恋人らしい
銀時と二人でかぶき町を歩いていたときのことだ。二人ならんで歩いていると、必ずと言って良いほど冷やかされるのだ。例えば、八百屋のおじさん、タバコ屋のおばあちゃん、買い物帰りの主婦さん、挙げ句、そんな大人たちの対応を見ていた子どもたちにまで言われる始末だ。
まあ銀時の顔が広いことと、私たちが公認カップルだということが言えるので私は嬉しいけれど、実際のところ銀時はそう思っているのだろうか。
確かに、そういう件はあったしお互いが好き同士で言葉なんて交わす必要もないくらい知り合っている仲ではあった。でも、彼にその気がないのであれば私は今まで1人受かれて勘違いしていたことになる。とっても悲しく虚しいことだ。でも今更それを確かめる気にはなれないし…どうしたらいいんだろうか。
冷やかされても否定しないあたり、私がそれについて心配する必要はないのだろうが、長年一緒にいる私でも…小太郎でも晋助でも、辰馬でも銀時の考えていることが分からないことがあるくらいなのだから。
そんな切ない思いを抱えながら今日も彼のとなりを歩いていると、ふいに一組のカップルが目に留まった。そしてこう思った。
「…私たちって、あまり恋人らしいことしないよね」
それはつまり、恋人ではないということなのだろうか。
心の中で呟いたはずなのに口に出ていたらしく、銀時に見られた。
「急に何言ってんだお前」
「ご、ごめん」
重い女だと思われたくなくて、今日も本音に蓋をする。そりゃもう貞子が出てこれないように井戸にしっかり蓋をする感じで。瞬間接着剤も使う勢いだ。
でもそれからの道中に会話はなく、無言で万事屋に戻った。言葉を貰えないだけで不安になる自分に嫌気が差した。
「お前が何を不安に思ってるかなんて分からねェけど…俺はそこまで浮わついたやつじゃねェぞ」
ソファに寝転がりながらジャンプを読む彼が唐突に呟いたと思ったらさっきの話らしい。終わった話を持ち出すなんて珍しいこともあるんだ、なんてことを考えながら彼を見つめた。
「…分かってるよ」
「いやそうじゃなくて」
ポリポリと頭の後ろを掻いて目をそらす彼は落ち着きがない、というか余裕がないように見えた。
「…俺はあまり口数が多い方じゃねェから、言葉が足りてなくてお前のこと不安にさせることも多々あるだろうが…俺の恋人はお前だから」
「もう言わないからなっ!!」と再びジャンプを読み始めた彼を呆然と見て、気が付くと顔が火照っていた。そして、彼の耳が赤くなっていることにも。
不安になるたびに、素直じゃない彼が慣れないなりに言ってくれる言葉とその反応があれば、愛してるとか大好きとか愛の言葉を貰えなくても、手を繋いで貰えなくても、それだけで満たされるのだからいいかな、なんてことを思った。
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