なまえの元気がない。
試合前に話した時は、いつものなまえらしくなったかな…って思ったんだけど。
〈もうこんな事がないように、次の試合までには何とかします。〉
希望の欠片を探しに行った時、なまえはそう言って笑ってた。どこか悲しそうだった。
〈なまえ、俺に…〉
俺に出来ることはない?
元気が出せない理由があるなら、些細なことでもいいから話してみて、って言おうとしてやめた。
言えないから困ってるんだろうなって。
なまえは何も言ってないけど、これは俺の考えすぎでも無いはず。
サンドリアスで倒れて、それで誘拐されて戻って来てからずっとらしくなかったし。焦ってる、というか。きっとソウルの事だ。
ビックウェイブス戦からのなまえを最近は見れてない気がしてる。別に笑ってないわけじゃないし、葵達と居るときは確かに明るいんだけど―…。
何だろう。
なんていうか、何かが前と違うんだ。どこか遠慮しているっていうか、自信無さそうな感じに思えて。
〈サッカー、また好きに戻れた…?〉
ビックウェイブスとの試合後、そう聞いた時、確かになまえは言ったんだ、
〈はい…っ!〉
って、満面の笑顔で。その時の彼女の笑顔も、彼女には笑顔が1番似合うなぁって思った自分も、しっかりと覚えてる。
またあんなふうに笑って欲しいな。
そのために俺は何ができるかな。どうすればいい…かな…。
ねぇこんな時、君だったらどうする?、太陽…。キャプテンとして人として、恋人としても、俺はなまえに何をしてあげられるのかな。
*****
おばちゃんに預けていた4つの石、その正体を探るためのスキャン…の準備ができた、と聞いて俺は先頭車両に向かっていた。
この列車すごいよね。何でもできるんだなぁとか感心していたら、廊下でなまえとばったり会う。
「なまえ?」
「っ、天馬キャプテン…」
何故かバツの悪そうな顔をされた。ていうかここ、なまえの部屋じゃなくって監督の部屋だよね?
「監督と何か話してたの?」
って何気なく聞いたつもりだったのに、なまえにすごく慌てられた。なんでだろ…。
「あ、いや、ちょっとその…えっと…あ、ソウル。ソウルのことで」
「…違うよね?」
「…。」
間違いなく「ちょうどいい言い訳が見つかった!」って勢いでソウルの話題出したよね、うん。分かるよ。
まぁ、確かにソウルの事で話してた、って言うのも不自然ではないけど、この様子だと別の話をしていたみたいだ。
「どうしたの…?」
じっとなまえを見つめると、すぐに目を逸らされて、小さい声で、
「いえ、本当に何でもないので…」
と言われた。
そう言われると逆に気になるんだろうけどなぁ…本人は放っておいて欲しいからそう言ってるんだろうけど、気になるものは気になる。
俺じゃ踏み込んではいけない領域なのかな。
〈すき、です〉
ふと、告白した時のことが脳裏をよぎる。…俺に踏み込む権利はあるはず。
「なまえさ、誘拐された時、他に何かされなかった?」
「えっ、」
「ずっと元気無いよ」
問い詰めるように強く俺が言うと、なまえは口を閉ざす。何か言葉を選んでるみたいだ。
数秒後、彼女は微笑して見せた。
「心配してくれてありがとうございます。でも、記憶も戻ってるし何も問題ないです」
「…、」
「天馬キャプテンこそマドワシソウの…大丈夫、ですか」
「え、俺? 平気だよー」
「そうですか…良かったです。」
逆に俺が心配されてしまった。背中は傷まないし、昨日1日しっかり休んだからもう大丈夫だとは思う。たぶん。
これも何も、バンダがしっかりと手当してくれたおかげ…だな。感謝してもしきれない。
「あ、皆さんもう集まってますね」
「!」
なんて話してる間にあっという間に先頭車両に到着。
結局、なまえから何も聞けなかったな…。ふんわりと笑っていたけれど、元気が戻ったっていうよりも、上手く避けられた気分だ。
なまえ。すぐそばに居てくれるとそれだけで安心する。それは戦力的な意味でももちろんだし、俺の個人的な意味でもそう。
けど目を離すとすぐにどこかに行ってしまいそうで。守ってあげなくちゃ、てつい思っちゃうんだ、なまえを見てると。
*****
「へぇ…4つ並べると、なんか意味ありげな感じだなぁ…」
「すごく綺麗〜!」
うんうんと感心する鉄角に、うっとりと石を見つめるさくら。そんな全員の視線が集まる中で、おばちゃんが4つの希望の欠片を台に並べた。
「水川さん、分かる?」
「故に調べるの。」
やっぱり調べてみない事には何も分からないよね。
カトラが言ってくれたんだ…きっと大丈夫、と分かってても無駄に緊張する。
「それじゃ行くよ、スキャン開始!」
ぴ、とおばちゃんがボタンを押すと、4つの石が光りだす。
わぁ……。
それに目を奪われていると、急に部屋全体が赤く光り始めた。な、なんだ!?
「何が起きたの!?」
「不具合…でしょうか…」
「なんだか嫌な感じだね。」
「大丈夫なのか!?」
みんなが動揺する中、ギャラクシー号全体から「エラーが発生しました」、という電子音が鳴り響く。
「エラー!?」
「まずい、石の力が大きすぎてスキャンしきれなかったようだねぇ!」
「えぇ!? 蒲田さん、俺達どうすれば…っ」
って言ってるそばから列車が大きく傾く。ここ宇宙だよね!? 今まで大気圏に突入する時ぐらいしか、大きな振動は感じなかったのに、すごいグラグラ揺れている。酔いそうだ。
いや、もう酔うってレベルじゃない。
「み、みんな、危ないから椅子に座って!」
何にも捕まるものが無いから、揺れる列車の中であっちに行ったりこっちに行ったり、危ない。
俺の指示でみんなが慌てて席に付く。車掌席についたおばちゃんが、早口で説明をした。
「エラーが発生した場合、列車を製造した星に自動的に送還されるようになってるんだ!」
「えぇぇ!?」
「滅多なことじゃぁエラーは起きないからね…、宇宙空間で事故が起こる前に、星に戻されるよう設定されてるんだよ…」
「じゃあ俺達が向かってるのって、」
「…。」
つまり、故郷ってことだよね。
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