9:かんげいのまち

「そこでおれはクールにこう言ったんだ……『海王類どもめ、おれの仲間に手を出すな!』」

 アルコールで頬に赤みを灯しながら得意げに嘘を吐くウソップさんに、町の女性達が「すてき、Cキャプテン・ウソップ」と黄色い歓声を上げる。わたしはそれを見て何度目かわからないため息を吐いた。

 ──双子岬を離れて船を進めることしばらく、わたし達は大きなサボテンの並ぶ、ウイスキーピークがある島へ辿り着いていた。
 ここへ連れてきてほしいと言った件の2人は島が見えて早々に自ら泳いで去ってしまい、結局わたし達だけでの上陸と相成った。
 「ようこそ"歓迎の町"へ」と持て囃される中、船を降りたわたし達を出迎えたのはウイスキーピークに住む住人達と町長のイガラッポイさんだ。"歓迎の町"というだけあってか、捕鯨の2人からは想像もつかないほどに町人達は皆揃って朗らかで親切そうだ。
 「もてなしがこの町の誇りだ」というイガラッポイさんに宴に招待されたルフィさん達は嬉々として二つ返事で了承した。
 そのタイミングでわたしは一味を離れ船の調達に向かおうと思ったのだけど、言い出すタイミングもないままにイガラッポイさんに強く押され、共に宴に参加することになったのだ。

 はあ、と再び浅く息を吐いた。
 目の前には多種多様な料理と酒が並べられているが、当然わたしにそれを食べる気力が湧くはずもなく。料理に囲まれるストレスで胃をキリキリと痛めながら、ただ淡々と過ぎていく時を待つだけだった。

「おや」

 そんな時、ふと声をかけてきたのは側を通りかかったイガラッポイさんだった。

「ちっとも召し上がっていないようだ。好みに合いませんでしたかね」
「あ……いえ、そういうわけではないんですけど。その……そう、実は少し体調が良くなくて」
「なんと……それは大変だ。確かに顔色があまり優れないようですね」

 体調が良くないというのは真っ赤な嘘だけれど、栄養不足による顔色の悪さのおかげでどうやらイガラッポイさんを出し抜くことができたようだ。騙すみたいで胸が痛むけれど、どうにかしてこの場から逃げ出してしまいたかったのだ。

 別室で休むことを提案してくれたイガラッポイさんに連れられ、わたしは宴から少し離れた小屋の一室に通された。

「今夜は賑やかですから少しは声も聞こえるようですが、ここならきっと落ち着いて休んでいただけるでしょう」
「ありがとうございます」
「では私は戻りますから、どうぞゆっくりお休みください」

 そう言って部屋を後にしたイガラッポイさんを見送り、ふうと小さく息をついた。
 彼の言う通り、遠くの方では騒ぐ声が賑々しく響き渡っているのがわかった。それはとても楽しそうで、わたしも一緒に楽しめればなあ、なんて残念に思う。
 宴から離れたここで過ごす間は何をしていようかと、何気なく並べられた本の中の1冊を手に取って開いた。パラパラとページをいくらかめくってみるものの、まるで頭に入る気がしない。脳に栄養が足りていないのだ。

「……いい加減、なんとかしないとなぁ……」

 ぽつりと呟きを漏らしながら、部屋の隅に置かれたベッドに身体を預けた。お日様の匂いのするシーツがなんだか心地良くて、薄らと目蓋を下ろせばわたしはそのまま意識をゆるりと手放していた。

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