愛情の裏返し
 

*3Z生徒→卒業後設定




彼氏がいるのかと、聞かれることが多々ある。それは別に私がモテているとかそういうわけではなくて、友達が開く合コンの人数合わせのために参加させたいだけなのだが。とは言っても、彼氏がいようがいまいが関係なく引き摺られて参加する羽目になることが殆どで、正直私も参っていた。最初から乗り気じゃなかったし…なにより私には大事な大事な彼氏がいるのだ。

私の彼氏は年上の社会人で、高校の時の担任だ。もちろんその時は好きだったけど思いを伝えることはせず、卒業式の時に告白して付き合い始めた。玉砕覚悟で言ったのに受け入れられて呆けてしまったのを今でも鮮明に思い出せる。
そんな彼の名前は銀八と言って、なかなか独占欲が強い。ので、合コンに行ったとバレると(というか毎回必ずバレるのだけれど)執拗に責められる。その時の銀さんったらいつになく目が輝いていて私を楽しそうに罵ったりするのだけれど、楽しげに細められた目の奥には寂しげな色をひっそりと滲ませている。傷付けているのは自分なのに、心臓を深く抉られるような感覚に陥る。
見方を変えると、嫉妬しているということはそれだけ私を愛してくれているということだ(違ったら恥ずかしいけどそういう解釈していいよねきっと)。そう考えると、どんなにひどいことを言われても、されても許せるような気がする。まあ私が合コンに行くことは不本意ながら消えない事実だし。


ということで私は今銀さんに相談をしている。もちろん合コンについてだ。


「どうしたら良いんでしょうねえ」


ため息混じりにそう呟きながら小さなテープルに突っ伏すと、苦笑いしながらいちご牛乳を出してくれた銀さんと目が合う。こうしていれば普通に優しいだけど…この人ドSなんだよな。今回も私のこといたぶってくれなけりゃいいけど…。


「そりゃお前の断り方に問題があんだろ」

「そんなことないですぅー、ちゃんと彼氏いますって言ってるけど関係なく連れていかれるんですぅー」

「バッカお前ェ、その言い方に問題があるって言ってんの」

「…じゃあ今度銀さんが口利きしてよ」


私の声に耳を傾けながらいちご牛乳をあおりテレビを見ていた彼が私を見つめるのが分かる。わざと顔を上げずに拗ねたようにしていると、頭に重みがかかった。銀さんが頭を撫でているんだってことはすぐに分かる。その手に反抗するように頭を押し付けてみるともっと撫でてくれたので満足するまでそうしてもらった。


「俺が口利きしていいならするけど…その友達と疎遠になるかもよ」

「何する気だあんた」

「いやあ良いと思うよ? 合コンに誘われなくなるし変なムシ付くの防止になるし、万々歳じゃん」

「銀さんが言うと冗談に聞こえないから困る」

「いやいや冗談じゃないからね、俺結構必死だから、なまえのことに関しては必死だからね」


「俺がどんだけ心配してるか分かるか?」と耳元で囁かれれば言葉を返すことは出来ない。その声があまりのも悲壮に満ち溢れ、寂しそうだったからだ。この目は…ああそう、私が合コンに行ったと発覚するときの目と同じだ。
謝ったって仕方ないけど謝るしかなくて、結局この人をこんな風にしているのは私なんだな、と改めて思った。


「…ごめんなさい」

「なにが」

「心配かけたのと、寂しい思いさせたこと」

「そこに「合コンに行ったこと」も付け足しとけバカヤロー。んでもう行くな」


ぐっ、と息詰まったけど、合コンに行きたいわけじゃなので友達には悪いけれど頷いた。すると安心したように笑って優しく頭を撫でてくれるので友達のことは頭の隅へ押しやられてしまった(私も大概ひどいけど無理矢理合コンに連れていく友達もひどいからお互い様っていうことにしよう)。




と、安心しきっていたんだけれど…


「第6回、チキチキ銀魂大学文学部の合コンを始めたいと思いまーす! ドンドンパフパフ」

「「いえーい!!」」


結局また連れてこられてしまった。
盛り上がる周りの喧騒に、1人静かに溜め息を吐いた。

何でこんなことに…これじゃあまた銀さんに怒られちゃう…それどころか、今度はもう嫌われてしまうんじゃないか。
そう思うと全身から血の気が引いて、背中に冷や汗が流れた。絶対に嫌われたくない、嫌だ。こんなことならもっときつく言っておけばよかった…もし本当にそうなったらどうしよう、謝って済むどころの騒ぎじゃない。

一応場の雰囲気を壊さないように、情けない顔を見せないように下を向いていると私を強引に引っ張ってきた友達が覗き込んできて心配してくれた。あんまりこういうこと言いたくないけど、お前のせいだぞ。


「なまえ大丈夫? どっか具合悪い?」

「ん…あの、」

「あ、慣れてるし俺が介抱しようか?」


私が返事をする前に、相手方の男の人が介抱をかって出た。私が喋ってんだろーが。


「うん、そうしてもらいなよ! あんたも彼氏以外と接触する良い機会でしょ」

「え、ちょっと…」

「おっじゃあ決まりだな! 始まったばっかりだけど行くか! 送ってくよ」


そこからはトントン拍子で、またも私が返事をする前に話されて勝手に決められた。だからお前ら黙ってろよー余計なことしないでくれる。
男の人が私の腕を掴もうとその手を伸ばすと、別の腕がそれを阻んだ。なんだか見慣れた腕だ。
その腕を辿っていくと、そこには今私が会いたかった人の顔があって、ひどく安心した。


