君に夢中


バレーは昔から好きだった。でもプレイしたことはない。せいぜい体育の時間にやったくらいだ。知識も全然ないけど、何故かは分からないけれど好き。

高校に入学して、勧誘される前にこっそり何気なくのぞいた体育館で、私は二重に恋に落ちた。
黒くサラサラな髪を靡かせた王子様のような人が、ただひたすらにサーブ練習をしていた。目はちょっと鋭くて近寄りがたい雰囲気だけど、それもまたいい。
その人から放たれる鋭いサーブは、とても綺麗だった。こんなに綺麗にバレーをできるのか、できる人がいるのかと目を疑った。
私はその人と、彼のプレーに釘付けになった。

しばらくするとオレンジ色の髪の毛の子がバタバタとやって来たので、マネージャー志望だと誤解される前に退散した。でも、私の目蓋の裏には先程の彼が焼き付いて離れなかった。
…これは逆にマネ志望だと思われたほうが好都合なのではないだろうか。というか、マネになろう。
私はそう決心して、明日から始まる新入生に向けた部活動勧誘で勧誘される前に自分から名乗り出ようと決めた。



翌日、私は昨日の自分の決心通り、バレー部マネージャーの美人な先輩に入部届を出した。彼女は驚いていたけれど、嬉しそうによろしくと言ってくれた。


でも、衝撃的なことがその日の放課後に分かった。なんと、昨日の王子様とオレンジ君が喧嘩をして部長を怒らせてしまったそうだ。それに加えて、王子様は今週の土曜日にやる3対3の練習試合に勝てなければ1年間公式試合に出られないらしい(ちなみに彼は天才的なセッターらしい)。
入部したことを後悔しそうになったけれど、王子様が入部取り消しになるわけではないし、もし負けたとしても練習中は彼の綺麗なバレーを見られるのだから大丈夫だ。それに、なんとなくだけど、負けない気がした。

その日は突然部活を始めるのも難しいだろうということで、体験入部ということでマネの仕事を軽く教えてもらって少し手伝わせてもらって終わった。王子様とオレンジ君は部活に参加できないのでいなかったため残念に思ったけれど、仕方ない。土曜日までの我慢だ。



ここ数日、王子様もとい影山飛雄くんを見ていて分かったことがいくつかある。
1つ、単細胞。割とすぐに怒っているけれど、それは多分日向くんが相手だと顕著だ。すぐに声を荒げるし、口も悪い。それから月島くんとは馬が合わないのか、終始難しい顔をしている。
2つ、自信家。これはバレーが上手くて好きだということが原因にあると思われる。
3つ、天然、というか少し外れている。これは彼を自信家と評価することにも繋がることだと思うが、純粋なので思ったことをそのまま口にしたりするのだ。特に深い意味はなく、本当にありのまま、思ったことを口にする。だから生意気だとか言われてしまうのだろうけれど、彼自身はそんなつもりは多分まったくないはずである。
…こんなものだろうか。でも私の目にフィルターがかかっているのか、まったく彼のことをいやになったりしなかった。むしろ人間味があってよかったと安心した。



そして来る土曜日。今日はとうとう3対3の練習試合の日だ。2人とも目がギラついていて、入部して自分の実力を認めさせようと思っているのだろう。その野心が純粋にすごいと思った。

色々と問題はあるけれど、大きく引き離されることもなく点を稼いでいるので大丈夫そうだ。
やはり影山くんのトスは綺麗で、彼がボールに触れる瞬間は彼に見惚れた。あまりに露骨すぎたのか、菅原先輩や清水先輩に「見過ぎ」と指摘された。

彼らの対戦を見ていると影山くんの意外な過去が垣間見えた。いや意外でもないのか。天才すぎて周りとスキルの差があるが故の仲間たちとの意識の違い、亀裂が生じるのはある意味起こり得ることだ。影山くんなりに思うところもあるのか、やはり中学最後の試合でそれなりにトラウマができてしまったらしい。でも、日向くんが力強い言葉で影山くんを救い、とんでも技まで見ることができた。影山くんがすごいのは勿論だけれど、それに合わせられる日向くんもすごい。

結局、影山くんと日向くんがあの速攻で点を取りまくって無事入部することができた。これで影山くんのプレイを近くで見ることができる。

そして練習試合が終わった段階でバレー部顧問の武田先生が入って来て火曜日に急遽練習試合が入ったことを告げた。相手はなんと県内ベスト4の青葉城西。しかもそこは影山くんのいた北川第一の選手が多く進学するところらしい。そんなところと練習試合を組みたなんて、武田先生すごい。
それまでに足りない技術がどうにかなるわけじゃないけど、少しでも実力の差を縮めるためにみんなは練習をするのだ。さて、明日からが楽しみだ。



翌日。練習なのだから当然だが、影山くんはみんなと一緒に普段やることが少ないレシーブやアタックをしている。勿論トスをすることがほとんどだけれど、セッターだからといってトスさえできればいいというわけではない。
…にしても、とても綺麗だ。そして、新鮮。影山くんがアタックをしたりレシーブをしたりするたびに変な声が出そうになる。いや正直に言おう、抑え切れていない時もある。また清水先輩に笑われてしまう。顔が赤くなるのを感じるけど、声を抑えられない代わりに破顔しないようにと口をムズムズとさせているとさらに笑われてしまった。だって、仕方がない。あんなに無駄のない美しいプレイを見せられたら、そりゃこうなる。アタックを打つモーション、飛ぶ直前に後ろに伸ばされた腕、着地するまでの動き、そして最後に髪の毛が靡く。すべてが綺麗だ。影山くんの周りがキラキラと輝いているようにすら感じる。


「なまえちゃんはほんとに影山が好きなんだね」


悪戯っぽく笑う清水先輩にきょとんとしてしまう。そして清水先輩もあれ、違った? というように目を丸くした。


「影山くんのプレイは、一切の無駄がなくて、芸術のように綺麗なんです」


そういうと、清水先輩は少し考えた後、なるほどねと言うように頷いて生暖かい目を向けてきた。まるで、まだ気付いていないのね、というように。そして、顔の前で小さく手招きしたかと思うと、私の後方を指差した。誘われるようにそちらへ目を向けると、影山くんが何とも言えないような顔でこちらを見て固まっている。心なしか顔も赤い。


「さっきの、聞こえてたみたい」


清水先輩がこっそり教えてくれたけれど、私は恥ずかしくて清水先輩も影山くんも見ることができなかった。

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