破れる
 

俺の彼女は所謂キャリアウーマンだ。大手企業に勤めていて、収入も多く万事屋の経済はこいつにかかっていると言っても過言ではない(情けないことにな)。よくガキどもに「銀ちゃんだらしないアル。なまえ逃したらもう貰い手なくなってしまうヨ」「自分の彼女に養ってもらうとかプライドの欠片もないんですか」と言われるが…うっせー! そんなこと俺が一番分かってんだよ!! 少しは大人の事情も考えやがれ!
なんて言えるはずもなかった。これじゃあただ逆ギレするだけの最低な大人だからね、ただのガキに成り下がるからね。まあ今更そんなこと気にしたところで神楽に「マダオがいくら頑張ってもマダオってことに変わりはないアル」とか言われそうだ。チクショーガキのくせに的を射てて何も言えねェ…お父さんそんな子どもに育てた覚えはありませんよ!!


そんなことは今はどうでもよくて…そうそうなまえのことだよ。あいつは着物じゃなくてスーツを着て出勤してる(同棲してるわけじゃないんだが、たまにうちに泊まってそのまま仕事に行くことがある)。スカートタイプだと周りのやつら(男女関係なく)になまえの足を見せることになるのでズボンタイプしか許可してないが、たまに、ごくたまーにスカートタイプのスーツを着ていくことがある。その時には必ず生足を晒さないようにとストッキングを履かせるのだが、それがなんとも…いやらしい。しかもそれを見せつけるように履くものだから尚更だ。

まさに今、俺の目の前でそれが起こっている。

ゆったりとソファに腰かけて片足を上げ、ストッキングに足を差し込む。そしてゆるゆると引き上げて、もう片方の足も同じようにそうする。


「銀ちゃん、見すぎ」


ガン見し過ぎたのかなまえに苦笑された。いやいやそう言われても俺の目の前で着替えるお前が悪い。


「目の前でテメェの女が着替えてんだ、見ないわけねェだろ」

「それもそうだけど威張らないの」


まあ咎められたところで見るのを止めるなんて選択肢は存在しないわけで、今も話しながらなまえがストッキングを身につける様をまじまじと見つめる。

なまえの白い足が真っ黒なそれに覆われていくのは何にも変えがたい…絶景である。
両足をストッキングに突っ込んだところで、その薄い布が裂けないように気を付けながら摘まんで少しずつ上に上げていく。手慣れたようにこなされていくそれは見ていて爽快だ。


「あ、」


が、運悪く爪が引っ掛かったのか、その薄い黒い布に一筋の線が走った。どうやら今日は失敗してしまったらしい。
「折角ここまで履いたのに…」とぶう垂れるなまえは可愛いが、あまりにもストッキングから見える白い足とのギャップがありすぎて反応に困る。もう一度最初からやり直しだと、いそいそと脱ぎはじめてもう一度こいつの白い生足が見えた途端、自分でも分かるくらいに動揺した。


「…なあに銀ちゃん、私が着替えるところ見て興奮し…っきゃあ」


なまえのからかいにも応じてやれず、本能に任せて体を動かす。
ストッキングにいまだに手をかけているなまえの肩をぐっと押さえつけてその手をつかむ。怯えるようななまえの目を見つめて安心させるように、出来るだけ怖がらせないように笑いかけてやると体から強ばりが消えた。でもすぐに流されそうになっている自分に気付いてすぐに抵抗してくる。ったく、分かってねェな、ドSに抵抗したらもっとひどいことされるって分からないのかねェ…まあ俺としては好都合なんだが。

なまえが見えないところでほくそえんで太股の内側に手を差し込んで撫で上げると可愛い喘ぎ声をあげて俺にしがみつく。クッソ可愛いなコノヤロー、俺のこと骨抜きにするつもりか。