「俺の女に触らないでくれますぅー?」

「ひっ! す、すみませんんん!!」


かなりの力で掴んでいるのか、男の人の腕が鈍くミシミシと音をたてている。銀さんの威圧が強烈で、その人は私を掴もうとしていた腕を引っ込めたのでそれと同時に銀さんも彼の腕を離した。かなりビビっている…なんだか気の毒だな、ごめんなさい。

その様子を黙って見ていると銀さんに腕を引かれてその反動で立ち上がり、彼の胸に飛び込んでしまった。私が銀さんに抱き付いているような構図の出来上がりだ。恥ずかしがる私を満足そうに見つめてから、それを見せ付けるように更に引き寄せられる。


「幹事、誰? あとこいつ誘ったのも」

「あ、わ、私です」


私の友達がおずおずと手を上げて場所を知らせると、銀さんが「まあ誰でも変わらないんだけどさァ…これからこいつのこと合コンに誘うなよ、後で痛い目みるのはこいつだからな。下手したら他にも飛び火するかもしんねーから気を付けろよ」と脅したのでその場の全員が凍り付いた。そして同じ動きしかしない人形のように首をこくこくと振っていた。そんななかで私は彼に手を引かれてその場を後にした。
腕を引く彼の手が想像していたよりも優しくて、涙が出そうになった。




「大丈夫か」


合コン会場から少し離れた公園に連れていかれ、ブランコに座っていると近くの自販機で買ってきてくれたのかホットココアをくれた。それを受け取り頷くと「嘘つくんじゃねェ」と額を突かれた。


「…約束破ってごめんなさい…あと、助けてくれてありがとう」

「ああ」


目の前にしゃがんで私の顔を覗き込むように見上げる銀さんと目が合う。その目はやっぱり寂しそうに細められていたけれど、いつもとは違う穏やかさが見てとれた。まるで私が無事でよかったと言っているようで…ってこれじゃあ私、自分の良いように考えていることになるね…。


「多分あってるよ、お前の考えてること」


自然と下がっていた視線がその言葉によって上を向いた。彼は私をじっと見つめていて、私も負けじと見つめ返す。


「ほんとに、お前に何もなくてよかった…」


いつも覆い被さるようにして私を抱き締めてくれる彼が自分よりも低い位置にいて、子どもが親に抱き付くような感じだから不思議だった。いつもと位置が入れ替わるだけでこうも違うなんて、と場違いなことを考えた。


「本当にありがとう…銀さんがいなかったら私、どうすればいいか分からなかった…本当にありがとう…!」


溢れ出る感情を涙とともに吐き出すとそれらすべてを彼が受け止めてくれる。本当にこの人を好きになってよかったと、心から思う。
暫く抱きしめあった体勢のままでいたので、「そろそろ帰るか」と言って手を繋いで暗い道をゆっくりと歩いた。


「そういえば、どうしてあんなところにいたんですか? 近くでお仕事?」

「…まあそんなとこ。…いや、やっぱ本当のこと言うわ。実際俺もお前と同じようなことに巻き込まれてた」

「はー?」

「んで、気づかれないように逃げようとしたらお前が見えたってわけ。ぜーんぶ、店の外からだったけど見てたよ」


自分のことは棚に上げるつもりかこの男。
じとりと睨みつけると「怖くねェから」と苦笑いされた後に謝られた。私が謝られるような人間でもないんだけど。ええいそんなことはどうでもいい。


「そっか。でも本当にありがとう、助かりました」

「いーっつの…その、俺も悪かったな。お前が嫌々合コンに付き合わされてるのは知ってたけどどうしても許せなくてよ…」

「いいよ、これでおあいこね」

「そーな」


この人は普段はダラダラしていてちゃらんぽらんなマダオだけど、本当は周りをよく見ていて鋭く、他人に何を考えているかを悟らせないような大人の中の大人って感じの人だ。だけど、それは臆病だからであって、皮を履いでみると子どものようにワガママで、ガラスみたいに繊細だ。
今回の件は、その子どもみたいな部分が露呈した。
これが所謂ギャップ萌えというやつか…って違う違う。私はこうして、たまにでいいから自分の本音を言ってくれる銀さんが好きだ。本当はもっともっと甘えて欲しいんだけど、なんせ8歳くらい離れているので年上の自分が年下の女に甘えるのが情けなく恥ずかしいことだとでも考えているんだろうね。それとちょっぴり男のプライドが邪魔してる。でも私は、彼も同じ人間なんだからそれは関係ないと思う。


「…頼りないかもしれないですけど、私だって伊達にあなたの恋人やってませんからたまには頼ってください」


「今言うことかそれ」と呆れながら笑う彼は、先程…というよりは最近、強張っていたらしい表情から硬さが抜けたような気がして嬉しくなった。


「大好きです」


愛の言葉を囁くのが苦手な彼は、照れたように笑って私の手をそっと握り返してくれた。



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