7.hollynight
 先生が連れてきたのは、中庭に面したテラスだった。パーティー会場の喧騒も窓の外までは届かず、とても静か。

「小波、見てみなさい」

「うわぁ……!」

 噴水がある中庭には大きなもみの木が植えてあって、色とりどりの電飾でイルミネーションが施されている。赤、緑、次は金色。順番にチカチカきらめく、人気のない場所で見るイルミネーションはとても幻想的で、賑やかなパーティー会場よりずっと、聖なる夜という言葉がよく似合うように思えた。

「私は教員として毎年ここに来ているから、この場所を見つけることができたのだが、この通り、生徒たちにはあまり知られていないようだ」

「どうして、私をここに?」

「せっかくこれだけの立派なツリーがあるのに、誰も見ていないというのは寂しいだろう。……それに、今日君はずっと浮かない顔をしていた。あのまま会場に戻るよりは、君の気が晴れるのではないかと思ったものだから」

 あの人数の中で、私のことまで気を配っていてくれたんだ。私は氷室先生を見つけることすらできなかったのに。

「せんせぇ……」

「やっと、普段の君らしくなったな。ここは気に入ったか?」

「はい。街のイルミネーションやツリーも素敵だけど、人ごみが凄くて見に行く気にはならなかったから」

「確かにあれでは、イルミネーションを見に行っているのか、人を見に行っているのか分からない状態だ」

「でも、静かな場所だと、天使が降ってきそうなくらい神秘的で……すごく綺麗です」

 胸がいっぱいになってそう言うと、氷室先生は眼鏡の奥の瞳を静かになごませて、頷いた。ツリーが瞬くたびに、先生の横顔に光が反射して、思わず見とれてしまう。……なんでだろう。胸の鼓動が止まらない。周りの音も聞こえない、どうして? さっき先生に掴まれた手首も、触れられた腰も、熱い。いつの間にか私は、ツリーではなく、先生の瞳に映った光を見ていた。

 氷室先生が、先生じゃなくて、一人の男の人に見える。教室じゃないから? いつものスーツじゃないから?

 風になびく髪にも、大きな手にも繊細な指にも、低くて、でもよく聞くと優しいその声にも、すべてにどきどきする。

 ツリーを見ていた氷室先生が振り向く。その瞳に急に自分が映って驚いた。……って、私、こんな顔で氷室先生を見ていたんだ。あからさまにぼうっと見とれているような……。こんなんじゃ、気付かれちゃうよ。だめだよ。氷室先生は、先生なんだから。

*<<>>
TOP
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -