26:つれていく

「山を登りましょう」

 ビビさんが意を決したようにそう言った。
 「ワポルの強さに捩じ伏せられても医療の研究はこの国のために進めてきた」と話す医者たちにドルトンさんが託され、その治療を家の外で待っていた時のことだ。

「じっとなんかしてられないわ! さっきの雪崩のことだってあるし……ワポルが後を追ったことも……Dr.くれはが城へ戻ったかどうかもわからない……!」

 焦るように話すビビさんになにか言葉を返そうとしたけれど、何を言えばいいのかわかりあぐねて口を閉ざした。
 ビビさんの気持ちは痛いほどわかる。わたしは3人とは船から見送った以来だし、先程の雪崩のことを考えると心配で仕方がない。
 けれど、山に登るにはわたしはやはり足手纏いにしかならないし、何より身体を張ってわたしを助けてくれたドルトンさんの安否を知らずにここを離れることなんてできない。
 それに、ビビさん自身だって……こうは言っているけれど、様々な問題を抱えて精神的余裕はほとんどないはずだ。とてもじゃないけれど、山を登れるとは思えなかった。

「なによりナミさんはすごい高熱が……」
「その上ドルトンも心配でアラバスタも心配か……?」

 ふと、ビビさんの話を俯いたまま黙って聞いていたウソップさんが口を開いた。普段と違うその雰囲気に彼女はびくと肩を揺らした。

「ビビ、落ちつけよ。お前は何もかも背負いすぎだ!」
「!」
「ナミにはルフィとサンジがついてる! 何とかやってるさ! あいつらなら大丈夫! おれはあいつらを信じてる!」
「……!」

 ウソップさんの言葉を受けてビビさんは目を見開いたけれど、すぐに自身を落ち着かせるように息をひとつ吐いてみせた。

「……ありがとう、ウソップさん……私……」
「おめェは山登るのが恐ェだけだろ」
「だ……だってなおめェ、雪男だの熊うさぎだのいるらしいんだぜ!?」
「始めからそう言えよ」
「大丈夫!! あいつらなら何とかするさ!! 恐ェモンは恐ェんだ文句あんのかっ!!」

 冷静なゾロさんにおでこを突かれながら先程までとは打って変わっていつもの調子にすっかり戻ったウソップさんがなんだか可笑しくて、わたしはビビさんと顔を合わせて小さく笑った。
 今回はウソップさんが山登りを避けたいための嘘だったけれど、ルフィさんやサンジさんを信じているという言葉はきっと本心なのだと思う。そんなふうに手放しに信頼できる仲間がいるのって、なんだか羨ましいな、なんて思った。

 するとその時、ドンと勢いよく付近の扉が開かれ、周囲の村人たちも何事かとざわつき始めた。
 慌ててそちらに目をやれば、開いたままの玄関先で雪の上に膝をつくドルトンさんの姿があった。

「ドルトンさん……!」

 無事だったのかと胸を撫で下ろしたけれど、なんだか空気が異様だ。

「ドルトンさん! 無茶だ!」
「……そこをどけ! 今戦わずにいつ戦う!! 国の崩壊という悲劇の中にやっと得た好機じゃないか……! 今はい上がれなければ永遠にこの国は腐ってしまうぞ!!」
「……だがあんたもそんな状態だし、おれ達にゃどうすることも……!」
「私が決着ケリをつけてみせる! 刺し違えようとも……どんな卑劣な手をつかおうとも……!!」

 その悲痛な叫びに、きゅっと胸が痛くなる。
 国を思い仇を討とうとするその姿は、なんだか今の自分に重なって見えた。
 なんとしても仇を討ちたい。何をしても、あの男をこの手で殺したい。ドルトンさんも、同じなんだ。

「ドル、──!」

 彼に手を貸すため声をかけようとした時、城の立つ山へ向けて重い身体を動かすドルトンさんの目の前に、ウソップさんが背を向けてしゃがんだのだ。

「乗れ! おれが連れて行ってやる! 城へ!」
「ウソップさん……!」

 ついさっき、山なんて恐くて登れないと話していたのに。

「──しかし……ウソップ君、気持ちはありがたいのだが……」

 そう断りを入れようとしたドルトンさんの言葉を遮って、ウソップさんは「うるせェ」と一蹴する。

「いいから乗れ! 必ず連れて行く!!」

 頑として譲らないウソップさんの背中から伝わる気迫に言葉が出なくて、ごくりと唾を呑み込んだ。

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