「なんだ、抵抗してもやっぱり順位万端なんじゃねーか」

「っ、違うもん」

「もん、って…お前なあ、その年でもんっはねェぞ」

「誰がっ」

「あーはいはい、俺のせいですぅ〜…いや待てよ、元はと言えばお前が俺の前で着替えてっからだろーが。もう少し慎みを持ちなさい」

「…慎重な女じゃなきゃ嫌いになる?」

「…ンなこたァねェよ、お前ならいい。…って何恥ずかしいこと言わせてんだコラ。つーことで、そんなこと気にならないくらい愛してやるよ」


またも反抗しようとしたが、それよりも先に俺がこいつの足を撫でたせいで叶わなかった。ぎゅっと目と口を閉じて声を出すまいとしているようだが…まあそれも最初だけだろ。またまたドSが喜ぶようなことしてくれちゃって、よく地雷踏むのな。そんなんでよくここまでこれたもんだ、銀さんちょっとなまえちゃんのこと心配になってきちゃったよ。


「ァ、っんん…ふ」


時折押さえきれなかった喘ぎが鼻から抜ける。こいつの声は薬みたいに俺の体にじわじわと浸透していき、俺の方まで気持ちよくなってくるみたいだった。


「おいおい、声出したらガキどもに気付かれるかもしれねェぞ?」

「いじわる、っひゃあ」


ストッキングに爪を立てると当然のことながらそのにはぷつりと小さな穴が開く。そこに指を捩じ込んで更に引き裂くと、黒く薄い布に覆われていたなまえの肌が一部分だけ露になった。
ストッキングが千切れて肌が見えるたことに対して快感を覚えた俺は変態なのかもしれない。


「なまえ…」

「ん…ぎんちゃ、」

「なまえそろそろ仕事行かないと遅れるヨ」

「ぶべらァァァァァ!!」


二人の顔がくっつきそうなくらい近付き、もう少しで触れそうというときに邪魔が入った。神楽が時間を指差してそれを指摘したのだ。
…チッ、今からイイトコロだったってのに…しかも俺ぶっ飛ばされてるし。何なのほんとうちの子たち、反抗期なの? お父さんのことはとりあえず仲間はずれにしておきたい年頃なの?! 泣いちゃうよ!! これだから親父は禿げるんだよ! お前の父親を見てみろ、もう左側しか残ってねーだろーが! もっとお父さんを労ってあげなきゃダメ!!!

なまえがひーひー言いながらバタバタとストッキングの替えを探したりして支度をしているのをぼんやりと眺めながら考えていると朝ごはんを作り終えて運んでくる新八に「邪魔です」と蹴られた。新八のくせにナマ言ってんじゃねーよと蹴り返すと味噌汁を頭から被って叫び出した。ケッざまァみろ。


「ちょっと銀ちゃん! 今のはひどい! 神楽ちゃん新八くんのお手伝いしてあげて! 帰りに酢昆布買ってくるから」

「ヒャッホーイ!! どこぞのマダオと違ってなまえは太っ腹アルなァ! ワタシイイコだから手伝うヨ! 新八ィ早くご飯食べるアルヨ!!」

「はいはい…ってなまえさん?! 朝ごはんいらないんですか?!」

「ごめん遅刻しそうだから行くね! いつもお弁当作ってくれてありがとう!! 行ってきます!」

「「行ってらっしゃーい」」


ドタドタと玄関に走って行き出て行ったなまえの背中を見送って俺も手伝おうと思重い腰を上げると数秒前に出て行ったはずのなまえが戻って来た。


「おうどうした、忘れ物か?」

「うん!!」


先程神楽にがっつりと殴られた場所が痛むのでさすりながらなまえに近付くと腕を引かれて口元に柔らかい感触。その少し後にふわりとこいつのにおいが香ってキスされたということに気が付いた。仕掛けた本人はしたり顔で笑っているのに対し、俺は呆然と立ち尽くした。


「忘れ物ってこれだけだから! じゃあ今度こそ行ってきます!」

「…おー」


また慌ただしく出て行く背中を見送り、朝から襲いかかった俺に仕返しが来たのだと思った。



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