24:まるごし
「ん……」
重たい身体を起こして瞼を押し上げれば、その眩しさに目が眩んだ。
一体どうしていたんだっけ。辺り一面の白。雪。そうだ、わたしは今、ナミさんの治療をしてもらうために冬島に、雪の降る島に訪れていて……。
「はっ! ドルトンさん!」
混濁した意識がはっきりしてきたことで先程まで起こっていたことを思い出した。ドルトンさんに投げ飛ばされた後、どうやら落下の際に一時的に気を失ってしまっていたらしい。
先刻まで響いていた轟音は鳴りを潜めていて、雪崩が落ち着いたらしいことはわかった。わたしはドルトンさんのおかげでこのとおり無事に済んだようだけれど、そのドルトンさんがどうなってしまったかが定かではない。
雪に隠される瞬間を見た。ということは、やはり雪崩に巻き込まれてしまったのだろうか。わたしのせいで。
「さ、探さないと……、っ!」
立ち上がろうと体勢を整えた瞬間、何か硬くて冷たいものが後頭部に押し当てられた。思わず背筋が凍る。
ああ、なんてことだろう。せっかくドルトンさんが助けてくれたというのに──。
「娘、こんなところにいたんだな……! さっさと立て!」
「っ……」
突き付けられたそれは予想通りワポルの家来の持つ銃口で、現状対抗する力を持たないわたしは言われた通りに従うしか術がなかった。
大人しく立ち上がったわたしの両腕を家来の人は再びキツく拘束した。そっちの都合で投げ出されて命の危機にまで晒されたというのに、本当に勝手な人たちだ。
しかし今案じるべきは、わたしよりも何よりも。
「あの、ど、ドルトンさんが……っ! いるんです、雪の下に!」
「んん……? そうか、ドルトンがこの下に! 殺す手間が省けたなァ、ハハハハハ!!」
「なっ……!?」
思わず耳を疑った。先程の会話を聞いてこの人達はドルトンさんの元部下らしいと知ったものだから、今はワポルの家来だとしてもどうにか助け出してくれるかと思ったのに。
村の人たちがドルトンさんを掘り起こそうとするも、やはり立ちはだかるのは彼らだ。
「下がれ下がれ、ドルトンはもう死んだ!」
「ドルトンさんがあれくらいで死ぬもんか! お前達元部下だろう、何とも思わないのか!!」
「おれ達は国王ワポルの家来だ! ワポル様の敵に回れば命はない! 文句がある奴は遠慮なくかかってくるがいい! ドルトン抜きじゃそんな勇気もないか! ハハハハ!!」
「っ──!」
どうしようもないくらい頭に血が上った。
絶対にこの人たちの思い通りにさせてはいけない。そう思うのに、抵抗しようとする腕は瞬時に押さえつけられてびくともしない。自分の非力さを呪った。
「大人しくしろ! 後でドルトンの遺体くらいは見せてやる」
「そんな、……っ?!」
するとふと、前方からガンと何かを強くぶつけたような音がした。何があったのかと、家来達は皆慌ててそちらに視線をやる。わたしも人と人の隙間からそれを覗き見てみれば、なんと家来の人から剥ぎ取ったコートを嬉しそうに着込むゾロさんがそこにいたのだ。
「ぞ……?! ゾロさん?!」
「うっはっはっは! あったけェっ!!」
「お前…………!」
泳ぎに行ったはずのゾロさんがなぜこの場所にいるのかとかどうして突然コートを剥ぎ取っているのかとか、いろんなことがひどく不思議ではあるけれど、それ以上に逆上する家来達に不安を覚えた。
遠巻きなものだからはっきりとは見えなかったけれど、ゾロさんは今おそらく丸腰だ。剣や銃などの武器を持ったこの大人数を相手に、剣士であるゾロさんが素手で闘うなんて無茶にも程がある。
「奴を殺せ!!」
わっと勢いよく全員が一度に襲いかかっていくのを見て、わたしは怖くて思わずぎゅっと目を瞑るのだった。