8.present
「……小波? どうした」

「あっ、何でもありません!」

あわてて姿勢を正す。

「よろしい。では、プレゼントを出しなさい」

「えっ?」

「プレゼント交換用のものだ。用意して来たのだろう? プレゼント交換なら二人でも問題ない」

「は、はい」

 ハンドバックの中から、ラッピングされた箱を取り出す。昨日ドレスを買いに行った時に、雑貨店で購入したものだ。でもまさか、氷室先生と交換することになると思わなかった。気に入ってもらえるかな。

「では、私からはこれだ」

 氷室先生が差し出した包みは、やけに薄くて平べったい。この大きさと厚みって、本? ……いや、もしかして。

「氷室印基礎解析講座だ。君なら有意義に使ってくれるだろう。冬休み中に一通り読んでおくように」

「はい、頑張ります……」

 眼鏡がキラリと光った気がした。先生の表情がいつになく生き生きしている。やっぱり、そういうオチなんだ。

「君のこの包みは……。開けても良いだろうか」

 私が選んだものは、ガラスの一輪挿し。一輪挿しなら、普段お花を飾らない人でも気軽に使えるかなって思ったんだ。氷室先生は、どうなのかな。

「ふむ、実に無駄のない洗練されたデザインだ。私の趣味嗜好とも完全に合致する」

「そうですか。気に入ってもらえて良かったです」

「ああ、私の部屋に置いても遜色ない。さっそく花を生けて飾らせてもらう」

 シャープなデザインのその一輪挿しは、先生が持つとすごくお洒落なインテリアに見える。先生の部屋はどんな感じなんだろう。塵ひとつなく片付けられていることだけは、確実。

「む、もうこんな時間か。そろそろパーティーもお開きになってしまう。会場に戻ろう」

「はい」

 名残惜しいけれど、今年のクリスマスもそろそろお終い。途中までは寂しい思い出しかなかったのに、氷室先生は魔法のようにその思い出を塗り替えてくれた。

「そうだ、忘れていた……小波」

 先生は途中で歩を緩め、少し眉間に皺を寄せて目を逸らし、咳払いしてから、こう言った。

「メリークリスマス。シンデレラかどうかは分からないが……純白のドレスを着た今日の君は、見違えるようだった」

 その言葉が一番のクリスマスプレゼントになったことは、この聖なる夜に隠された、私だけの秘密。


〜Merry Christmas〜
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