夜の底、眠る歩道。そよ風が泣いていた。
白く遮られた視界に、ひどく目が眩む。
ぐるぐる、ぐるぐる。ふわふわ、ふわふわ。
温かな漣に飲まれて────。
ふと、お母さんの声が聞こえた気がした。
あれ、わたし、どうしてたんだっけ。
ぼんやりとしてうまく働かない頭を、そっと誰かが撫ぜたのを感じた。
誰だろう。お母さんかな。
随分と重たい目蓋をゆっくりとこじ開ける。
……ああ、やっぱり、お母さんだ。
いまいち開ききらない視界の中で、お母さんはわたしの顔を見ると驚いたように目を見開き、頬に一筋の涙を伝わせた。
お母さん、どうして泣いてるの?
わたしは今まで、どうしてたんだっけ。
頭がぼーっとして、よく思い出せない。
だけど、なんだかとても悲しくて、涙が溢れて、止まらなかった。
どうしてだろう。わからないけれど、とにかく、とにかく、悲しくて、仕方がなかったんだ。