11:くろいかみの
「おいっ何でだ!? 何でもう船出してんだ!? 待ってくれよ、もう一晩くらい泊まってこうぜ! 楽しい町だし女の子はかわいいしよォ!!」
「そうだぞ! こんないい思い今度はいつできるかわかんねェぞ!? ゆったりいこうぜ、おれ達は海賊だろ!? まだ朝にもなってねェしよ! 戻ろうぜ、おい聞いてんのか!」
船が島を離れる様子を見て激昂するのはサンジさんとウソップさんだ。
たしかに歓迎して宴を開いてくれたことだけを考えれば非常にいい町ではあったけれど、結局それは嘘だったわけだから出航は仕方がないことだろう。もっとも、ウェンズデーさんも一緒に船に乗っているあたり、他にも理由があるのかもしれないけれど。
そんな事情を露程も知らない2人がいつまでもぎゃあぎゃあと騒ぐのを見かねたゾロさんが「誰かあいつらに説明を……」と眉を顰めるや否や、つかつかと歩いていったナミさんが大きく拳を振り上げた。
「うん、してきた」
静かになって横たわる2人から湯気が立ち昇る。ナミさんは強い女性だ。
それにしても、こんなにも出航が早いなんて予想していなかったのはわたしも同じだ。急いで島を出るべきだったのはわかるけれど、わたしは一味の皆にこの島が危ないことを伝えたらそのままそこでお別れするつもりだったのに。結局勢いに流されるまま、こんなところまで来てしまった。
「あの、わたし……」
「ん?」
「
「あぁ……そういえばそんな話だったかしら。ごめんなさいね、巻き込んじゃって。でもあの島にナマエ1人を置いていくわけにはいかないわよ」
「いえ、すみません。わたしこそ迷惑をお掛けして……。この次の島ではきっと降りるので」
「お前、なんか急いでんのか?」
「急いでるとかじゃなくて、その……申し訳なくて」
わたしの応えに首を傾げたルフィさんは「変なやつだなー」と口を窄めた。
そんなルフィさんを笑って誤魔化し、ふと顔を上げて進行方向に目を向けてみれば、視界がぼんやりと塞がれている。辺りに薄く霧が立ち込めているのだ。
「霧が出てきた。もうすぐ朝ね……船を岩場にぶつけないように気をつけなきゃね。あー追手から逃げられてよかった」
不意に聞き馴染みのない女声が頭上から降ってきた。
あれ。今この船に乗っている女性はわたしとナミさん、ウェンズデーさんだけのはずではなかっただろうか。でもその2人とも目の前にいるわけで……。
はっと気がついて咄嗟に声のした方へ顔を向ける。そこにいるのは見たことのない黒髪の女性だった。
「な!誰だ!?」
「さっきそこで……Mr.8に会ったわよ? ミス・ウェンズデー……」
「まさか……あんたがイガラムを……!」
ウェンズデーさんがごくりと息を飲む。
Mr.8というのは一体誰のことだろうか。あの王冠を被ってた人はたしか9だった気がするし。
何がどうなっているのかさっぱりわからないけれど、異様に緊迫した空気感から、よくないことが起こっているのは理解できた。
顔を青くするウェンズデーさんを見て、ミス・オールサンデーと呼ばれるその女性はクスと不敵に笑みを浮かべてみせるのだった。