堕ちた先の世界 [ 14 ]
「…っ!?ルーシィ!」
グレイの手を強く振り払ったルーシィは、今度こそ鞭を手にして、評議院の者がいた場所へ戻ろうと走り出す。
鍵は…使えない。できればこんなことに使いたくない。でも、評議院の彼らは訓練されているはず、使う必要が、あるかもしれない。
「ウォーターロック!!」
「…!?」
鍵に手を触れる瞬間、ルーシィの視界が水に包まれる。
体の自由が奪われ、ルーシィはもがく様に水をかいた。
「…ジュビア!助かった!」
「グレイ様!ルーシィを見つけたんですね!」
ルーシィは水の層を隔てた向こう側で、ジュビアが慌てて何か筒状の物をグレイに手渡すのを見た。
あれは…信号弾だ。
「…け!……の扉!」
「!?……ジュビア下がれ!」
「アクエ…ス!!」
水の中から微かに聞こえるくぐもったルーシィの声と魔力の流れを感じ、グレイは咄嗟にジュビアを背に庇った。
背に庇われるジュビアが一瞬、頬を染める。
それを見たルーシィは、なぜかナツとリサーナが手を取り合っていた光景を思い出し、胸が締め付けられてズキンと痛く響くのを感じた。
(………あぁ、そっか。)
(私、いつのまにかナツのことが、好き、だったんだ………)
水の層を隔てても、異界の門が開く独特の音と風圧がグレイの元に届いた。
この肌に感じる魔力の量。ルーシィは、本気で来る。
そう思った瞬間、ジュビアの魔力で張られた水の層が鋭い波へと形を変えて襲い掛かってきた。
「っ!……やめろルーシィーー!」
襲い掛かる波をグレイは一気に凍らせていく。本気でくるなら本気で返す。
グレイは波を凍りつかせながら、さらにルーシィを閉じ込めるように、ルーシィと自分達の周りに高く高く氷の壁を積み上げていく。
「ルーシィ!聞け!俺たちは……」
「開け処女宮の扉!」
「っ…!?やめろって!」
「バルゴ!!」
「アイスメイクフロア!」
同時に発動した魔法。
地面に張られる氷の層が完全となる前に処女宮の星霊が下から氷ごと突き破って現れた。
「…アイスメイク、飛爪!」
間髪いれずに星霊もろともルーシィを捕まえようとグレイが氷の鎖を放つ。
しかしそれが届く前に、処女宮の星霊がルーシィを抱きかかえて穴の中へと、消えた。
「グレイ様!追いましょう!」
ジュビアが慌てて穴へ駆け寄り、深さを確認しながらグレイに向けて叫ぶ。
グレイは、周りに張り巡らせた氷の壁を消滅させながら、悔しそうに顔を歪ませていた。
「いや……エルザ達と合流するぞ。」
グレイは片手に持つ信号弾を高く空へと突き上げた。
「…姫。」
「何も言わないでお願い。」
咄嗟にルーシィはバルゴに誰もいないところにと頼み、辿り着いたのは木々が生い茂る森の中だった。
ルーシィは、バルゴに連れられ穴から地面に足をつけた途端、体の力が抜けてしゃがみ込んでいた。
喋らなかったはずのナツが、リサーナに対しては喋っていたこと。
ナツを守るはずが、評議院を引き寄せてしまっていたこと。
ナツを想う自分の気持ちに、気付いてしまったこと。
グレイとジュビアに、攻撃してしまったこと。
全てのことが、ルーシィの頭の中で重く、グルグルと駆け巡っていく。
「バルゴ……私まだ心のどこかで、いつかフェアリーテイルに戻りたいって思っていたのかな…」
「……」
「でも、もう、戻りたくても戻れないよね……」
「姫…」
「ナツにも、もう会えない。ずっと一緒にいるって約束したのに、守れなかった…なのにどうして今更、好きって気付いてしまったんだろ。」
「…姫、そろそろ時間です、星霊界に戻ります。」
バルゴの言葉にルーシィは俯いていた顔を上げる。
処女宮の星霊のいつもの無表情の顔が、ひどく悲しそうに見えた。そのまま何も言わず処女宮の星霊は、消えていく。
かつての仲間を傷つけてでもと、思いながら星霊魔法を使ってしまった。
フェアリーテイルが好きとか、仲間が大事だとか、星霊は友達だと…言ってきたのに。
星霊は、ルーシィに幻滅しただろうか。
「バルゴ…ごめん。何やってんだろ…私。」
ルーシィはひどく重い体をゆっくり持ち上げて立ち上がる。
上を見上げると、木々の深い緑の隙間から紅く色が変わっていく空が見えた。
逃げるようにナツの元から去ってしまった罪悪感が広がる。
最後にナツのためにできることがしたかった。
評議院がいるところに行きたいけれど、ここがどこだかわからない。
心も体もひどく疲れて、もう力が出ない。
(これから、どこに行こう……)
フェアリーテイルには戻れない。ナツの所にも。
ルーシィは、呆然と空を見上げ続ける。
するとふと、緑の隙間から見える狭い空の中に青い鳥が飛んでいるのを見つけた。
遥か向こう、空高く飛ぶ青い鳥を見て、ルーシィは思い出した。
幸せの青い鳥。兄妹がどんなに遠く探しに行っても見つからない。
諦めて帰れば、すぐ近くで見つかる。でも、その後青い鳥は飛び去ってしまった。
幸せは、簡単には手に入らない。
幸せは、身近にありすぎて気付かない。
そして、永遠に幸せでいることは叶わない。
幸せを見つけても、突然失ってしまうことがある。
それを繋ぎ止めるためにがんばっても終わりはいつか、やってくる。
「私フェアリーテイルに入れて、皆と会えて、ナツと一緒にいれて……今まですごく幸せだった。幸せだったから…もう、いいよ。」
急速に日が傾き、森の中はどんどん暗くなっていく。
ルーシィは幸せだった頃の思い出を胸に、暗い道に足を踏み出した。
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