堕ちた先の世界 [ 15 ]
ルーシィは少し歩いた後、日が沈み完全な闇に包まれた森の中で進む方向を見失った。
手探りで木に凭れ掛かり、顔を膝の間に少し埋めるように座る。
(苦しい…寒い…怖い…。早く、朝が来て。)
荷物は全てグレイの所に置いてきてしまった。火をおこす事も服を重ねて着ることもできない。
いつも夜は、ナツの温かい体温を感じながら眠っていたルーシィ。
夜はこんなに寒かったんだと知り、ナツの体温を思い出して恋しくなる。
(ナツは…知っていたのかな…だからずっと寝るときは…)
ルーシィは寒さで震えが止まらない体を両腕でしっかりと抱く。
せめてナツが持っていた毛布があれば、いやあの炎があれば、いやナツがいれば…そう考えてまたルーシィの心がずきんと痛んだ。
(…もうナツのことを考えちゃだめ!今頃ナツは、リサーナと…)
そう考えて、また胸が苦しくなる。
今更気付いてしまった自分の気持ちに苛立ちを感じ、ルーシィは唇を噛んだ。
(こんな気持ち、気付きたくなかった、早く、忘れたい…!)
体は疲れているのに眠気がまったく来ない。
ルーシィは早く時間が過ぎることだけを、ただひたすらに願った。
それから、どのくらい時間が経ったのか。
永遠に続くのかと思うような苦しい時間を越て、ルーシィはずっと眠れずにいた。
現実から目を背けるように堅く瞑っていた目をふと開けてみる。
何も見えない闇の世界が、僅かに色薄く変化していた。
ルーシィは、疲れがとれず重いままの体を木に寄りかかりながら起こす。
僅かに近くにある木の存在を確認できる程度の薄明るさで、まだ闇に近い暗さの中、それでも早く温かい場所に移動したくて歩き始める。
(早く…朝になって)
葉が風で擦れる音と虫の声が聞こえる。
その中をルーシィは冷え切った体を両手で擦りながら、彷徨うように歩いていた。
すると突然、遥か遠くからこちらに向かってくるガサガサと草を踏み分ける音が聞こえてきた。
(え?…獣?モンスター?…森バルカン?)
ルーシィは、なるべく音を立てないように走り出す。
しかし距離を引き離そうとすればするほど、距離が縮まっていく。確実にこちらに向かってきている。音が近付いてくる。
ルーシィは慌てて走る速度を上げる。すると前方に大きな狼が数匹、…遭遇してしまった。
「グルルルル…」
静かに威嚇の音を漏らし道を遮る狼達に、ルーシィは拡散させようと鞭を振り下ろす。
何度か鞭を振り下ろし、狼達の間に僅かに開いた隙間を擦り抜けてそれ以上は攻撃せずにルーシィは再び走り出した。
なぜか狼よりも後ろからじわじわと追ってくる音の方が怖い。
手にした鞭をそのままに、夢中で逃げようと走り続けるルーシィ。
その後を狼が数匹、追いかけてきた。
(あぁもう最悪!アンタ達に構ってる余裕ないんだってば!)
ルーシィは鍵に手を触れる。触れた途端に処女宮の星霊の悲しそうに見えた表情を思い出し、胸が痛くなって手を離した。
――キャィンッ!
後方から突然、狼の悲鳴が一つ。
――キャィンッ!
――――ギャッ!!
また一つ。もう一つ。
ルーシィを追ってくる数匹の狼の悲鳴が次々に聞こえてくる。
その音が徐々に近付いてくると狼を殴るような生々しい破壊音までが聞こえてきた。
そして続く狼の悲鳴。
(何……何なの……!すごく怖い!)
ルーシィは、パニックになりながらまだ数メートル先しか見えない暗い森の中を全力で走り続けた。
小川に足を取られそうになったり、小石が何度か邪魔をして、なかなか距離を引き離せない。
それでも恐怖からか、ルーシィはいつも以上に速いスピードで走り続けていた。
走る毎に腕がチリチリと痛み始める。と同時に、体が疲れを訴えてきた。
(あ……いつものが、きた…)
ルーシィは腕の火傷のせいか、疲れやすい体になっている。
いつもならここですぐに休憩して、その時に宝瓶宮の星霊がくれた水を火傷している腕に塗りこむことで少し回復していたのだが。
(水…ナツが持ったままだ…)
ナツは決してその水が入った瓶をルーシィに渡さず、自分の手で何度もルーシィに塗ってくれていた。
このまま塗らずに放って置くと、どうなるのか。
ルーシィは最初に倒れた時のことを思い出した。
(お願い!…もうちょっと我慢して!)
ルーシィは言い聞かせるように自分の腕を擦る。ここで倒れては追いつかれる。
その時、ルーシィは、前を見ていなかった。
「っ!?」
足場がない。と同時に体が落下を始める。
崖に気付かず足を踏み入れてしまったルーシィ。
背中や足を擦りながら何も見えない闇の底へと、落ちていく。
(っ怖い!………誰か!!!)
暗くて底が見えない。深さがわからない。
どこまで落ちるのか、ルーシィは恐怖で縋るように腕を上へと伸ばした。
その腕を、痛いくらいに強く掴まれる感覚が走る。
痛いと思った瞬間、ルーシィの体が強く捕えられた。
そしてすぐにルーシィの体を引き摺っていた壁から引き離される感覚と、空中に投げ出された後にくる完全な浮遊感が体を襲う。
ルーシィは何が起こっているのかわからないまま、ルーシィの体を強く抱く何かに縋りついていた。
葉と木の枝が次々に折れていく衝撃と音が響く。
そこでやっと、ルーシィは葉と枝のクッションで落下する衝撃を緩めようと、崖の下にあった木の中に投げ出されたんだと感づく。
(助けようと、してくれてる?誰?)
目を開けてみても落下していく衝撃と暗闇で、折れて飛び散る葉と枝しか確認できない。
そう思った直後、ルーシィの体が地面に強く叩きつけられた。
「いっ!…たぁ………」
どこが痛いのかはっきりわからないが、体のそこら中が痛い。
でも、とりあえずは生きている。そのことに安堵し、助けてくれた誰かを確認しようと体を起こした。
「…!?」
闇に揺らめく炎。まだすぐ近くにある木々の存在しか確認することができない暗い森の中が、一気に明るくなっていく。
ルーシィは自分の目を疑った。気を失って夢でも見ているのかと。
「……ナツ?」
折れて地面に散らばった葉や木の枝に炎が燃え移っていく。
ルーシィの目の前には、体からゆらゆらと炎を立ち昇らせ、ルーシィをきつく睨む、ナツがいた。
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