっかりだろうがと冷静に突っ込みを入れて走っていった3人の背中を見つめる。


「おい海に足浸けるんじゃねェぞ」

「海の水めっさ冷たいヨ!!」

「言った側からやり始めたよ! 手遅れだったァァァ!!」

「帰ったら暖まろうね」

「うん!! ワタシ日の光に弱いから日中は海に浸かれないけど夜は月明かりだから入れるヨ!! 嬉しいアル!!」

「神楽ちゃん…」

「…よおし! 私も入ってみよう! …うわ冷たい!」


神楽に倣って冬の冷たい海水に入っていったなまえの後ろ姿が昔と重なって見えた。思わず目を細めて、それから目を閉じるとあの頃の、まだ先生がいたときに海に遊びに行った時の光景が瞼の裏側に写し出される。


「銀ちゃん! 一緒に泳ごう」


そう言って俺に手を差し出す幼い日のなまえが眩しく感じた。


「…、さん、銀さん!」

「! …あー?」

「あー? じゃないですよ、花火やりますよ! 早くしないとなくなっちゃいます」


新八に呼ばれて飛んでいた意識を引き戻すと、神楽となまえが花火を両手に走り回っていた。お陰で新八は、本来ならばなまえがやるべき「花火に火をつけるポジション」についていた。新八が花火で遊ぶ暇もないくらいにはしゃいで、あいつらは相当楽しみだったんだろうな。
クッと喉で笑いを噛み殺してライターを握る新八の手からそれを引ったくり、自分で花火に火をつける。


「おら、お前もやれよ」


差し出すと新八は異形を見るような目で俺を見て「銀さんが僕に優しくすると気持ち悪いです…明日槍が、いや…隕石でも降ってくるんですかね」と言った。失礼なやつだなダメガネ、俺なんか神様が泣いちゃうくらい優しいから。
新八が気遣わしげに目線を寄越したが「線香花火だけやれりゃいいわ」と言って適当にあしらった。

程なくして新八も控えめながら二人に混ざって一緒に花火片手に走り回り始めた。
…なーんか、俺こいつらの保護者みたいじゃね? 俺が父親ならなまえは母親か…、なんて昔なら到底考えもしないようなことを今こうして考えているのだから、この十数年であいつへの想い、数年で新八と神楽への想いが強くなっていっていることを嫌でも自覚させられた。年とったもんだなァ俺も…年はとるもんじゃねェな、妙に感傷的になっちまう。




「銀時! 銀時も一緒に花火やろう」

「そうアルよ! 折角みんなで来たんだからやらないと損アル!」

「2人の言う通りですよ」


一瞬、あの時の光景が再び蘇って来た。先程も思い浮かべたあの暑い夏の日…手を差し伸べてくれたのはなまえだった。でも前とは違って、今は新八も神楽もいる。
いつ死ぬかなんて分からねェのに、今を生き抜いていて側にいられることに感謝しながら仕方ねェなと腰を上げてその輪の中に入って行った。



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