4.himuro
 トイレに行き、濡らしたハンカチで染みを拭うけれど、色が濃いせいか若干薄くなっただけであまり効果はなかった。

「どうしよう……」

 もう、帰ろうかな。このまま会場にいても目立つだけだし、さっきの男の子にも心配かけちゃうし。
 トイレを後にし会場も通り過ぎ、廊下をとぼとぼ歩く。なんだかむなしいクリスマス。結局氷室先生にも会えなかったし。

「……小波、待ちなさい」

 後ろから低音ボイスに名前を呼ばれ振り向くと、

「えっ、氷室先生!?」

「何をそんなに驚いている」

 だって、一瞬氷室先生だって分からなかった。いつも無地のダークカラーのスーツの先生が、黒地にストライプの入ったフォーマルスーツ。髪の毛も、ワックスで後ろに軽く撫で付けてあって……つまり予想よりずっと、カッコよかった。

 でも先生はどうして、後ろ姿だけで私だって分かったんだろう。

「君があわててトイレに駆け込むのが見えたから、悪いとは思ったのだが近くで待たせてもらった。様子が気になったものだから」

「氷室先生……」

 いつもは厳しいけれど、ちゃんと一人一人を見ていてくれる氷室先生。こんなに生徒思いの先生ってなかなかいないと思う。その優しさに気が緩んで、今頃せつなさで目が潤んできた。

「どうした。……ん? 君、そのドレスの染みはどうしたんだ」

「さっき人にぶつかっちゃって。この服じゃ参加できないから、もう帰ろうと思っていたところなんです」

「君には些か集中力に欠けるところがある。しかしこの場合は不可抗力なので致し方あるまい。……ふむ」

ドレスの染みを見つめ思案気な表情になったあと、先生は私の手を引いた。

「ちょっと来なさい」

「えっ、えっ?」
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