5.magic
そのまま物陰まで連れて行かれる。

「ここなら人目につかないだろう」

 物陰。人目につかない。せせせ先生、氷室先生、何を考えているんですか!? 私の頭の中は良からぬ、もとい都合の良い妄想でパニック状態。

 先生はその長い脚を折り、片膝をついて座る格好になった。

「小波、もう少し近くに寄りなさい」

 先生、先生! その上目遣いはヤバイです! 騎士に跪かれるお姫さまみたいな気分になってしまいます。

 そして先生は自分の胸ポケットから、折りたたんであった白いスカーフを取り出し……って、えっ、スカーフ?
 ピンで胸元に留めてあったらしい白百合のコサージュも取り外し、私の腰を引き寄せ手を当てた。

 ドレス越しに先生の手の体温と指の動きが伝わり、腰全体にゾクっとした快感が伝わる。思わず身をよじらせる私に、

「すまない、すぐ終わるからしばらくじっとしていてくれ。動くと痛いだろう」

 そう優しい声で囁き、私のドレスのウエストの部分を軽くつまみ、そこにスカーフをコサージュで留めた。

「……これで、目立たないだろう」

 つまんで留めた部分が、もとからあったような自然なシャーリングになっている。染みの部分はスカーフとコサージュで隠れて、全然見えない。ひらひら揺れるスカーフの部分がリボンに見えて、百合のコサージュもドレスの清楚さを引き立て、最初よりずっと素敵になっている。シャーリングでウエストもシェイプさせて、何だかスタイルもよく見えるような気がする。

「すごい……! 氷室先生、ありがとうございます」

 バレリーナのように片足でくるりと回ってみせる。ズボンを手で払いながら立ち上がった氷室先生は満足気な表情でその様子を見ていた。

「氷室先生は、シンデレラの魔法使いみたいですね」

「君は時々、興味深い表現をする。しかしその例えだと君はシンデレラということになる」

「でも、先生の魔法は12時ではとけませんね」

「君は私の話を聞いているのか? 無論、12時になったらとけるということは有り得ないが、パーティーは10時までだ。君も12時までには帰宅して着替えるように」

「……先生の教科書にはロマンティックの文字はないんですね」

「それを言うなら辞書だ、小波」

「せんせぇ……」
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