20:しんとうめっきゃく
「おし、治った!」
意気揚々とした声が聞こえ甲板に顔を覗かせれば、ゾロさんが寒さに震えるカルーに何やら足を見せているところだった。
皆が村へ行く中で船に残ることを選択したわたしに、ゾロさんも共に船番をすることを買って出たのだ。
わたしがいるから船のことは心配しないでいいと伝えたのだけれど、何かあった時に困るだろ、なんて言ってくれて。たしかに、それはそうである。もし万が一にも船が襲われたりしたら……わたしにも弓矢はあるけれど、相手や人数によっては敵う気がしない。だからゾロさんがいてくれるのはだいぶ心強いことだ。
そうして、船番をしつつ各々の時間を過ごしていたのだけど。
「足がどうかしたんですか?」
「ん? あァ、さっきの島で半分くらいイッちまったから縫ったんだ」
「縫っ……」
ほらよ、と見せてくれた足には、痛々しい切り傷の上にジグザグと、たしかに真新しい縫い目があった。
「えっ……、これ、自分で縫われたんですか?」
「おォ」
「痛くないんですか……?!」
「別にこれくらい……大して痛かねェし、そもそも自分で刀刺して作った傷だ。細ェ針くらい造作もねェよ」
「?? 自分で刀で……? ……??」
理解力の追いつかないことばかりで首を傾げる。先の島でわたしやサンジさんが優雅にお茶しているあいだ皆に何があったのか、大まかには聞いたけれど。自分で自分に刀を刺すだなんて、一体ゾロさんはどんな状況下にいたのだろうか。
「ま、ともあれこれでやっとまともな特訓ができそうだ。加減した筋トレはもうあきあきしてたトコだ」
傷を縫ったところで治ったわけではないのだからまだ安静にした方がいいと思うけれど、そんな野暮なことを言うより早くに彼は着ていた上着を全て脱ぎ、隣のカルーにばさりと被せた。これまた痛々しい大きな縫い痕が横断する身体が露わになり、思わず目を背けた。
「ただ船番ってのも退屈だし……心頭滅却寒中水泳でもやろうかね」
「え……?! この寒いのにですか?!」
「寒くなきゃ寒中水泳にならねェだろ。お前バカか?」
「バ……」
「すぐ戻るからよ。しばらく鳥と暖でも取ってろ」
「えっ、あの」
わたしの返事を聞かないまま、ゾロさんはふうと大きく息を吐いて、今にも凍りそうな海の中へ飛び込んでいった。こんなに雪が吹き荒れているっていうのに、まったくすごい人だ。
「はあ……それじゃ、ゾロさんの言うとおりわたし達は中で温まってようか、カルー」
「クエ……」
船室に戻ろうとカルーに声をかけたけれど、彼はガチガチと身体を震わせながらずっと海の方ばかり気にしていた。ゾロさんの行方が気になるのだろう。すごく寒そうだけれど、このまま外にいたいのであればいさせてあげようと、満足したら中に入っておいでと伝えて1人で室内へ入ることにした。
***
「ん……?」
ふと、読んでいた本から顔を上げれば、思いのほか時間が経過していることに気がついた。
そういえばカルーがまだ中へ入ってこない。ゾロさんが水泳から戻ってきたのだろうか。
拝借したそれをナミさんの本棚へ戻し、コートを着て甲板へと向かう。
しかし、そのどこにも彼らの姿は見当たらない。
「あれ……?! カルー、ゾロさん?!」
返事は聞こえない。ゾロさんはまだ泳ぎに行っているのかもしれないけれど、カルーは一体どこへ行ったのだろう。もしや、ビビさんを追って村の方へ行ったのだろうか……?
そんなふうに考えていれば、ふと海岸の方から誰かの声が聞こえた。ゾロさんが島へ上がっていたのか、それとも皆が帰ってきたのかもしれない。
わたしはその姿を確認しようと、慌ててそちらへ駆け寄った──。